共有持分の評価額は基本的に「共有不動産全体の評価額×持分割合」で算出される
共有持分の評価額を計算する際の基本公式は、「共有不動産全体の評価額 × 持分割合」です。
単独名義の不動産と異なり、まずは「不動産全体の価値」を算出し、そこに自分の権利の割合(持分)を掛けて導き出します。
ただし、ここでお伝えしたいのは、これはあくまで「税金計算」や「遺産分割」など、制度上の基準となる理論値(机上の計算)に過ぎないということです。
実務上、自身の持分のみを第三者や買取業者へ売却する際の実勢価格(実際の売却額)は、この計算式で出た金額からさらに「持分減価(権利の制約による割引)」が適用されるため、下回ることがほとんどです。
また、不動産全体の評価額を出す際、「土地」と「建物」では評価の基準がそもそも異なるため、分けて計算する必要があります。
共有不動産全体の評価額は「土地」か「建物」かで基準が異なる
不動産の価値を正確に把握するためには、土地と建物を切り離して個別に評価します。
土地の場合、売却や相続といった目的に合わせて、公示価格や路線価など5種類の異なる評価基準(一物五価)を使い分けます。時価が常に変動する土地に対し、課税の公平性を保つための公的な基準や、実際の取引目安となる基準がそれぞれ用意されているためです。
一方で建物の場合はどうでしょうか。
制度上(相続税や贈与税などの計算)は、原則として「固定資産税評価額」をそのまま共通の指標として用います。建物は築年数の経過とともに価値が減少していくため、土地のように複雑な指標をいくつも使い分ける必要がないからです。
ただし実務上、「売却」を目的とする場合は、固定資産税評価額ではなく、築年数や劣化状況、リフォーム履歴などを加味した「市場価値(実勢価格)」で評価される点に注意してください。
全体の評価額が出たら、土地・建物それぞれの額を合算し、そこに自身の持分割合を掛けることで、基本となる評価額が算出されます。
土地と建物の詳細な評価基準については、本記事の「土地の共有持分の評価基準は5種類ある」と「【建物】の共有持分を評価する基準は「固定資産税評価額」が基本」で詳しく解説しています。
持分割合は主に「相続時の法定相続分」または「購入時の負担割合」に応じて決まる
適正な評価額を算出するには、自分自身が「何分のいくつ」の権利を持っているのかを正確に把握しなければなりません。持分割合は、不動産を取得した経緯によって決まり方が異なります。
- 相続で取得した場合:遺言の内容、遺産分割協議での合意、または法定相続分
- 共同購入で取得した場合:購入時に出資した金額の割合(負担割合)
■相続で持分が決まる優先順位
1. 遺言(指定相続分):亡くなった方の遺志が最優先されます。
2. 遺産分割協議:遺言がない場合、相続人全員の話し合いによる合意の割合が優先されます。
3. 法定相続分:話し合いがまとまらない場合等に適用される、民法が定めた目安の割合です。
法定相続分は法的な基準ですが、絶対的な拘束力はなく、相続人全員の合意があれば自由に割合を決めることができます。なお、遺言で「自身の取り分がゼロ」と指定された場合でも、配偶者や子などの法定相続人には最低限の遺産を請求できる「遺留分(いりゅうぶん)」という権利が法的に保障されています。
現在の正確な持分割合は、必ず法務局で取得できる「登記事項証明書(登記簿謄本)」の「権利部(甲区)」を見て確認してください。
実務上よくある間違いとして、毎年届く固定資産税の納税通知書を見て判断しようとするケースがあります。しかし、共有名義の場合、納税通知書は代表者1名にしか届かず「〇〇 外2名」のように省略されて記載されることが多いため、各共有者の正確な持分割合は確認できません。必ず登記事項証明書を根拠書類として使用しましょう。
土地の共有持分の評価基準は5種類ある
土地の評価基準は「一物五価」と呼ばれ、売買や相続、納税といった行政目的や取引内容に応じて5種類の指標が使い分けられています。土地全体の評価額をいずれかの基準で算出したあと、自身の持分割合をかけることで、共有持分としての適正な評価額を算出することになります。
- 公示価格:一般的な土地取引の指標
- 基準地価:公示価格を補完する指標
- 相続税評価額:相続税・贈与税の計算基準
- 固定資産税評価額:固定資産税などの計算基準
- 実勢価格:実際の市場取引価格
ここからは、それぞれの基準がどのような目的で使われ、どこで確認できるのかを詳しく解説します。
公示価格:売買価格を算出する場合
国土交通省の土地鑑定委員会が判定する公示価格は、毎年3月下旬頃に公表されるその年の1月1日時点の土地価格です。建物や権利関係がない更地としての1㎡あたりの価値を評価したもので、一般的な土地取引や公共事業用地の取得価格の算定に使用されています。
適正な売買価格を判断する際の有力な目安となりますが、実際の物件に建物がある場合は、その価値を別途考慮しなければなりません。最新の数値は、国土交通省の「地価・不動産鑑定:地価公示」で誰でも確認可能です。
基準地価:売買価格を算出する場合
都道府県が毎年9月下旬頃に公表する基準地価は、その年の7月1日時点の土地価格を指します。3月に公表される公示価格から半年後の地価動向を補完する役割があり、公示価格と同様に売買価格の目安として利用されます。
主に都市計画区域内を対象とする公示価格に対し、基準地価は住宅地や商業地だけでなく林地なども対象に含まれるのが特徴です。インターネットで「基準地価+都道府県」のキーワードで検索するか、国土交通省の「不動産情報ライブラリ」から最新の数値を調べることが可能です。
相続税評価額:相続税・贈与税を算出する場合
相続税評価額は、相続税や贈与税の課税価格を計算する際に用いられる基準です。国税庁が定める「財産評価基本通達」に基づいて算出され、一般的に公示価格の約80%が目安となります。
算出方法は土地の所在地によって異なり、路線価が定められている地域では「路線価方式」、そのほかの地域では「倍率方式」を用いて計算します。
自力で概算を出すことは可能ですが、土地の形状や権利関係による複雑な補正が必要なため、正確な評価には専門的な知識が求められます。自身での計算は売却や相続に向けた目安把握に留め、実際の申告時は税理士などの専門家へ相談することをおすすめします。
路線価方式
路線価方式は、「路線価 × 各種補正率 × 土地面積」の計算式で評価額を算出します。主に市街地の土地で用いられる方法です。
まず、道路につけられた路線価に対し、土地の奥行の長さや形状に応じた奥行価格補正などの「各種補正率」を乗じます。路線価に各種補正率を掛け合わせることで、その土地が持つ個別の事情や市場価値に見合った、正確な1㎡あたりの価額が算出できます。そして、補正後の1㎡あたりの価額に土地面積をかけることで、土地全体の評価額を決定します。
さらに、その土地を他人に貸している場合には、借地権割合を適用して所有者側の権利である底地の価値として算出したり、アパートを建てて貸している場合には貸家建付地として評価を下げたりするなど、最終的な権利形態や利用状況に応じた調整が行われます。最新の数値は、国税庁の「路線価図・評価倍率表」にて地図上の道路に記載された数字から確認可能です。
倍率方式
倍率方式は、「固定資産税評価額 × 評価倍率」の計算式で評価額を算出します。主に路線価が定められていない郊外や農村部の土地で用いられる方法です。
まず、各市区町村が算定した固定資産税評価額を基準にします。この固定資産税評価額に対し、国税庁が地域ごとに定めた一定の「評価倍率」を乗じることで、相続税評価額としての価値を割り出します。評価倍率は、宅地・田・畑・山林といった地目ごとに細かく設定されており、たとえ同じ地域内であっても、土地の用途によって乗じるべき倍率が異なるのが特徴です。
また、路線価方式と同様に、土地の利用状況に応じた調整が必要になります。たとえば、他人に貸している土地(借地)や貸家の敷地(貸家建付地)であれば、算出された評価額に借地権割合などを適用して、最終的な権利形態に合わせた評価額を決定します。該当する地域の具体的な倍率は、国税庁の「路線価図・評価倍率表」に掲載されている評価倍率表から確認してください。
固定資産税評価額:固定資産税・都市計画税・登記費用を算出する
固定資産税評価額は、各市区町村(東京23区は東京都)が決定する土地の評価額です。固定資産税や都市計画税を計算する基礎となるほか、不動産を売買したり相続したりする際の登録免許税の算出基準としても使用されます。
この評価額は3年ごとに「評価替え」と呼ばれる見直しが行われており、一般的に公示価格の約70%が評価の目安です。最新の評価額については、毎年4月から6月頃に自宅へ届く固定資産税納税通知書に同封された課税明細書、または市区町村役場で発行される固定資産税評価証明書で確認できます。
実勢価格:売買価格を算出する場合
実勢価格とは、実際に不動産市場において取引が成立した価格を指します。公的な指標とは異なり、過去の取引事例をベースに算出されるため、その土地が現在いくらで売れるのかという実態に特に近い金額であることが特徴です。
主に個人間や不動産会社を通じた実際の売買取引において、最終的な成約価格を決める基準として使用されます。実務上は、公示価格などの公的な基準で相場の目安をつけ、そこから需要や立地条件を加味し、実勢価格へと現実に即した調整を行うのが一般的です。
実勢価格は、立地や周辺の需要、物件の状態、あるいは売主が早期売却を希望しているといった個別事情によって大きく変動します。そのため、公的な評価基準よりも市場の動向が反映されやすい性質を持っています。
近隣の取引実態を把握したい場合は、国土交通省が運営する「不動産情報ライブラリ」から過去の取引事例を検索して調べることが可能です。
【建物】の共有持分を評価する基準は「固定資産税評価額」が基本
建物の相続税評価額を算出する際は、土地のように複数の指標を使い分ける必要はなく、市区町村が決定した「固定資産税評価額」をそのまま基準とするのが一般的です。建物の共有持分としての価値を把握したい場合は、まず建物全体の固定資産税評価額を確認し、そこに自身の持分割合をかけることで税務上の評価額を算出できます。
建物の税務評価は、周辺環境に左右される土地とは異なり、「再建築コストから劣化分を差し引く」という客観的な基準で算出されます。物件自体の状態が評価の主軸となり、他の公的価格を参照する必要がないため、固定資産税評価額が税務上の標準的な指標として広く用いられています。
具体的な計算式は「固定資産税評価額 × 1.0」で算出します。固定資産税評価額は、多くの自治体で毎年4月〜5月頃(送付時期は自治体により異なる)に所有者の元へ届く固定資産税納税通知書に同封された課税明細書、または市区町村役場で発行される固定資産税評価証明書で確認可能です。
なお、実際の売買取引においては、この固定資産税評価額はあくまで目安の1つに留まります。実勢価格を判断する際は、評価額に加え、内装のリフォーム状況や設備の維持状態といった個別の要素を含め、最終的な取引価格が検討されます。
共有持分の評価額に影響する5つの要素
共有持分の評価額は、基本的に「不動産全体の評価額 × 持分割合」で算出される金額が基準となります。ただし、実際の売却や共有者間での清算においては、持分割合を掛けただけの単純な金額に対し、物件特有の事情やリスクを加味した調整が反映される傾向にあります。
評価額に影響を与える主な要素は、以下の5つに集約されます。
- 共有者の人数と持分割合
- 共有者との関係性
- 居住者の有無
- 共有名義不動産の需要の高さ
- 抵当権や住宅ローンの有無
「不動産全体の評価額 × 持分割合」で算出した金額に対し、権利関係の複雑さや市場での流動性が「加点」または「減点」の要因として反映されます。それぞれの要素が、具体的にどのような形で査定や評価へ影響を及ぼすのかを詳しく解説します。
共有者の人数と持分割合
共有者の人数が多いほど、物件全体の売却や管理に関する合意形成が難しくなり、評価額は下がる傾向にあります。人数が増えることで意思決定に時間がかかるだけでなく、将来的に共有者間でのトラブルが生じるリスクも高まるためです。
不動産全体の利活用の見通しが立ちにくい点は、買主にとっての魅力が低いことを意味し、査定額を下げる直接的な要因となります。
さらに、一般的に共有者が多いほど、一人あたりの持分割合も小さくなる傾向があります。持分割合が小さいほど買主が取得後に単独で行使できる権利の選択肢が限られることから、市場価値が下がりやすくなるため、さらなる評価減につながります。
減額幅については、30〜50%程度が目安とされるのが一般的ですが、実際の下落率は物件の条件や交渉状況で大きく変動するため、個別の状況に応じた判断が求められます。
共有者との関係性
共有者同士の関係性が良好であれば、将来的に物件全体を一括売却する合意が得やすいため、評価額は下がりにくくなります。
共有者全員の協力体制が整っていることは、買主にとっても「他の共有者から持分を買い取って自分のもの(単独所有)にする」「全員で協力して不動産全体を市場価格通りの金額で売却する」といった出口戦略が立てやすいことを意味します。将来の利活用の見通しが立つことは、資産価値を高く保つための大きな好材料となります。
一方で、関係が悪化している場合や疎遠なケースでは、合意形成が困難なため評価額が下がる要因となります。話し合いがまとまらず、解決に共有物分割請求や不当利得返還請求などの法的な手続きが必要と見込まれる場合、買主は多大な手間や時間を価格交渉に織り込み、査定額を低く提示する傾向にあります。
■共有物分割請求とは?
共有関係を解消するために、共有者の一人が他の共有者に対して物件の分割を求める法的な手続き。話し合い(協議)でまとまらない場合は、裁判所が関与する「調停」や「訴訟」へと進む。訴訟の場合、解決までに1年以上の期間を要することも珍しくなく、弁護士費用などの金銭的コストに加え、精神的な負担も大きくなる。
■不当利得返還請求とは?
共有者の一人が物件を独占的に使用している場合に、他の共有者が自分の持分に応じた賃料相当額の支払いを求める手続き。共有不動産においては、一部の共有者が物件を独占的に使用している場合に、他の共有者が自分の持分を貸している対価として、家賃にあたるお金を支払うよう求めることを指す。
紛争の火種を抱える物件は、取得後のトラブルやさらなる交渉の難航を懸念する買主から敬遠されやすく、買い手が限定されることで査定価格はより低く見積もられることになります。
居住者の有無
対象物件に共有者や賃借人が住んでいる場合、買主が取得後に自ら利用したり、自由に収益化したりすることが困難になります。利活用への制限に加え、入居者との交渉や手続きにかかる負担が増えるため、査定価格は下がりやすくなります。
特に、立ち退きに関する懸念は、価格を下げる大きな要因です。立ち退き料が発生する可能性や、立ち退き完了までの不透明な期間は、買主にとって大きなリスクとなります。不確定なコストや手間は、あらかじめ査定額から差し引かれるのが一般的です。
物件が空き家状態であれば、買主は購入後すぐにリフォームや転売などの活用が可能です。居住者がいる場合に比べて手続きの障壁が低いため、評価へのマイナス影響を抑えやすくなります。
共有名義不動産の需要の高さ
立地や物件の状態が良く需要が高い不動産であれば、共有持分であっても比較的高く評価されます。駅近や都心部など利便性の高い立地は需要が絶えず、評価額が下がりにくいのが特徴です。一方で、郊外や需要の低いエリアでは共有持分の買い手が見つかりにくく、評価額が大きく下落する可能性が高まります。
その他、土地の形状も査定に直結し、極端に幅が狭い土地・建物や、いびつな形状をした土地などは資産価値が下がるため、共有持分の評価も低くなります。
実際には、利便性が高い物件であっても共有名義特有のリスクが消えるわけではないため、実際の価格は物件の魅力とリスクのバランスを考慮して個別に判断されます。
抵当権や住宅ローンの有無
不動産に抵当権が設定されている場合、買主にとっては将来的に物件を失うリスクとなるため、評価額は大きく下がります。
■抵当権とは?
借金の担保として不動産に設定される権利。もし借金が返せなくなった場合、債権者(お金を貸した金融機関や貸金業者など)がその不動産を強制的に競売にかけ、売却代金から優先的に貸したお金を回収できる仕組み。
抵当権は「人」ではなく「不動産そのもの」に対して設定される権利です。そのため、売却によって所有者が変わっても、借り手の返済が滞れば、不動産は差し押さえの対象となります。買主からすれば、自分には関係のない他人の借金トラブルによって、購入した資産を突然失う危険があるため、抵当権が設定された物件は敬遠され、査定価格も厳しくなります。
住宅ローンが残っている物件も、融資の担保としてこの抵当権が設定されているため、評価額を下げる要因となります。特に、ローンの残債が売却価格を上回る「オーバーローン」の状態では、金融機関の承諾が得られず売却自体が困難になる可能性が高まります。
なお、売却前に抵当権を抹消できるか、あるいは売却代金でローンを完済して抵当権を消せる場合は、評価額への影響を抑えることが可能です。
共有持分の評価額を算出する際の注意点
共有持分は、持分を取得しただけでは不動産全体の使い方や処分方法を単独で決められず、利用や売却の自由度が下がります。結果として、第三者への売却では買主側のリスクが価格に反映され、単独所有の不動産と比べて市場価格が低くなる傾向があります。
注意点を踏まえずに算出すると、相場を大きく下回る安値での売却したり、申告ミスで税務署から指摘を受けたりと、結果として不利益を被る恐れがあります。正しく価値を把握するために、「共有減価の考慮」と「専門的知識の必要性」という2つの重要事項を確認しましょう。
共有減価が生じることを考慮する
共有持分の評価においては、共有減価が生じることを考慮する必要があります。ただし、不動産を売却する際の「実務上の評価」と、相続税を計算する際の「税務上の評価」では、共有減価の扱いが大きく異なる点に注意してください。
■共有減価とは?
不動産の売却実務や鑑定評価において、市場価値を按分した価格から、権利上の制約を理由に一定割合を差し引くこと。共有持分は、建物の建て替えや不動産全体の売却に他の共有者の同意を必要とするため、所有者の意思だけで利用できない不利益がある。利用上の不自由さが市場価値に影響し、価格が下落する要因となる。
○不動産市場における売却価格(実務上の評価)
共有持分のみを取得しても、他の共有者の同意がない限り、「特定の部屋に住む」「敷地の一部を駐車場にして貸し出す」といった活用方法を自分一人で決めることはできません。購入しても自由に利用できない物件をあえて選ぶ一般の買主は少なく、共有持分のみを売却する場合、買い手はリスクを許容できる専門の買取業者などに限定されます。
需要が非常に低いことから、第三者への売却価格には共有減価が生じる傾向があります。不動産全体を単独所有していると仮定した市場価値を持分割合で按分した金額と比べ、実際の売却価格は「共有不動産全体の評価額 × 持分割合」から50〜90%程度の金額まで下落するのが一般的です。
○相続税の計算に用いる相続税評価額(税務上の評価)
相続税の計算では、原則として国税庁が定める財産評価の基準「財産評価基本通達」に従い「共有地全体の価額 × 持分割合」で評価額を算出します。税務上の計算には売却実務で見込まれる共有減価が原則反映されないため、相続税評価額が実際の売却価格を上回るリスクがあります。
相続税評価額と売却価格の乖離を放置すると、納税資金の不足や不当に重い税負担を招く恐れがあります。そのため、財産評価基本通達どおりの相続税評価額が、売却価格や利用の制限といった市場における実態と乖離している特別な事情がある場合、不動産鑑定評価などの客観的資料を添えて、通達より低い金額で申告できる可能性が出てきます。
ただし、申告が認められない場合は、通達通りの評価額に修正される点に注意が必要です。
共有持分の評価は複雑で専門的な知識が必要
共有持分の適正な価値を算出するためには、不動産鑑定や税務、法律に関する高度な専門知識が求められます。
共有持分の市場価値は、不動産登記上の持分割合だけで決まるものではありません。物件の占有状況や共有者間の人間関係が市場価値に直結するため、数式を用いた単純な計算では正確な価格を算出できない難しさがあります。適切な評価を怠ると、不利益を被る恐れも考えられます。
相続税の申告において評価額を実態より高く見積もると税負担が不当に増大し、反対に評価を低く見積もりすぎると売却時に不当な安値で買い叩かれる原因となります。
状況に応じて、適切な専門家へ相談してください。
- 相続の場合:遺言や遺産分割協議での合意、または法定相続分によって決定
- 共同購入の場合:出資した金額の割合
- 不動産鑑定士:客観的で適正な鑑定評価額を算出する。
- 税理士:適正な評価に基づく相続税などの税務申告を行う。
- 弁護士:共有解消に向けた交渉や、評価額を巡る紛争解決を担う。負担割合に応じて決定
【売却する場合】売却先によって共有持分の相場は変動する
民法第251条・252条では、共有不動産の利用方法を決定する管理行為には持分の過半数の賛成、物件全体の売却といった処分行為には共有者全員の同意を必要と定めています。しかし、共有持分だけであれば、他の共有者から同意を得ることなく自分自身の判断のみで売却することが可能です。
ただし、実際の売却価格は、不動産全体の価値を単純に持分割合で割った金額になるわけではありません。土地や建物の評価基準だけでなく、立地や需要、将来的な活用可能性を踏まえた売主と買主の合意によって最終的に決定されます。
本章では、売却先ごとに異なる共有持分の売却相場の目安を詳しく解説します。交渉相手によって成約価格や手続きの難易度が大きく変動する点を踏まえて、それぞれの状況に最適な売却先を検討してください。
「共有物の変更」
各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。
e-Gov法令検索 民法第251条
「共有物の管理」
共有物の管理に関する事項(中略)は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。共有物を使用する共有者があるときも、同様とする。
e-Gov法令検索 民法第252条
「共有不動産全体の評価額×持分割合」:共有者へ売却する場合
他の共有者へ売却する場合の相場は、相手との関係や条件によって「不動産全体の市場価格×持分割合」で算出される金額に近い水準となります。
第三者の買主へ売る場合とは異なり、権利の制約による価値の下落を考慮する必要が少ないため、他の売却先と比較しても価格が落ちにくい傾向にあります。買い手となる共有者は、持分を買い足すことで最終的に不動産を自分一人で所有し、自由に活用できるようになるため、単独所有を希望する人にとってはメリットが大きく、市場価格に近い価格での成約が期待できます。
ただし、親族や知人間での直接交渉となるため、資金面や感情面での調整が難航する恐れがあります。また、相手側の買い取り資金が不足している際は、話し合いが条件面で難航し、共有状態の解消までに多大な時間を要するケースも少なくありません。
売却の打診がきっかけで共有者間の人間関係が損なわれ、親族間の紛争に発展するリスクもあるため、合意形成には丁寧な対話と慎重な検討が求められます。
「共有不動産全体の評価額×持分割合×30〜50%」:専門の買取業者へ売却する場合
共有持分を専門に扱う買取業者へ売却する場合の相場は、「共有不動産全体の評価額×持分割合×30〜50%」です。一説には市場価格に持分割合を乗じた価値の2分の1から3分の1という目安も存在し、通常の不動産取引と比較すると成約価格は低くなる傾向にあります。
専門業者へ売却する大きなメリットは、共有関係から速やかに離脱できる点です。売却の手続き自体は他の共有者に知らせることなく進められるため、親族間でのトラブルを避けたい場合や、早期に現金化したい場合に適しています。
権利関係が複雑で一般の個人が敬遠する物件であっても、専門業者が直接買い取れば、買主探しを待つことなくスピーディーに取引を完結できます。
買取業者が市場で需要の低い共有持分を買い取れるのは、他の共有者との交渉や共有状態の解消、さらには収益物件としての活用に関する高度なノウハウを有しているためです。専門知識を持つ業者は、権利調整を含めた出口戦略を多角的に描けるため、一般の買主が取得を避ける持分であっても積極的に購入してくれます。
売却の手続き自体は内密に進められますが、不動産登記の書き換えによって最終的には他の共有者が譲渡の事実を知ることになります。買主となった業者から突然の連絡が入ることで共有者が困惑し、感情的な反発からトラブルが激化するケースも想定されます。
不要な対立を避け、共有関係の円滑な解消を目指すのであれば、売却が確定したタイミングで持分を譲渡する意向を他の共有者へ事前に伝えておくのがおすすめです。
「共有不動産全体の評価額×持分割合×50〜70%」:第三者(一般人や投資家)に売却する場合
専門の仲介業者を介して個人投資家などへ売却する場合、成約価格の目安は「共有不動産全体の評価額×持分割合×50%〜70%」程度となります。
個人投資家などへの売却は、業者の利益分を差し引く必要がないため、専門の買取業者へ売却するよりも高値で取引される傾向があります。
投資目的で共有持分を取得する買主は、主に「インカムゲイン(継続的な収益)」や「キャピタルゲイン(売却益)」の獲得を目指しています。
○インカムゲイン(継続的な収益)
物件を独占使用している共有者に対し、持分割合に応じた賃料相当額の支払いを求める不当利得返還請求を行い、投資額に対する高い利回りを確保します。市場価格より割安な価格で持分を取得しているため、家賃相場に基づいた請求が認められれば、通常の不動産投資を上回る収益性を実現できる可能性があります。
○キャピタルゲイン(売却益)
不当利得返還請求を交渉の材料として使い、最終的に他の共有者から全ての持分を集約して不動産全体として転売したり、自身の持分を他の共有者に高値で買い取らせたりすることで売却益を創出します。
買取業者への売却と比較して高い価格が期待できる一方で、成約までに長期間を要するリスクも考慮する必要があります。さらに、購入しても利用や処分に制約が多く、共有持分のみを購入しようとする第三者はほとんどいないため、あまり現実的な選択肢ではありません。
【相続する場合】小規模宅地等の特例を適用できる可能性がある
相続によって共有持分を取得した際、一定の要件を満たすことで「小規模宅地等の特例」を適用できる可能性があります。
■小規模宅地等の特例とは?
亡くなった人(被相続人)や、その人と生計を一つにしていた親族が、居住用や事業用として使っていた宅地等を相続した場合に、その評価額を最大80%減額できる制度。相続税の負担を軽減し、相続人が住む場所や事業基盤を失わないようにすることを目的としている。
相続する物件が共有持分であっても、各相続人が個別に要件を満たしていれば特例の適用が可能です。
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宅地の区分
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限度面積
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減額率
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主な適用要件
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特定居住用宅地等(自宅など)
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330㎡まで
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80%
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配偶者が相続、または同居親族が相続し、申告期限まで居住と所有を継続すること
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特定事業用宅地等(事業所など)
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400㎡まで
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80%
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相続人が事業を引き継ぎ、申告期限まで事業と所有を継続すること
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貸付事業用宅地等(アパートなど)
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200㎡まで
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50%
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相続人が貸付事業を引き継ぎ、申告期限まで事業と所有を継続すること
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出典:国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
特例の判定は相続人(取得者)ごとに行われるため、例えば「共有者Aは居住要件を満たすが、共有者Bは満たさない」という場合、特例が適用されるのはAが取得した持分のみとなります。
小規模宅地等の特例は、他の特例との併用可否や、複数の宅地がある場合の面積調整が非常に複雑です。税金に対する効果が非常に大きい制度であるため、どの宅地に適用するのが最も節税効果が高いかを含め、しっかりと税理士に相談して正確な計算を行うのがよいでしょう。
まとめ
共有持分の評価額は、基本となる「不動産全体の評価額 × 持分割合」をベースに、市場の実態や法的な制約を反映して算出されます。
まず、土地の一物五価や建物の固定資産税評価額といった適切な基準を用いて「不動産全体の価値」を正確に把握することが、適正な評価への第一歩となります。算出した理論上の価値に対し、実際の売却シーンでは「自由に利用・処分できない」という権利上の制約から生じる共有減価が大きく影響してきます。
具体的には、第三者へ売却する場合、投資家なら按分額の50〜70%、専門業者なら30〜50%程度が相場となります。税務上の評価(相続税評価額)と実務上の評価(売却価格)の乖離で損をしないよう注意しましょう。
そして、不利益を避けるには、共有者への売却優先や小規模宅地等の特例の活用といった出口戦略が重要です。弁護士や税理士、共有持分に強い買取業者など専門家の知見を借り、実態に即した判断を行うことが解決への近道となります。
共有持分の評価についてよくある質問
共有持分を高く売却するポイントはありますか?
共有持分を高く売却するための重要なポイントは、適切な売却先の選定と相見積もりです。
まず、他の共有者への売却交渉を最優先に検討しましょう。共有者にとって持分の買い増しは、不動産全体の権利を単独所有にできる大きなメリットがあります。第三者へ売却する際のような、権利の不自由さに伴う大幅な減額が発生しにくいため、市場価格に近い高値での成約が期待できます。
共有者との合意が難しい場合は、共有持分を専門に扱う買取業者へ依頼を検討しますが、その際に査定額を比較検討することが不可欠です。共有持分は評価が難しく、業者によって提示額に差が出やすいため、必ず複数の専門業者へ査定を依頼しましょう。
各社の査定額を比較し、より良い条件を提示する業者を見極めることが、最終的な手残り金額を増やす鍵となります。