任意売却後のリースバックで買い戻す方法
任意売却とは、住宅ローンの返済が困難になったときに、債権者(借入先の金融機関)と相談して自宅を売却する方法です。詳しくは、下記の関連記事でも解説しています。
任意売却は、基本的に差し押さえ・競売を回避するために行われます。しかし、経済状況が悪くても「自宅に住み続けたい・手放したくない」という人は多いでしょう。
そこで選択肢にあがるのが、任意売却とリースバックの併用です。
リースバックとは?
売却した家を賃貸物件として借りる契約のこと。「セールアンドリースバック」とも言う。
自宅の売却後も家賃を払って住み続けられ、将来的に買い戻すこともできる。
リースバックをする場合、買主は基本的に「リースバック専門の不動産会社」となります。これは、個人の買主は自己使用を前提にしているケースがほとんどであり、リースバック契約を結ぶのは困難だからです。
リースバック専門の不動産会社を利用しない方法としては、親族間売買で家族に買ってもらい、将来的に買い戻すという方法が考えられます。しかし、親族間売買はローン審査が厳しくなるため、家族に潤沢な資金がなければ実現は難しいでしょう。
リースバックで買い戻す場合、契約形式として「再売買の予約」と「買い戻し特約」の2つがあります。これらは法的な取り扱いが異なり、実務上は自由度が高い「再売買の予約」が主流です。
再売買の予約
「再売買の予約」とは、簡単に言えば「将来的にもう一度売買しましょう」という約束のことです。当事者間の合意で、再売買契約の約束を取り決めます。
後述する買い戻し特約では、買い戻しの価格や期間に法的な制限がありますが、再売買の予約では当事者間で自由に定められます。期間の縛りがない分、経済状況の立て直しをじっくり行える点が大きなメリットです。
ただし、買い戻し特約は登記(権利を公示して保護する手続き)ができる一方、再売買の予約は登記ができません。
そのため、第三者にも再売買の予約を主張できるよう、別途「所有権移転請求権の仮登記」を申請したり、公正証書(書類を公文書にしたもの)による契約を行ったりします。
買い戻し特約
「買い戻し特約」は、民法に定められている原則に準拠した特約です。再売買の予約との違いは、「売買契約の売主に買戻権を付与する」という性質にあります。
再売買の予約 |
・将来的に「再売買を約束」する
・最初の売買と、将来的な再売買は別個の取引
・不動産以外の取引でも取り決められる |
買い戻し特約 |
・売主に「買戻権を付与」する
・売買契約に付随する特約
・不動産取引のみ対象 |
「買い戻し」とありますが、根拠となる法律を見ると、本質は「代金・費用の返還による不動産売買契約の解除」であるとわかります。
不動産の売主は、売買契約と同時にした買戻しの特約により、買主が支払った代金(別段の合意をした場合にあっては、その合意により定めた金額。第五百八十三条第一項において同じ。)及び契約の費用を返還して、売買の解除をすることができる。この場合において、当事者が別段の意思を表示しなかったときは、不動産の果実と代金の利息とは相殺したものとみなす。出典:e-Govポータル「民法第579条」
買い戻し特約は「売買による所有権移転登記」と一緒に登記ができます。登記しておくと第三者に対して買戻権の主張が可能で、例えば対象物件が買い戻し前に第三者へ転売されても、登記を根拠に買戻権を行使できます。
ただし、買い戻し特約は民法に定められた要件を満たしていなければ有効になりません。自由な取り決めができないため、実際に買い戻し特約を設定するケースは少なくなっています。
買い戻し特約の要件
買い戻し特約を設定するときは、以下のような要件を満たす必要があります。
- 不動産取引であること
- 売買契約と同時に特約を結ぶこと(売買後に特約を結ぶことはできない)
- 買い戻し価格は、売買契約時の代金および契約費用を合わせた額であること
- 買い戻し期間の設定は最長10年まで(期間を定めないときは5年まで)
これらの要件があるため、再売買の予約と比べて使い勝手の悪い方法となっています。
特に、期間が最長でも10年なので、経済状況の立て直しに時間がかかった場合は買い戻せないかもしれません。
以上のことから、買い戻し特約を結ぶケースは減っており、実務で使われるのは再売買の予約が一般的になっています。
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任意売却後に自宅を買い戻すメリット・デメリット
任意売却とリースバックの併用による買い戻しには、主に以下のようなメリットとデメリットがあります。
買い戻しのメリット |
・任意売却後そのまま住み続けられる
・引越し費用がかからない
・近隣など周囲の人に任意売却したことがバレにくい |
買い戻しのデメリット |
・買い戻す際の価格は少し割高になる
・買い戻しのための住宅ローン融資が将来確実に通るという保証がない
・家賃の支払いを滞納すると買い戻せなくなる |
買い戻すことが利益になるとは限らないため、慎重な判断が必要です。それぞれ詳しく解説します。
メリット|任意売却後そのまま住み続けられる
先述の通り、リースバックは売却した自宅を賃貸借する契約なので、任意売却後もそのまま住み続けられます
住み慣れた環境や生活スタイルを手放すのは、心理的にも経済的にも大きな負担があります。これらを手放さずに済むというのは、リースバックの大きなメリットです。
子どもの学区を変えたくない子育て世帯や、生活環境の変化に抵抗を感じる高齢者世帯など、引越しを避けたい状況でも自宅の売却が可能になります。
メリット|引越し費用がかからない
任意売却後に自宅を買い戻すことで、引越し費用を節約できる点もメリットです。
引越すとなると、家具・家電の搬出入や運搬車の手配などで5~35万円程度かかります。また、新しい住居を探すにあたって、敷金・礼金や仲介手数料なども必要です。
しかし、リースバックを併用すればそのまま住み続けられるので、引越しの手間や費用を省けます。金銭的な負担を減らせるので、任意売却後の生活再建もスムーズになるでしょう。
メリット|任意売却したことがバレにくい
任意売却後の買い戻しは、周囲に任意売却したことを隠せるという利点もあります。
自宅を売れば、「あの人はローンの返済ができなくて売却した」と噂が立つかもしれません。近隣住民だけでなく、親族や職場にも知られる可能性もあります。
しかし、自宅を買い戻す場合は引越さずに済むため、周囲に知られるリスクは少なくなります。
デメリット|買い戻す際の価格は少し割高になる
任意売却後に自宅を買い戻す最大のデメリットは、買い戻す際の価格が割高になることです。
先に解説した通り、買い戻し特約の場合は「売却時の代金などと同額」での買い戻しですが、主流である再売買の予約は「売却価格に10~30%ほど上乗せされた金額」が相場です。これは、不動産会社の利益が上乗せされています。
ただし、そもそもリースバックでの売却価格は時価の70~90%程度が一般的です。例えば、時価1,000万円の自宅をリースバックで売却し、900万円になったとすると、買い戻し価格の目安は以下のようになります。
【買い戻し特約の場合】
・売却価格と同じなので、買い戻し価格は900万円(+その他契約費用分)
【再売買の予約の場合】
・売却価格に10~30%の上乗せなので、買い戻し価格は990万~1,170万円
経年劣化などにより自宅の時価が下がっていると、「売却時の時価」で計算する買い戻しは不利な売買となってしまいます。
無理して買い戻しを実行すると、再び経済状況が悪化する恐れもあるので注意しましょう。
デメリット|住宅ローン融資が将来確実に通るという保証がない
任意売却後に自宅を買い戻す際、住宅ローン融資を使えない可能性があります。
多くの場合、任意売却は住宅ローンの返済を滞納しているときに行いますが、滞納した時点で「事故情報」が登録されます。
事故情報とは?
滞納や破産など、金融事故に関する情報のこと。個人の信用情報(収入や勤務先、借入履歴などをまとめた情報)に事故情報が登録されるといわゆる「ブラックリスト」になり、新規の借入やクレジットカードの利用ができなくなる。
事故情報は、対象の取引が終了してから5年間残ります。つまり、任意売却後に完済した日から5年間は、住宅ローン融資を受けられない可能性があります。
なお、信用情報の確認は、国に指定されている3つの信用情報機関に問い合わせれば可能です。
信用情報機関主な加盟業者加盟業者検索(Webサイト)開示請求の申し込み(Webサイト)
事故情報が登録された場合、消去されるまで待つか、他の方法で資金を用意しなければいけません。
ただし、上記はあくまで滞納した場合の話です。信用情報に登録されるのは「任意売却したこと」ではなく「滞納したこと」なので、これまでに返済を滞納していなければ、事故情報の登録は避けられる可能性があります。
デメリット|家賃の支払いを滞納すると買い戻せなくなる
任意売却後に自宅を買い戻す場合、賃貸物件として住んでいる期間中に「家賃を滞納しないこと」が必要です。
賃貸借契約では、おおむね3ヶ月の家賃滞納があると、貸主からの解約が可能になります。賃貸借契約が解約されると、買い戻し契約も同時に解約されます。
また、契約内容に「買い戻しは家賃の滞納がない場合のみ」と規定されているケースも少なくありません。この場合、3ヶ月未満の滞納でも、買い戻しを拒否される恐れがあります。
自宅を買い戻すなら、任意売却後の家賃は最優先で支払うようにしましょう。
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任意売却における買い戻しの流れ
任意売却における買い戻しの流れは、以下の3ステップに分けられます。
- リースバック前提で任意売却を進める
- 売買契約時に「再売買の予約」を行う
- リースバック成立後に資金を貯めて買い戻す
後から「やっぱり買い戻したい」と思っても契約内容の変更は難しいため、売却時に再売買の予約を行うことが重要です。
全体の流れを把握して、確実に買い戻せるよう状況を整えておきましょう。
1.リースバック前提で任意売却を進める
まずは、リースバック前提で任意売却を進めなければいけませんが、そのためには両方の実績が豊富な不動産会社に相談する必要があります。
リースバックと任意売却はどちらも特殊な不動産取引なので、知識のない不動産会社も少なくありません。複数の不動産会社を比較して、適切な手続きが可能なところを見つけましょう。
リースバックと任意売却は併用するケースが多いので、どちらかを事業として展開している会社であれば、もう片方も対応できる可能性があります。また、任意売却を支援する一般社団法人も多いので、そちらに相談するのも良いでしょう。
任意売却には借入先の金融機関と交渉が必要ですが、こちらは相談・依頼した不動産会社が対応してくれます。弁護士と提携している不動産会社なら、交渉も安心して任せられるのでおすすめです。
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2.売買契約時に「再売買の予約」を行う
不動産会社に相談し、金融機関からの了承を得られれば、売買契約を結びます。先述の通り、不動産会社に買い取ってもらう形式が一般的です。
売買契約の締結に併せて、再売買の予約も行います。再売買の予約では、以下のような内容を取り決めます。
- 買い戻し価格
- 買い戻し期限
- 買い戻し条件
- 買い戻すまでの使用方法
- 買い戻すまでの維持管理費や税金の負担
原則として売却後でも再売買の予約は可能ですが、実際に後から再売買を求めても、買主側が了承してくれるとは限りません。そのため、売買契約時に再売買の予約を取り決める(再売買の予約を前提に売買交渉をする)ようにしましょう。
3.リースバック成立後に資金を貯めて買い戻す
リースバック成立後は、賃貸物件として自宅に住み続けつつ、買い戻しの資金を貯めていきます。
返済が難しくなっての売却であれば、まずは経済状況の立て直しを優先すべきです。日々の家計に余裕がなければ、資金を貯めることもできません。
家賃だけでなく、任意売却で返済しきれなかったローンの返済もあるので、長期的な資金計画を立てる必要があります。今後の収入や支出を予測し、ライフプランをシミュレーションしましょう。
任意売却で買い戻しする際の重要ポイント
任意売却後の買い戻しにはさまざまな条件や手続きがあるため、注意しないと思わぬ契約を結んでしまう恐れがあります。
特に重要なポイントとして、以下を押さえておきましょう。
- 経営状況が安定している不動産会社と契約する
- 買い戻しの旨を契約書に明記する
- リースバックでは「普通借家契約」を結ぶ
- 自分の経済状況を考えて決めることが大事
それぞれ詳しく解説します。
経営状況が安定している不動産会社と契約する
任意売却とリースバックの併用では、不動産会社と長期的な契約関係になります。そのため、業績が好調で、経営状況が安定した不動産会社と契約しましょう。
経営状況が悪い不動産会社だと、契約期間中に早期の退去を求めてくるケースがあります。買い戻しについても、当初の予定より早く実行するよう言ってくるかもしれません。
また、不動産会社が倒産した場合、買い戻しの権利が保証されない可能性があります。このような事態を防ぐために、不動産会社の信頼性や実績は事前にしっかり確認しましょう。
買い戻しの旨を契約書に明記する
買い戻しに関する取り決めは、契約書に明記しましょう。口頭での約束だけだと、後からトラブルになる恐れがあります。
契約書の記載が特に重要となるのは、転売で物件が第三者に売られた場合です。不動産会社は、自分たちの利益を最大化するために、自宅を転売する可能性があります。
転売されたとしても、賃貸借契約や買い戻しの約束は新オーナーに引き継がれるのが原則です。しかし、契約書に明記されていない内容については、権利を主張できない恐れがあります。
転売された後に買い戻し権利を主張する場合、物理的な証拠となる契約書は非常に重要です。価格や期限などの条件と併せて、しっかり取り決めておきましょう。
リースバックでは「普通借家契約」を結ぶ
自宅を買い戻す場合、リースバックの賃貸借契約は「普通借家契約」を結びましょう。普通借家契約とは、期間の定めのない賃貸契約です。
普通借家契約では、賃借人は原則として無期限で住み続けられます。対する「定期借家契約」は、数年で退去が必要になる場合があります。
資金調達に5~10年かかる場合、定期借家契約だと買い戻しが間に合わないかもしれません。一方、普通借家契約なら期間に余裕を持てるので、買い戻しがしやすくなります。
ただし、直近で資金調達できることが確実なら、定期借家契約でも問題ないでしょう。定期借家契約のほうが家賃は安くなるのが一般的なので、個々の状況に合わせて選ぶことが大切です。
自分の経済状況を考えて決めることが大事
任意売却後の買い戻しは、自分の経済状況を冷静に見極めることが重要です。
経済困難が理由で任意売却を行う場合、支出が多かったり、収入が不安定だったりするケースが多いでしょう。
一方で、任意売却後も残債があれば返済は続きますし、家賃の支払いもあります。また、買い戻し時には若干割高の価格になる点も、金銭面的には不利な取引です。
デメリットやリスクを加味して、本当に買い戻しができるのか、できるとしても本当に必要なのか、慎重な検討が必要です。経済状況を考慮し、無理のない最善の選択をしましょう。
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まとめ
任意売却後に自宅を買い戻したいときは、リースバックとの併用で実現可能です。売却時に条件を取り決め、契約書に明記すれば、将来的に買い戻せます。
ただし、買い戻しは価格が割高になるなど、主に金銭面での負担があります。そのため、状況次第では買い戻しにこだわり過ぎず、賃貸借の状態を維持したり、別の物件を購入したりなどの選択肢も検討しておきましょう。
売却段階で買い戻しまで考慮した計画を立てる必要があるので、まずは信頼できる不動産会社に相談し、プロのアドバイスを受けることが大切です。
任意売却と買い戻しについて良くある質問
任意売却とはなんですか?
任意売却とは、住宅ローンの返済が困難になったときに、債権者(借入先の金融機関)と相談して自宅を売却する方法です。基本的に、差し押さえ・競売を回避するために行われます。
住宅ローンが残っている物件は、抵当権が設定されており、原則として完済するまで売却できません。任意売却では、この抵当権を完済前に外してもらうよう金融機関に交渉します。物件から抵当権が外れれば、通常売却と同じように売ることが可能になるので、競売による安価な落札を避けられます。
任意売却した自宅を将来的に買い戻すことは可能ですか?また、買い戻す場合はどのような契約になりますか?
任意売却後に自宅を買い戻したい場合、リースバックとの併用が必要となります。リースバックとは、売却した家を賃貸物件として借りる契約のことで、将来的な買い戻しも可能です。
買い戻しの契約形式としては、将来的にもう一度売買することを約束する「再売買の予約」と、民法に定められた要件に準拠する「買い戻し特約」があります。再売買の予約のほうが期限や条件を自由に定められるので、一般的にはこちらの契約を結びます。
再売買の予約や買い戻し特約は途中で解約できますか?
「買い戻しを実行しない」という意味では可能です(実際に買い戻すかどうかは売主次第であり、設定した買い戻し期間が終了すれば予約・特約は消滅するため、わざわざ解約する意義はそれほどありません)。ただし、再売買の予約で「買主側からも買い戻しを要求できる」という内容が定められている場合、別途解約の交渉が必要になる可能性があります。
任意売却後の買い戻しを拒否されることはありますか?
任意売却後、リースバックの賃貸借中に家賃滞納などの契約違反を行うと、買い戻しを拒否される場合があります。
買い戻しの期間を過ぎるとどうなりますか?
再売買の予約や買い戻し特約が消滅し、以降は買い戻しができなくなります。ただし、リースバックの賃貸借契約に直接の影響はないため、特別な事情がない限り強制退去にはなりません。
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