遺留分の額は「被相続人の財産の総額」と「遺留分の割合」で決まる
遺留分とは、法定相続人に最低限保障される遺産の取得分です。
遺言や遺産分割協議の内容が不公平なとき、遺留分侵害額請求をおこなうことで一定の相続財産を取り返せます。
つまり、遺留分は遺言や遺産分割協議よりも優先される強い権利といえるのです。
そして、遺留分の額は「被相続人の財産の総額」に「遺留分の割合」を乗じて計算します。
遺留分の対象となる「被相続人の財産」の範囲
遺留分の対象となる財産の額は、相続開始のときに残された相続財産のすべてに、被相続人が生前に贈与した財産を加え、そこから負債総額を差し引いたものです。
民法1043条
遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。
2 条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定める。出典:e-Govリンク「民法1043条」
「被相続人が生前に贈与した財産」とは、具体的に下記を指します。
- 相続開始前の1年間になされた贈与
- 相続人に対する10年以内の贈与(特別受益に該当する場合)
- 贈与の当事者双方が「遺留分権を侵害する」と知りつつおこなわれた贈与
例えば、被相続人が「50万円の現金、300万円の不動産、200万円の借金」を残して亡くなったとします。
また、死亡する5年前に、住宅購入資金の援助として100万円を長男に贈与していた場合、遺留分の基礎となる財産総額は下記のとおりです。
50万円+300万円+100万円-200万円=250万円
遺留分は法定相続分の「1/3」もしくは「1/2」
遺留分の割合は、それぞれの法定相続分に下記の割合を乗じたものとなります。
- 直系尊属(父母・祖父母)のみが相続人となる場合:1/3
- 上記以外の相続の場合:1/2
例えば、相続人が「配偶者と子供2人」というケースで考えましょう。このケースでの法定相続分は「配偶者は1/2、子供は1/2÷人数」です。
すると、遺留分は下記のようになります。
配偶者・・・1/2×1/2=1/4
子供A・・・(1/2÷2)×1/2=1/8
子供B・・・(1/2÷2)×1/2=1/8
配偶者は相続財産の1/4、子供は相続財産の1/4まで遺留分が認められます。
法定相続分は、相続人の組み合わせによって下記のとおり異なります。
相続人 |
配偶者の遺留分 |
子供の遺留分 |
直系尊属の遺留分 |
配偶者のみ |
1/1 |
- |
- |
配偶者と子供 |
1/2 |
1/2 |
- |
配偶者と直系尊属 |
2/3 |
- |
1/3 |
子供のみ |
- |
1/1 |
- |
直系尊属のみ |
- |
- |
1/1 |
参照:e-Govリンク「民法1042条」
遺留分が認められない相続人
下記の相続人には、遺留分が認められません。
- 被相続人の兄弟姉妹
- 相続放棄の意思表示をした相続人
- 相続欠格とされた相続人
- 相続から廃除されている相続人
兄弟姉妹は法定相続人ですが、遺留分は認められないので注意しましょう。
遺留分を算定するときは「相続開始時点の価格」が基準
遺留分を算定するとき、不動産評価は相続開始時の価格が基準となります。
したがって、生前に贈与があった場合、不動産価格の換算が必要です。
贈与から相続開始までに不動産の価値が下がっていれば、請求できる遺留分も少なくなってしまいます。
一方、贈与から相続開始までに不動産の価値が上がっていれば、結果的に請求できる遺留分も増加します。
例えば、ある相続人の遺留分が1/4だとしましょう。
被相続人が生前に贈与をおこなったときの不動産が3,000万円で、相続発生まで価格が変わらなければ、遺留分は「3,000万円×1/4=750万円」です。
しかし、不動産が2,000万円まで下がっていたとすると、遺留分の価額は「2,000万円×1/4=500万円」です。
一方、不動産が4,000万円まで値上がりしていれば「4,000万円×1/4=1,000万円」となり、請求できる金額が増加します。
不動産評価額の変動で遺留分侵害の有無も変わる例
遺産のすべてが現金・預金であれば、遺留分の算出も簡単です。有価証券の場合も、市場価格というわかりやすい基準があるので算定は比較的容易といえます。
しかし、不動産評価額の変動次第で、遺留分侵害の有無も変わることがあるのです。
例えば「遺産が不動産のみ」「相続人が子共2人」「遺言書でAには400万円、Bには残額を相続させると指定」といったケースでは、不動産の評価額によって以下のように違いが生じます。
・不動産の評価額が1,400万円のときの遺留分額=1,400万円×1/4=350万円
・不動産の評価額が1,800万円のときの遺留分額=1,800万円×1/4=450万円
不動産評価額が1,400万円の場合、Aの遺留分は侵害されません。遺言によって、遺留分より50万円多い金額をもらえるからです。
一方、不動産評価額が1,800万円であったときは、50万円の遺留分侵害が発生します。
相続における不動産の評価方法の種類
遺留分の対象となる不動産の価格は、適切かつ公平な方法で評価することが重要です。
そして、遺留分の評価は以下4つの基準で決められます。
- 固定資産税評価額
- 路線価
- 地価公示価格・地価調査標準価格
- 実勢価格
以下の項目から、詳しく見ていきましょう。
評価方法1.固定資産税評価額
固定資産税評価額は、名前のとおり、不動産の固定資産税額を算出するために用いられる不動産の評価額です。
遺留分の基礎財産のうち、建物の評価は固定資産税評価額を基準にします。
固定資産税評価額は、次の方法で確認できます。
・市町村から送付される課税明細書
・固定資産税評価証明書(市町村・都税事務所で入手可能)
・市町村が備えている固定資産課税台帳
評価方法2.路線価
路線価は、相続税や贈与税の課税額を算出するために用いられる基準です。
路線価は道路ごとに設定され、その道路に面する土地の面積(1㎡)当たりの価格を表します。
毎年1月1日の土地の価格が夏頃に発表され、国税庁のWebサイトで確認できます。
参照:国税庁「路線価図・評価倍率表」
評価方法3.地価公示価格・地価調査標準価格
地価公示価格とは、国土交通省が公表している毎年1月1日時点での土地の価格のことです。単純に地価、公示価格とよばれることもあります。
地価公示価格は、2人以上の不動産鑑定士による鑑定評価の結果です。国土交通省の土地鑑定委員会が審査した上で決定されます。
地価調査標準価格は、都道府県が毎年7月1日に調査を行ったときの土地の価格です。
評価基準は地価公示価格とほぼ同じですが、地価公示価格とは異なる地域を調査したり、時期をずらしたりすることで、補完的な役割を担っています。
参照:国土交通省「地価公示・都道府県地価調査」
評価方法4.実勢価格
実勢価格とは、不動産の実際の取引価格を指します。
「市場で実際に取引が成立した価格」なので、統一された基準はありません。
国土交通省の「不動産取引価格情報検索」を使えば、過去の実勢価格を調べられます。ただし、このサイトもすべての不動産取引を網羅しているわけではないので注意しましょう。
参照:国土交通省「不動産取引価格情報検索」
不動産の評価額について合意できないときの対処
相続不動産において遺留分侵害額請求を進めるには、他の相続人や受贈者(贈与や遺贈を受けた人)と不動産の評価額に合意しなければいけません。
しかし、請求をされる側は少しでも請求額を下げたいのが普通です。そのため、不動産評価額で折り合いがつかないケースもあるでしょう。
意見が対立した場合、下記の方法を使って請求をスムーズに進めましょう。
- 不動産鑑定士に鑑定してもらう
- 弁護士に相談する
- 裁判所を利用する
【対処1】不動産鑑定士に鑑定してもらう
不動産の評価方法・評価額について当事者間で合意ができないという場合には、利害関係にない第三者に鑑定してもらいとよいでしょう。
とくに、国家資格である不動産鑑定士に鑑定してもらえば、公平で正当な資産価値がわかります。
ただし、不動産鑑定士の鑑定結果と、市場の価格相場は異なるケースもあるので注意しましょう。
【対処2】弁護士に相談する
相続では、当事者同士では感情的になってしまい、話し合いが進まないというケースが珍しくありません。
そのため、弁護士に相談して法律的な観点からアドバイスをもらい、必要であれば交渉も代行してもらうとよいでしょう。
弁護士なら、相続に関する手続き全般の代行も可能です。遺留分や相続に関して疑問や不安があれば、なるべく早いうちに弁護士へ相談することをおすすめします。
【対処3】裁判所を利用する
「当事者間の話し合いでは遺留分額の合意が得られない」というときには、裁判所で調停や訴訟を申し立てましょう。
遺留分に関する調停は「相手方の住所地」を管轄する家庭裁判所でおこないます。ただし、当事者間で合意があれば別の家庭裁判所でも可能です。
調停で和解できない場合、訴訟の申し立てが可能になります。相手方の住所地を管轄する「簡易裁判所もしくは地方裁判所」に訴状を提出しましょう。
訴訟の場合には、最終的には裁判官が判決によって遺留分侵害額を判断します。自分の請求どおりに遺留分が認められるとは限らないので注意しましょう。
まとめ
遺留分を算定するとき、相続財産のなかに不動産があれば慎重な対応が必要です。不動産評価によっては、遺留分侵害の有無も変わってしまうからです。
十分な知識がないままに不動産の評価を行えば、遺留分が認められず損をする可能性もあります。
遺留分侵害額請求をおこなうときは、弁護士と相談しつつ適切な対処を取りましょう。
遺留分侵害額請求についてよくある質問
遺留分とはなんですか?法定相続分との違いは?
遺留分とは、相続において各相続人が最低限もらえる取り分です。法定相続分は「法律で定めた遺産分割の目安」であり、遺言で異なる割合を指定しても問題ありません。しかし、遺留分は必ずもらえる取り分であり、被相続人の遺言でも無視することはできません。
遺留分侵害額請求とはなんですか?
遺留分を無視した遺産分割がおこなわれた際、自分が本来もらえるはずの取り分を請求することをいいます。他相続人はもちろん、死因贈与(法定相続人以外が遺言によって相続を受けること)や生前贈与の受贈者も対象となります。
遺留分侵害額請求に期限はありますか?
相続の開始および遺留分の侵害となる行為を認識したときから、1年間で時効が成立します。また、相続の開始や遺留分の侵害行為を知らない状態でも、相続開始から10年間が経過すると同じく時効成立となってしまいます。
遺留分侵害額請求は、どのようにおこなえばよいですか?
まずは相手方と話し合いをおこないましょう。話し合いですぐに和解できない場合は、内容証明郵便を送ることで時効成立をストップできます。その後は家庭裁判所へ訴えて、調停や訴訟に進むことが可能です。
遺留分侵害額請求において、相手方と不動産の評価額で揉めています。
弁護士に相談してアドバイスをもらったり、不動産鑑定士に不動産の価格を鑑定してもらいましょう。また、調停や訴訟を利用する方法もあります。
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