任意売却とは、住宅ローンが残っている物件を、債権者の承諾を得て売却する方法です。基本的に、滞納による差し押さえ・競売を回避するために行います。
債権者の承諾が必要なこと以外、通常の売却と同じように売却できます。しかし、実際はいくつかのデメリットがあるため、市場価格の8割~9割程度まで安くなるといわれます。
任意売却の目的は「住宅ローン返済に充てる資金を期間内(競売前まで)に捻出すること」なので、速やかに売買が成立しつつ、債権者から承諾を得られる価格で売り出さなければいけません。
そのため、査定を依頼するときは「任意売却専門の不動産会社」に相談しましょう。専門業者であれば、豊富な知識や実績から適切な価格を査定してくれます。
この記事では、任意売却の価格相場や競売との違い、査定方法について解説しています。任意売却における価格の決め方を把握して、適正価格で売却できるようにしましょう。
任意売却における売却価格の相場
任意売却は、通常の不動産売却と同じように市場価格での取引が可能です。ただし、任意売却物件は通常物件と比べてリスクがあるので、実際には市場価格の8割~9割程度が多くなります。
一方、競売になると市場価格の5~7割程度で落札されるので、競売より任意売却のほうが高く売却できます。
売却方法 | 売却価格の相場 |
---|---|
通常不動産 | 市場価格 |
任意売却 | 市場価格の8~9割程度が相場 |
競売 | 市場価格の5~7割程度が相場 |
任意売却で価格を決めるときは、通常売却と同じように査定を行います。物件そのものの評価額を算出したうえで、市場価格や細かい売買条件などを考慮し、債権者や買主と交渉するのが基本的な流れです。
通常不動産売却よりも売却価格が低くなりがち
任意売却物件には下記のようなデメリットがあるため、価格をある程度下げなければ売却が難しくなります。
売却期間が短い | 競売の入札開始前までに売る必要があるため、売主を選ぶ余裕がない。 |
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契約不適合責任が免責になる | 任意売却では、物件に欠陥などがあっても売主の責任を免除する契約が一般的 (経済的な理由で売却する売主がほとんどであり、損害賠償を請求しても支払える保証がないため) |
停止条件付の特約がつく | 「債権者から承諾を得られない場合は無条件で解約」という条項を盛り込むため |
現状での引き渡し以外にない | 修繕や更地渡しなどができないため、買主側に選択・交渉の余地がなく、負担がかかる |
特に重要なのは売却期限で、入札開始になると任意売却はできなくなります。買主探しはスピードが重要であり、飛び抜けて需要が高いなどの例外でなければ、通常より高額で売り出されることはありません。
一方、住宅ローンの残債を減らすためには、少しでも高く売る必要があります。任意売却には債権者の承諾が必要ですが、価格設定が低いと債権回収ができなくなるため、拒否されてしまいます。
結果、「取引成立が見込める範囲でなるべく高めの価格」として、市場価格の8割~9割程度に落ち着くことが一般的です。
任意売却よりも価格が低くなる競売
任意売却も価格は下がりますが、競売による落札価格はさらに下がります。個々のケースによりますが、通常売却の5~7割程度となるのが一般的です。
競売物件の場合、以下のような理由で価格が下がります。
- 内見が原則不可(書面上の情報でしか判断できない)
- 書面上にすべての情報が記載されているとは限らない
- 検討時間が短い(入札期間は1ヶ月程度が多い)
- 契約不適合責任がない
- 居住者がいれば落札者が立ち退き手続きを行う
総じて落札者の負担が大きいため、価格が低くなります。
また、競売では売却基準価額(競売時の基準となる価格)と買受可能価額(入札の最低価格)が、次のように定められています。
第六十条 執行裁判所は、評価人の評価に基づいて、不動産の売却の額の基準となるべき価額(以下「売却基準価額」という。)を定めなければならない。
2 執行裁判所は、必要があると認めるときは、売却基準価額を変更することができる。
3 買受けの申出の額は、売却基準価額からその十分の二に相当する額を控除した価額(以下「買受可能価額」という。)以上でなければならない。出典:e-Govポータル「民事執行法第60条」
売却基準価額は裁判所が決定しますが、この時点で市場価格から3割程度減額されます。売却基準価額が決まったら、そこから最大2割を差し引いて入札が開始されます(条文の第3項)。
もっとも高い価格を入札した人が落札となりますが、競売の入札者は格安での物件取得を狙っているため、高額の入札は期待できません。
結果として、競売による落札価格は市場価格の5~7割程度まで落ちてしまいます。
任意売却の価格決定には債権者の承諾が必要
任意売却の価格決定は、売主と不動産会社が協議し、最終的に債権者が可否を決めるというプロセスになります。つまり、価格の決定権は債権者が握っています。
債権者としてはなるべく多く融資を回収する必要があるため、一定額以上でなければ承諾しません。購入希望者が現れても、債権者が望む金額以上でなければ、拒否されてしまいます。
売主も価格について希望を言えますが、優先的に取り入れられることはないと考えておきましょう。
任意売却の査定方法
任意売却でも、通常売却と同じように物件の査定が必要です。査定結果をもとに、債権者と交渉して売り出し価格を決めます。
では、任意売却ではどのように査定を行うのでしょうか?ここでは、任意売却の査定方法について詳しく解説します。
物件の査定方法は通常売却と同じ
任意売却の査定方法は、通常の不動産売却と同じです。査定は不動産会社が行い、費用はかかりません。
査定では、主に以下の項目が見られます。
- 立地
- 築年数
- 間取り、広さ
- 建物の構造や管理状態
- 設備や内装
- 周辺環境
- 日当たりや眺望
- 隣接道路との接道状況
- 土地の形状
上記の項目を評価するとともに、市場での需要や供給、近隣物件の成約事例、そして任意売却特有の事情を考慮して算定されます。
査定はあくまで参考値であり、最終的な価格とは異なる場合があります。前述の通り債権者の意向を聞く必要がありますし、買主との交渉によっても変わるかもしれません。
査定額が住宅ローン残債にいくら充てられるのかが重要
任意売却は、オーバーローン状態(住宅ローン残債が売却価格を上回る状態)で行われます。任意売却の利益は残債の返済に充てられ、返しきれない分は改めて分割返済していきます。
つまり、売却代金で残債をどこまで減らせるかが、任意売却では重要です。「残債-査定額」で残る金額が少ないほど、売主の返済負担は軽くなりますし、債権者からの承諾も得やすくなります。
ただし、任意売却後の残債も返済できないようであれば、任意整理や個人再生、自己破産などの債務整理手続きを併用する方法もあります。これらは任意売却とは異なる手続きなので、別途弁護士などに相談しましょう。
債務整理の種類 | 特徴・メリット | 主なデメリット |
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任意整理 | 債権者と交渉して、債務を減額してもらう制度 | ・5年程度、ブラックリスト状態になる(クレジットカードの利用や新規借入ができない) など |
個人再生 | 裁判所手続きによって、債務を最大1/10まで減額する制度 | ・5~7年程度、ブラックリスト状態になる ・財産の大部分を処分することになる(すべてを処分する必要はないが、処分しないと手続き後の弁済額が増える可能性がある) など |
自己破産 | 裁判手続きで債務の返済を全額免除してもらう制度 | ・5~7年程度、ブラックリスト状態になる ・財産をほぼすべて処分する必要がある ・手続き中、一部の資格・職業が制限される など |
なお、アンダーローンならそもそも任意売却する必要はなく、普通に売却して完済できます。債権者から拒否されることもありません。
任意売却物件の査定は専門の不動産会社に依頼しよう
任意売却物件の査定では、通常の物件と比べて、法律や金融の知識が求められます。また、債権者から承諾を得るための交渉力や、競売までに間に合うようスピーディーに売却する営業力・調整力も必要です。
これらの能力は、一般的な不動産会社では持ち合わせていないケースが多く、依頼しても失敗してしまう可能性があります。そのため、任意売却物件の査定は「任意売却専門の不動産会社」に依頼しましょう。
任意売却を専門とする不動産会社なら、経験にもとづいた豊富なノウハウを持っています。任意売却の流れを熟知しているので、いつまでになにをすれば良いか、的確なスケジュールのもと売却が可能です。
また、債務や不動産に強い法律専門家(弁護士や司法書士など)とも連携しているケースが多く、法的な問題も安心して相談できます。
任意売却におすすめの不動産会社については、下記の関連記事で詳しく紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
まとめ
任意売却の売却価格は、おおむね市場価格の8割~9割程度になります。若干安くはなりますが、それでも競売の落札相場よりは高額です。
少しでも高く売れれば、その分だけ後々の返済が楽になります。競売より生活を立て直しやすくなるため、住宅ローンの返済が厳しくなったら、なるべく早めの任意売却をおすすめします。
返済できないことが原因で自宅を手放すのには、後悔や罪悪感が強いかもしれません。しかし、競売になってしまうとなんのメリットもなく、安値で手放すことになります。
任意売却を新たな生活に踏み出すチャンスと捉え、前向きに検討してみましょう。