
現行の法律では、登記(土地の所有者登録)は任意でおこなわれます。ですので、登記をせず放置してしまった結果「所有者不明の土地が増加」しています。
共有者の一部が不明で売却ができない人や、登記されていな土地を使用している人は
「登記されていない土地は売却できない?」
「一部の所有者が不明な場合、どう売却すればいい?」
といった疑問に悩まされる方も多くいると思います。
そこで、この記事では「所有者不明(登記されていない)土地を売却したい人」のために不動産専門家の観点から、あなたの疑問やお悩みを解決します。
具体的には
・所有者不明の土地でも売却できるケース
・所有者の一部が不明な場合の売却方法
など、わかりやすく解説していきます。
この記事を読めば、所有者不明の土地を売却する方法を理解できるので、ぜひ参考にしてみてください。
また、所有者不明の土地が生まれる理由も解説しています。
所有者不明の土地が生まれる理由
なぜ正常に登記されていない所有者不明の土地が生まれるのでしょうか。
現行の法律では「登記は義務ではなく任意」と決められています。
これが所有者不明の土地を生む、大きな原因だといえます。
登記を任意にしていると、以下のように登記せずに土地をもつ所有者が現れてしまうからです。
「土地を相続したけれど管理の手間がかかるため相続登記したくない」
「登記における登録免許税が高額で払えない」
「死に地」は売れないため放置されやすい
価値の高い土地であれば、相続後に売却することも難しくはありません。
しかし、地方の土地などの活用できない、いわゆる「死に地」と呼ばれる物件の場合、所有しているだけで損失を生みます。
そのため、登記申請自体を放棄・放置する人も多く、相続人などがそのまま死去してしまうなどで誰も扱えない所有者不明の土地が生まれてしまうのです。
また、登記申請で登記簿を正常に更新しない場合、所有権があることを相続人本人たちも知らずに、国も所有者を明確に把握できないケースもあります。
相続登記未登記は長期間表面化されない
土地は相続登記によって相続人に引き継いでいくことが一般的です。
しかし、未登記のまま放置しても普通に生活する分には不都合はなく、名義を変えなくても、納税通知書の送り先を指定して税金の支払いもできます。
そのため、未登記による問題が表面化せずに長期間放置、そのまま所有者不明の土地となってしまうケースが多いです。
相続登記の義務化が検討されている
所有者不明の土地問題に対して、政府は相続登記の義務化も検討しています。
これまで任意とされてきた不動産登記ですが、法律上義務化することで変則型登記を減らそうという目的です。
登記を義務化を目指して、相続登記自体をしやすくすることや登記所が他公的機関から死亡情報を取得して更新するなど、さまざまな方策が検討されています。
共有物件も見直される方針
共有物件において一部の共有者が不明の場合についても、制度の見直しが考えられています。
共有している土地などを一筆で売却する場合など、基本的には共有者全員の同意が必要です。
しかし、一部の共有者が不明の場合、同意を取ることが困難になります。
こうした制度を見直し、判明している共有者だけの同意で土地利用できるようにする方策も検討されています。
国や自治体が所有者不明の土地を再活用できるようになれば、道路のインフラ整備や防災対策、住民の生活環境がより良いものになっていくことでしょう。
相続による所有者不明の土地が増加する
今後は少子高齢化によって、土地などを相続する機会が増えることが予想されます。
正常に相続されればよいですが、所得の低い世代では固定資産税や登録免許税を負担できないため、そのまま登記せずに放置してしまうことも考えられます。
地方にある土地は相続する人自体がいないなど、人口減少が進んでおり、自治体の組織力も大きくありません。
いずれ北海道全土の面積相当に拡大
田舎の山林や不整形地なども含め、所有者不明の土地は2016年時点で九州全土の面積を上回る約410万ヘクタールあると推計されています。
さらに2040年には、北海道全土に相当する約780万ヘクタールにまで拡大する可能性があるとされています。
所有者不明の土地が増えていくことで、住民の生活環境にも影響が出てくるでしょう。
土地を活用できる人はきちんと登記をして、所有権の所在を明確にしておくことが重要です。
その上で、売却や譲渡などを検討することが大切でしょう。
参照:内閣官房ホームページ「所有者不明土地問題研究会最終報告概要」
所有者不明の土地が売却可能になる
全国各地で問題とされている所有者不明の土地を含め、財産となりうるものは財産権の面において絶対的な保護を受けます。
そのため所有者が不明であっても、国や自治体はその物件に手を出せませんでした。
しかし、所有者不明の土地による弊害を問題視した政府は「所有者不明の土地を一定の条件で売却できるようにする」法案を2019年2月22日に閣議決定しました。
参照:参議院「表題部所有者不明土地の登記及び管理の適正化に関する法律案」26ページ
売却可能の対象は「変則型登記」の土地
可決された法案では、所有者不明の土地の中でも「変則型登記の土地」を売却可能としました。
まず、不動産を所有すると一般的に財産所有者の権利を守るために登記(法務局の登記官が登記簿に情報を記録)をします。
登記記録は以下の2つに分けて作成されます。
・表題部(土地や建物の状況が記載されている部分)
・権利部(権利関係を記載した部分)
この表題部分に、所有者の情報(土地であれば、所在、地番、地目、地積など)が記録されていないものが変則型登記の土地、いわゆる「所有者不明の土地」です。
相続後に登記されないまま引き継がれる土地は、年数が経過していくうちに不動産登記簿上の所有者が変則的になります。(記載情報に空白部分があるなど)
これが変則型登記と呼ばれる所以でもあり、相続した人の中で結局誰が現存する所有者に該当するのか探すこと自体も難しいです。
所有者不明の土地を売却する方法
所有者不明の土地で困っているケースとして「共有者の一部が不明で売却ができない」などが考えられます。
また、共有者と連絡が取れなくなったり、全く知らない共有者が死亡して誰かに相続されていたなど、知らないうちに共有関係が複雑化してしまうことも少なくありません。
そうした場合、所有者不明の土地を売却する方法を説明していきます。
※今回は共有物件において一部の共有者が不明であるというケースを中心として説明します。
まずは登記事項証明書で関係者を確認
登記事項証明書は登記記録事項の全部もしくは一部を証明する書類で、所有者の住所や氏名、抵当権の設定などさまざまな情報が記載されています。
また「過去の所有者がどういった理由でいつ登記したのか」や「共有者は誰なのか」なども分かるので、登記事項証明書は必ず確認しましょう。
登記事項証明書は「登記所」・「法務局証明サービスセンター窓口」・「郵送」・「オンラインサービス」などで交付請求できます。
参照:法務局「不動産登記の登記事項証明書等の様式が変更されます!」
所有者の関係者や相続人を探す
登記事項証明書等を確認しても、所有者が判明しないケースもあります。
前述したとおり、登記自体は任意なので、そもそも登記していなければ登記事項証明書等に記載されていません。
その場合、所有者を住民票や戸籍から調べるしかありません。
また、所有者の関係者や相続人などを辿ると判明するケースもあります。
調査しても所有者がわからない場合、不在者財産管理人の選任申立てをおこないましょう。
不明のままなら不在者財産管理人を選任
不在者財産管理人は、行方不明の所有者の代わりに遺産分割や不動産売却ができます。
そのため、共有者の一部が行方不明でも、不在者財産管理人を選任すれば所有者不明の土地を売却可能です。
※この記事では、不在者のことをわかりやすく行方不明の所有者と称します。(以降、行方不明の所有者)
不在者財産管理人の選任方法と条件
行方不明の所有者の共有者や相続人、配偶者のいずれかが家庭裁判所へ申立てすると不在者財産管理人が選任されます。
その際、申立書に不在者財産管理人の候補となる人を記述できますが、財産管理がしっかりできるかどうかや、行方不明の所有者との利害関係なども考慮して選任されます。
ちなみに、弁護士や司法書士などの士業専門家を候補とすることも可能です。
ただし、報酬費用などが場合もあるため、不在者財産管理人の選任は慎重におこないましょう。
参照:裁判所「不在者財産管理人選任」
所有者不明の土地を減らす対策
所有者不明の土地の原因となる変則型登記を解消する対策として、政府や自治体がさまざまな土地の活用方法を検討しています。
「共有関係を解消する方策」や「近隣の土地所有者が管理不足の土地を改善できる方策」など正式名称は決まっていませんが、将来的に政府主体で推進される方策がいくつか明言されています。
また現在では、所有者不明となること自体を未然に防ぐ、対策・物件活用を実行している地域も少なくありません。
売主買主のマッチングサービス
物件が売れない場合や自治体が引き取ってくれずに無料でも手放せないなどの場合、その物件は空き地として放置されてしまう恐れがあります。
そこで、ある地域では自治体と地域住民が連携して「空き家・空き地バンク」などのサービスを展開し空き家・空き地・放置物件の解消を図っています。
かんたんに説明すると、空き家・空き地の情報をデータベース化して、欲しい人にその情報を提供する売主と買主をマッチングするサービスです。
空き家・空き地を手放したい人・欲しい人がサービスの利用登録をおこない、橋渡し的な意味でマッチングさせるシステムを作ることで、さらなる空き家の二次的活用を目的としています。
空き家・空き地管理の受託事業
物件を相続したけれど遠方にあって定期的な管理が難しい、高齢になって日々の点検ができないなどの人のために、「空き家・空き地の点検や管理を引き受けるサービス」もあります。
事業ごとに名称が異なりますが、月々に一定額を支払うことで、空き地の除草や手入れ、空き家内部・外部の清掃などを代行してくれるサービスです。
第三者による定期的な物件管理によって、放置されてそのまま所有者が不明になる事態を防げます。
所有者不明の土地を時効で取得できる
相続した土地を長年使用しており、後々になって隣地の一部も混ざっていたことが判明するケースもあります。
この場合、隣地所有者が存命しており、所在がはっきりと分かるのであれば、返還するか譲渡してもらいますが、所有者が不明になっている場合は「所有権の時効取得」によってその土地を取得できる可能性があります。
所有権の時効取得とは
所有権の時効取得とは、民法で定められている物の占有期間と権利取得に関する法律です。
わかりやすく説明すると「他人の所有物であっても、一定期間占有することによって所有権を得ることが認められる」という法律です。
この占有に関する期間や条件は、以下のように定められています。
条件:所有の意思を持ち、平穏かつ公然として占有していたこと
時効取得は占有者の意思や過失も関わってくるため、民法では以下の2点によって時効取得を主張できるまでの期間が変わります。
「占有が善意かそうでないのか」
「占有に過失が有るのか無過失なのか」
参照:総務省 行政手続のオンライン利用の推進「民法 第162条 所有権の取得時効」
占有が善意で無過失の場合は10年
「占有が善意?無過失って何?」と疑問に思う人も多いでしょう。
まず、善意とは「自身にその土地の所有権があることを、当然として思っていた」などの意思です。
例えば「他人の土地であることを知らずに相続して純粋に自分の土地だと思っていた」ような原因で占有しており「他人の土地だと知っていて奪う」などの過失も一切無いケースが該当します。
この場合、占有期間が10年で時効取得が成立すると考えられます。
占有が悪意で有過失の場合は20年
占有が悪意である場合は時効取得できないと思いがちですが、悪意によるものであっても時効取得は成立する可能性があります。
悪意による時効取得の条件は、以下のとおりです。
「20年以上の占有期間がある」
「時効完成時点で所有権が自身にあることを主張(時効の援用)する必要がある」
つまり、他人の土地であることを知っていて占有していた場合は「悪意による占有」になりますが、道徳的な悪・善とは異なる意味になるため注意しましょう。
例えば、隣地所有者から無償で土地を借りていた場合などを想像するとわかりやすいかもしれません。
逆に、道徳的な悪意を持った不法占拠であっても、20年以上も占有が続いた場合は占有者の時効取得が認められる可能性もあります。
所有者が不明の土地であれば時効取得の訴訟時(時効援用時)に被告が存在しないため、そのまま占有者の土地になることもあります。
まとめ
これまで所有者不明の土地は、個人はもちろん国や自治体でも扱えないとされてきました。
空き家や空き地が放置されると、近隣住民の普段の生活に害を及ぼすだけではなく、災害時の被害拡大、復旧作業の停滞など地域全体の問題になります。
しかし近年、法整備や空き家・空き地バンク、物件管理受託事業などの地域サービスによって土地問題を解消する流れが進んでいます。
将来的には、時効取得などの法律もうまく機能することで、所有者不明の土地が国や地域の発展につながるかもしれません。
そのためにはまず、土地の所有者がきちんと相続登記などをおこなって、所有者不明の土地を減らしていくことが大切でしょう。