共有名義不動産を賃貸に出す際の要件|共有者の過半数か全員の同意
共有名義不動産を賃貸に出す場合、まず理解しておきたいのが「共有物の管理」に関する法律上の分類です。共有物の管理には、大きく分けて「保存行為」「管理行為」「変更行為」の3つがあります。
これらの3つの分類について、下記の表で大まかにまとめてあります。
これら3つの分類は、時として判別が難しい場合もありますが、不動産の賃貸については一般的に「管理行為」として扱われるのが通例です。
ただし、賃貸借契約の要件を決める際に重要なのが賃貸期間となっています。2023年4月の民法改正により、3年以内の短期賃貸借契約であれば、共有者の持分価格の過半数の同意があれば成立させることが可能になりました。この場合、全員の同意は不要となるのです。
一方で契約期間が3年を超える場合は、「変更行為」と判断される可能性があります。これは、長期にわたって建物の使用権を第三者に譲渡する形となり、所有権の処分に近い行為とみなされるからです。そのため、この場合は共有者全員の同意が必要です。
なぜ短期契約では全員の同意が不要なのでしょうか。それは、持分の少ない共有者への影響が比較的小さいためです。しかし3年超の契約になると影響も大きくなることから、より慎重な判断が求められます。賃貸に出す際は、契約期間と必要な共有者の合意範囲をしっかりと確認しておきましょう。
結論として、共有名義不動産の賃貸では契約内容を明確にし、法律で定められた割合の同意を得ることがスムーズな運営とトラブル防止への近道といえるでしょう。
共有名義不動産を賃貸に出すときの流れ
前述のとおり、共有名義の不動産を賃貸に出す場合は「管理行為」に該当します。そのため、共有者の持分価格の過半数の同意が必要です。もし契約期間が3年を超える場合は「変更行為」とみなされるため、全員の同意が求められる点に注意が必要です。
共有名義不動産を賃貸に出す際は、下記のような流れに沿って手続きを進めるのが一般的です。
賃貸に出す流れ
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内容
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家賃相場を確認
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共有名義不動産を賃貸に出す第一歩は、家賃相場を確認することです。近隣の物件で条件が似ているものを調べ、相場を把握します。築年数、立地、広さ、設備などが類似している物件を比較することで、適正な家賃設定が可能になります。
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収支のシュミレーション
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家賃相場をもとに仮の家賃を設定し、賃貸に出した場合の収支をシミュレーションします。家賃収入を得るための支出としては、管理費、修繕費、固定資産税、都市計画税、所得税、住民税などが発生します。さらに、クリーニング費用や管理会社への委託料も考慮する必要があります。
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持分の過半数の同意を得る
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共有名義不動産を賃貸に出すには、共有者の持分価格の過半数の同意が必要です。一部の共有者が反対していても、彼らの持分が合計で2分の1未満であれば賃貸が可能です。ただし、3年以上の長期賃貸契約を結ぶ場合は、全員の同意が必要になる点に注意が必要です。事前に共有者間で十分に話し合いをしておきましょう。
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賃料査定を不動産会社に依頼
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家賃設定の適正さを確保するため、不動産会社に賃料査定を依頼します。複数の不動産会社に査定を依頼し、自身で調べた家賃相場と比較することで、最適な家賃を判断しやすくなります。プロの意見を取り入れることで、収益性を高める家賃設定が可能です。
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管理会社と契約
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賃貸運営には、家賃の回収や入居者募集、トラブル対応など多くの手間がかかります。これらを効率的に管理するため、不動産管理会社と契約するのが良いでしょう。管理会社に委託することで、運営の負担を軽減し、プロのサポートを受けながら安定した収益を得られます。
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入居者の募集
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入居条件を決めたら、管理会社や不動産仲介サイトを活用して入居者を募集します。
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入居者の審査
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入居希望者から届いた申込書をもとに、勤務先や年収、保証人情報を確認します。家賃の支払い能力があるかを判断し、問題があれば他の希望者を検討する必要があります。慎重な審査がトラブル防止につながります。
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賃貸借契約を締結
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入居審査をクリアした希望者と賃貸借契約を結びます。共有名義不動産の場合、3年以内の短期賃貸借契約であれば持分の過半数の同意で締結可能です。
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共有名義不動産を賃貸に出す際に発生しやすいトラブル
共有名義不動産を賃貸に出す際には、共有者間でさまざまなトラブルが発生しやすい点に注意が必要です。
以下では、共有名義不動産の賃貸でよくあるトラブルについて解説します。
家賃の分配が公平ではない
共有名義不動産を賃貸に出した場合、家賃収入は法律上、共有者の持分割合に応じて公平に分配されるべきです。しかし、実際には家賃が代表者に一括で入金され、そこから各共有者に分配される流れになります。この過程において、分配が不公平だったり、代表者が家賃を分配しなかったりすると、共有者間でトラブルに発展することがあります。
代表者が家賃収入を独占している場合、他の共有者は「不当利得返還請求」を行うことで未払い分の家賃を取り戻すことが可能です。裁判所で認められれば、過去に遡って家賃の返還を請求できる場合もあります。
こうしたトラブルを防ぐためには、家賃収入の分配方法を明確にし、共有者全員で合意を得たうえで、適切に分配を行うことが重要です。収益管理の透明性を保つ仕組みを整えておくことが、共有者間の信頼関係を維持するためのカギといえます。
共有者と経営の方針が合わない
共有名義不動産を賃貸に出す際、共有者間で経営方針が合わず、トラブルに発展するケースがよく見られます。特に建物の修繕や管理方針を巡る意見の対立は頻発しがちです。例えば、修繕費用の負担割合や、どの程度の修繕が必要かといった点で意見が割れることがあります。
こうした問題を解決するための対処法として、経営を外部の専門家や不動産管理会社に一任するのがおすすめです。委託料が発生するため収益が減る可能性はありますが、共有者間での揉め事が減り、スムーズな運営が期待できます。
共有者が不動産の管理に協力してくれない
共有名義不動産を賃貸に出す際、管理業務に対する共有者から協力を得られずに、下記のようなトラブルの原因となることがあります。
- 入居者の募集や審査
- 家賃回収
- 入居者のトラブル対応
- 建物のメンテナンス
- 契約更新時の説明
- 確定申告の経理作業
これらの業務を共有者全員で適切に分担できていれば問題となることはないのですが、特定の共有者に負担が集中すると不満が生じる可能性が高まります。
さらに、維持管理費の分担についても問題が発生することがあります。ある共有者が費用を負担しない場合、他の共有者がその分を肩代わりせざるを得ない状況になり、不公平感が強まります。
共有者が賃貸に無償で住んでいる
共有名義不動産において、共有者の一人が無償で住んでいる場合もトラブルの原因となります。本来、第三者に貸し出すことで得られるはずの家賃収入が失われ、他の共有者の収益にも影響を与えるためです。
民法第249条第2項では、共有者が他の共有者の合意を得ずに無償で住んでいる場合、その共有者は自身の持分を超える使用に対する対価を他の共有者に償還する義務があると規定されています。
第二百四十九条
2 共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負う。
出典:e-Govポータル「民法第249条第2項」
このため、他の共有者は、不当利得返還請求を行うことで未収分の損失を取り戻すことが可能です。
共有者が税金を支払ってくれない
共有名義不動産を所有している場合、毎年固定資産税が発生します。通常、固定資産税の納付書は代表者に送付され、代表者が税金を一括で支払った後に、他の共有者にその負担分を請求する流れが一般的です。しかし、一部の共有者が支払いを拒否したり、請求に応じなかったりした場合にはトラブルとなります。
こうした状況では、代表者は他の共有者に対して負担分を請求する法的権利を持っています。具体的には、請求権を行使することで、支払われていない金額を回収することが可能です。ただし、請求の過程で共有者間の関係が悪化するリスクもあるため、円滑な協力を得るための事前の合意が重要です。
共有名義不動産を賃貸に出す際に知っておくべきポイント
共有名義不動産を賃貸に出す際には、共有者間で明確な取り決めをしておくことでトラブルを避けられます。
以下では、共有者間での契約書の締結や収益分配、税金の申告など、スムーズな運営に役立つ具体的なポイントを解説します。
共有者間で契約書を締結する
共有名義不動産を賃貸に出す際、共有者間で事前に契約書を作成・締結することはトラブル防止に効果的です。この契約書では、家賃収入の分配割合、振り込み日、管理維持費の負担割合、代表者の選定など、重要な項目を明確に定めておくべきです。
契約書があれば、後から意見の食い違いが起きた際にも、書面に基づいてスムーズに解決でき、無駄な議論やストレスを回避することが可能です。また、書類に記録を残しておくことで、共有者全員が納得した内容に基づき、不動産の運用を進められます。
なお、共有者間の契約書には正式な雛形はありませんが、弁護士、司法書士、行政書士などの専門家に作成を依頼すると法的にも安心です。共有者全員が納得できる形で契約を結ぶことが、円滑な不動産運営の第一歩となります。
収益は持分の割合に応じて決定する
共有名義不動産を賃貸に出した場合、家賃収入による収益は、共有者それぞれの持分割合に応じて分配される必要があります。この分配ルールは法律に基づいており、公平な収益分配を維持するための基本的な原則です。
例えば、3人の共有者が2:4:4の割合で共有している不動産から月額12万円の家賃収入が得られる場合、収益はそれぞれ2.4万円、4.8万円、4.8万円に分配されるべきです。代表者が賃借人から家賃を一括で受け取っている場合、分配を正確に行わないとトラブルの原因となるため、特に注意が必要です。
賃料が入ったら各共有者が確定申告を行う
共有名義不動産を賃貸に出した場合、家賃収入による所得税は、共有者それぞれが自身の持分割合に応じて確定申告を行う必要があります。たとえ収益が代表者に一括で入金されても、最終的には共有者ごとの持分に基づき収益を分配し、それぞれの所得として申告する義務があります。
確定申告が必要になる場合、これまでに不動産収益の申告経験がない共有者にとっては、新たな手続きとなるため注意が必要です。申告を怠ると税務上のペナルティが課される可能性があるため、期限内に正確な申告を行わなければなりません。
3年賃貸借契約の解除には共有者の過半以上の同意が必要
共有名義不動産における賃貸借契約の解除は、法律上「管理行為」として扱われます。そのため、契約を解除するには共有者全員の同意ではなく、持分価格の過半数の同意があれば有効とされています。このルールは、共有者間の意見の一致が難しい場合でも、不動産の運用や契約の調整が可能となるよう設けられています。
ただし、持分の過半数という条件を満たさない場合、契約解除は認められません。また、共有名義の特性上、自分の持分だけを解除することもできないので注意が必要です。
適切な手続きを踏まずに解除を進めると、法的トラブルに発展する可能性があります。契約解除の際には、事前に共有者間で十分な話し合いを行い、持分の割合を確認して同意を得るようにしましょう。
不動産の共有者から賃貸に出すのを反対されたらどうする?
不動産を共有している場合、賃貸に出そうとしても他の共有者から反対されることがあります。このような状況でも、法律や合意に基づいて適切に対処する方法があります。
以下では、共有者の反対に直面した場合の具体的な対処法を解説します。
反対者に請求されたら賃料を返還する
共有不動産を賃貸に出す際、他の共有者が反対していても賃貸借契約が成立した場合、賃料は通常、契約を進めた共有者が受け取ります。しかし、反対の立場にある共有者も、自分の持分に応じた賃料を受け取る権利があり、これを根拠に「不当利得返還請求」を行うことができます。
この請求が認められた場合、賃料の分配が公平に行われていない期間について、最大で過去10年分にさかのぼって支払いを命じられる可能性があります。こうしたリスクを避けるためには、共有者間で事前に賃料の分配方法を話し合い、合意を得ておくことが重要です。
反対者の持分を買い取らせてもらう
不動産を共有している場合、賃貸に反対する共有者の持分を買い取って自分の持分を増やし、過半数以上の同意要件を満たすことが、違う解決の方法です。反対者にとっては、持て余している不動産を売却することで利益を得られるメリットがあり、管理の手間を省くことにもつながります。この方法は、共有者双方にとって合理的な解決策となる可能性があります。
共有持分の買取方法には、「当事者との交渉」と「民法上の強制力を行使した請求」があります。それぞれの特徴を以下にまとめています。
これらの方法を検討しつつ、適切な手段で共有者との話し合いを進めることが重要です。法的手続きを進める際には専門家の助言を仰ぐと良いでしょう。
自分の持分を他者へ売却する
不動産の共有者から賃貸に出すことを反対され、交渉が決裂した場合、自分の持分を第三者に売却することで解決することも可能です。共有不動産を賃貸として活用できず、利用価値が見いだせないまま保有するのは、固定資産税などの負担がかかるため、長期的には不利になることもあります。そのような場合、持分を売却する方が合理的な選択肢となるでしょう。
自身の持分のみを売却する場合、他の共有者の同意を得る必要はありません。売却先としては、他の共有者に持分を買い取ってもらう方法や、共有不動産の売買を専門とする業者に依頼する方法があります。特に業者に依頼する場合は、売却手続きがスムーズに進みやすくなります。
共有状態での不動産運用が困難な場合、持分の売却はトラブルを回避しつつ、経済的負担を軽減する有効な手段です。ただし、売却条件については慎重に検討し、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。
まとめ
共有名義不動産を賃貸する際には、法的要件を守りつつ、共有者間でしっかりと合意形成することがカギとなります。
2023年4月の民法改正により、賃貸契約の期間によって同意範囲が異なる点を理解し、特に3年以上の契約では全員の同意が必要であることを認識することが重要です。また、事前に契約書を作成し、家賃の分配や管理業務の分担を明確化することで、トラブルの未然防止が可能です。
もしも共有者間で意見が対立した場合には、反対者の持分買い取りや自身の持分売却といった法的手段も視野に入れると良いでしょう。特に持分売却は、他の共有者の同意なく実行できる点で、行き詰まった状況を打開する有効な手段となります。
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