破産管財人が任意売却をするケース!流れや必要書類とは

破産管財人 任意売却

自己破産した場合、不動産はどのように取り扱われるのでしょうか?一般的には、競売にかけられてしまうイメージが強いでしょう。

しかし、自己破産になっても、必ず競売になるとは限りません。裁判所によって破産管財人が選任された場合、「任意売却」を行う可能性があります。

任意売却とは、債権者と交渉し、債務が残った状態で不動産を売り出す方法です。自己破産前に所有者自身が行う場合もありますが、破産管財人が行う任意売却は流れが若干異なります。

この記事では、破産管財人や、自己破産に伴う任意売却について、関連制度などを詳しく解説します。自己破産を申し立てた人や、これから自己破産をするか迷っている人は、ぜひ参考にしてください。

破産管財人とは

破産管財人とは、自己破産した人の財産を管理・処分する人のことです。自己破産の申し立てを受けた裁判所が、地域に勤務する弁護士から選任します。

この法律において「破産管財人」とは、破産手続において破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利を有する者をいう。出典:e-Govポータル「破産法第2条第12項」

自己破産には「管財事件」と「同時廃止」の2種類があり、管財事件が選ばれた場合に破産管財人が選任されます。債務者の財産はすべて、「破産財団」という形式で破産管財人に信託されます。

管財事件 債務者の財産を調査し、債権者への清算を行ってから債務の免責許可が決定する
同時廃止事件 申し立てと同時に破産手続きを終了し、免責許可が決定する

破産管財人が選任されるかどうか(管財事件と同時廃止のどちらになるか)は裁判所が決定するため、債務者に選択権はありません。

原則として、債務者が一定の財産を保有している場合は管財事件となるので、不動産を所有していれば通常は破産管財人が選任されます。

破産管財人が選任されると、不動産の任意売却が行われ、その売却代金が債権者への弁済・配当に充てられます。

破産管財人によって任意売却が行われるケース

先述の通り、破産管財人が選任されるかどうか(管財事件になるかどうか)は裁判所が決定します。

裁判所の決定基準としては、次の2つが挙げられます。

  • 不動産などの高額な財産を保有している
  • 免責不許可事由に当たる可能性がある

上記のどちらかに当てはまれば、基本的には管財事件が選ばれます。

不動産などの高額な財産を保有している

本来、自己破産の正式な手続きは管財事件のほうです。しかし、債務者に清算できる財産がない場合、わざわざ破産管財人を選任しても意味がありません。

そのため、債務者に財産がないことが明らかなケースにおいて、手続きを簡略化する目的で同時廃止が選ばれます。逆に言えば、清算できる財産があれば管財事件になるのが原則です。

具体的な財産の基準は裁判所によって異なりますが、東京地方裁判所の場合、以下のような例を挙げています。

  • 33万円以上の現金がある場合
  • 20万円以上の換価対象資産(預貯金、保険の解約返戻金、未払報酬・賃金など)がある

参照:裁判所「よくある質問 破産手続について(申立てを検討中の方) 3.「管財事件」と「同時廃止事件」のどちらになるかは、どのように決まりますか。」

不動産を持っている場合、その価値が20万円以下になるケースはほとんどないため、基本的には管財事件になると考えましょう。

不動産だけでなく、車や美術品、事業者なら設備や機材など、換価価値がある資産を持っていれば管財事件になります。

免責不許可事由に当たる可能性がある

財産がない場合でも、免責不許可事由に当たる場合、破産管財人が選任されます。

免責不許可事由とは?
債務の免責許可を認めない事由。自己破産に至る経緯や申立後の対応などで、債務の免責が不許可となる。
※ただし、裁判官の判断で免責を認める「裁量免責」という制度もあるため、実際には免責不許可事由に該当しても免責されるケースがある。

免責不許可事由には、以下のような例が挙げられます。

  • 財産の隠匿や意図的な損傷、その他債権者に不利益となる行為
  • 破産手続きの妨害や協力拒否
  • 自己破産を前提とした借金
  • 浪費やギャンブル、投資による債務
  • 虚偽を用いた信用取引
  • 業務帳簿の隠滅
  • 偏波返済※
偏波返済とは?
特定の債権者に対して、優先的に弁済や担保供与を行うこと。偏波返済が明らかになると、その弁済や担保は破産管財人に返還される。

参照:e-Govポータル「破産法第252条第2項」

免責不許可事由がある場合、裁量免責を認めるべきかを判断するため、裁判所によって破産管財人が選任されます。

ただし、免責不許可事由があっても、その程度が軽い場合や債務総額が少額だと、同時廃止になる場合もあります。

(補足)ローン残債が大幅に多い場合は破産管財人が選任されない

不動産があれば原則として管財事件となりますが、ローン残債が多い場合、同時廃止になる場合もあります。

具体的には、ローン残債額が不動産価格の1.5倍未満だと管財事件に、1.5倍以上だと同時廃止になります(東京地方裁判所の場合)。

【管財事件として取り扱われる場合の例】
(前略)
 ③ 債務者が所有する不動産の被担保債権額が不動産処分価格の1.5倍未満の場合
(後略)出典:裁判所「よくある質問 破産手続について(申立てを検討中の方) 3.「管財事件」と「同時廃止事件」のどちらになるかは、どのように決まりますか。」

これは、不動産を売却しても債権者に弁済できる金額が少なく、管財事件を選ぶ意義が薄いためです。

ただし、1.5倍という数値もケース・バイ・ケースであり、それを超えていれば必ずしも管財事件になるとは限りません。他の基準も同様ですが、管財事件と同時廃止は一律に判断されるものではなく、個々の事情に応じて総合的に判断されると考えましょう。

破産管財人による任意売却の流れ

破産管財人による任意売却は、次の流れで進みます。

  1. 破産管財人と破産者が面会を行う
  2. 不動産業者に査定の依頼を行う
  3. ローンの抵当権を外す
  4. 買主を探して不動産売買契約を締結する
  5. 決済を行う

一連の流れは基本的に破産管財人が行うので、破産者本人がすることはほとんどありません。破産管財人の指示に従い、書類の引き渡しや決済の立ち会いをしましょう。

破産管財人と破産者が面会を行う

自己破産を申し立て、管財事件に決定すると、まず破産管財人と破産者の面会が行われます。面会場所に決まりはありませんが、破産管財人になった弁護士の事務所で行うのが一般的です。

面会では、破産管財人から破産者に対して質問が行われます。債務の経緯や現況、保有資産、法人なら未払い賃金や契約の処理状況などを聞かれるので、すべて素直に答えましょう。

破産管財人によるヒアリングのうえ、今後の流れや破産者に求める協力事項などを打ち合わせます。また、建物のカギや不動産関連書類なども、面談時に破産管財人へ引き渡します。

破産管財人に渡す必要書類等

破産管財人に渡す必要書類等は、以下の通りです。

  • 登記識別情報(もしくは登記済権利証)
  • 全部事項証明書
  • ローン返済計画書
  • 不動産の売買契約書
  • カギ

詳しくは破産管財人から指示されるので、該当する書類はすべて引き渡しましょう。

不動産業者に査定の依頼を行う

必要書類等の引き渡し後は、破産管財人が任意売却を進めます。通常なら売主が行う手続きを、破産管財人が代わりに行うと考えましょう。

破産管財人は、不動産会社に依頼して、物件の査定を行います。どの不動産会社に依頼するかは破産管財人の判断によるため、破産者は意見を言えません。

なお、任意売却の価格相場は、通常の市場価格の8~9割程度が一般的です。稀に市場価格と同額での売却もできますが、通常は売却期間の短さなどから若干値下がりします。

任意売却の価格相場については、下記の関連記事でも詳しく解説しています。

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ローンの抵当権を外す

査定結果をもとに、ローン債権者(金融機関)に任意売却の同意をもらう交渉を行います。ローン債権者の同意を得られない場合、任意売却はできません。

ローン債権者が同意するかどうかは、融資がどれだけ回収できるかによります。基本的には競売より任意売却のほうが高く売れるため、妥当な査定結果であれば同意は得られるでしょう。

ただし、査定額が競売の落札相場とほぼ変わらない場合や、需要が低く売却自体が困難などの事情があれば、同意を得られない可能性があります。

ローン債権者の同意を得られれば、物件の抵当権を外し、売却活動に進みます。

買主を探して不動産売買契約を締結する

売却活動は、査定を依頼した不動産会社と媒介契約を結んで行います。買主の募集方法は、通常売却と同じ方法(広告や顧客への営業)のほか、「任意入札」という方法を取る場合もあります。

任意入札とは?
購入希望者が複数いる場合に、オークション形式で買主と価格を決める方法。競争原理が働くため高値で売れやすく、期日を設定することで任意売却を計画的に進められる。

買主が見つかったら、売買契約を結びます。通常であれば所有者(売主)と買主の名義で契約しますが、管財事件の売却物件は破産管財人に信託されているため、所有者ではなく破産管財人の名義で売買契約が締結されます。

決済を行う

売買契約の締結後、買主のローン審査が完了したら決済(代金支払い)および物件の引き渡しを行います。決済・引き渡しには、原則として破産者も立ち会いが必要です。

決済後、不動産の代金は破産管財人に渡され、債権者への配当金となります。ただし、債権者との交渉によって、引越し代金を支給してもらえる場合もあります。

以上が、破産管財人による任意売却の流れです。一般的に、破産管財人による任意売却は半年から1年程度かかるとされています。

債権者の同意が得られなかった場合

任意売却では、債権者の同意をもらい、抵当権を抹消する必要があります。しかし、売却価格の折り合いがつかない場合や、いわゆる「ハンコ代」を盾に後順位抵当権者が同意を拒否してくる場合があります。

ハンコ代とは?
抵当権の抹消承諾料のこと。
債権者が複数いる場合、残債額が売却価格より低いと、後順位抵当権者は配当を受けられない。その際、先順位抵当権者が後順位抵当権者にハンコ代を支払うことで、任意売却(抵当権抹消)の同意をもらう。

通常の任意売却であれば、債権者から同意を得られない時点で任意売却はできなくなります。一方、破産管財人が行う任意売却では、「担保権消滅の許可の申し立て」が可能です。

破産手続開始の時において破産財団に属する財産につき担保権(特別の先取特権、質権、抵当権又は商法若しくは会社法の規定による留置権をいう。以下この節において同じ。)が存する場合において、当該財産を任意に売却して当該担保権を消滅させることが破産債権者の一般の利益に適合するときは、破産管財人は、裁判所に対し、当該財産を任意に売却し、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める額に相当する金銭が裁判所に納付されることにより当該財産につき存するすべての担保権を消滅させることについての許可の申立てをすることができる。ただし、当該担保権を有する者の利益を不当に害することとなると認められるときは、この限りでない。出典:e-Govポータル「破産法第186条」

つまり、破産管財人が申し立てれば、裁判所の職権で抵当権抹消が可能となります。債権者の意志は関係なくなるため、ハンコ代も不要です。

ただし、債権者にも対抗手段があり、破産管財人の申し立てから1ヶ月の間、以下のいずれかを実行できます。

  • 抵当権の実行…強制競売に移行する措置
  • 買受けの申し出…破産管財人の提示する価格に、5%以上を上乗せして購入する(買主は債権者自身でも他の誰かでも良い)

担保権消滅の許可の申し立ては、不当に高額なハンコ代を請求してくる後順位抵当権者がいるケースで有効です。抵当権の実行は後順位抵当権者だと受理されない可能性が高く、買受けの申し出なら結局は高額で売却できます。

以上のように、破産管財人による任意売却では、債権者の同意がなくても任意売却の実行が可能です。

破産管財人による任意売却についての疑問と回答

破産管財人による任意売却は、通常の任意売却(所有者自身が行う任意売却)と比べても制度が複雑です。ここまでの解説を読んでも、また疑問が残る人は多いでしょう。

ここでは、破産管財人による任意売却についてよくある質問とその回答を紹介していきます。

任意売却で得たお金に税金はかかる?

一般的には、不動産を売却した際に譲渡所得税が発生します。しかし、破産管財人が任意売却を行う場合、譲渡所得税は発生しません。

所得税法では、以下のような所得については所得税を課さないと定められています。

次に掲げる所得については、所得税を課さない。
(前略)
十 資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合における国税通則法第二条第十号(定義)に規定する強制換価手続による資産の譲渡による所得その他これに類するものとして政令で定める所得(第三十三条第二項第一号(譲渡所得)の規定に該当するものを除く。)出典:e-Govポータル「所得税法第9条第1項第10号」

この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(前略)
十 強制換価手続 滞納処分(その例による処分を含む。)、強制執行、担保権の実行としての競売、企業担保権の実行手続及び破産手続をいう。出典:e-Govポータル「国税通則法第2条第10号」

つまり、破産管財人による任意売却は「強制換価手続に類するもの」として政令で定められており、譲渡所得税が免除されます。

いつまでも買主が見つからないとどうなる?

任意売却は、債権者の同意を得ても買主がいなければ成立しません。なかなか買主が見つからない場合、どのような処理が行われるのでしょうか?

この場合、債権者が抵当権を実行し、競売を申し立てる可能性があります。抵当権は「別除権(自己破産の手続きに優先して行使できる権利)」に分類されるため、破産管財人がストップをかけることも不可能です。

競売より任意売却のほうが高く売れるのは先述の通りですが、債権者も早く融資を回収する必要があり、買主探しを延々と待ってはいられません。売却の見込みがないと判断されると、競売に移行される恐れがあります。

一連の手続きに費用はかかる?

破産管財人による任意売却自体には、費用は一切かかりません。任意売却の過程で発生する諸費用(仲介手数料や印紙税など)は売却代金から差し引かれるので、破産者の持ち出し金は0円です。

ただし、破産管財人が選任された時点で、最低20万円程度(負債額が高額だと50万~300万円程度)の「予納金」を裁判所へ納めます。予納金は、破産管財人への報酬や、自己破産手続きの諸費用に充てられます。

予納金は破産者自身の負担となるため、裁判所への申し立てまでに準備しなければいけません。弁護士に自己破産を依頼すると取り立てがストップするので、そこから返済に回していたお金を予納金に充てるのが一般的です。

破産管財人が選任されなかった場合はどうなる?

先述の通り、破産者の財産がほとんどない場合は破産管財人が選任されず、「同時廃止」という扱いになります。

同時廃止の場合、手続きは簡略化され、予納金も少なく済みます。一方、不動産はそのまま競売に移行するため、引き渡し時期の調整や引越し代支給の交渉などはできません。

管財事件か同時廃止かは選べませんが、仮に選べるとしても、どちらが良いかはケース・バイ・ケースと言えます。

まとめ

この記事では、破産管財人による任意売却について解説しました。基本的に、破産者本人は破産管財人の指示に従うだけとなります。

破産管財人が選任されるかどうか、つまり管財事件になるか同時廃止事件になるかも裁判所次第なので、自分自身にできることはほとんどありません。

すでに自己破産を申し立てている場合は新居探しを、まだ検討段階であれば自己破産をすべきか弁護士に相談することをおすすめします。現状に不安や後悔のある人も多いと思いますが、冷静に自分ができることを進めていきましょう。

破産管財人と任意売却についてよくある質問

破産管財人が選任された場合、どこまで調べられますか?

破産者の所有する財産と債務は、すべて調査対象になります。財産を隠したり、破産管財人の調査に協力しなかったりすると、免責不許可になる(債務が免除されない)可能性があるので、すべて正直に答えましょう。

破産管財人が任意売却を行う場合、報酬は誰が払いますか?

破産管財人の報酬は、裁判所に納める予納金から支払われます。予納金の金額はケース・バイ・ケースですが、最低でも20万円程度は必要です。

破産管財人による任意売却で、破産者がすることはありますか?

不動産に関する資料やカギを渡すことと、決済・物件引き渡しの際に立ち会うことが必要です。不動産会社の選定や売却活動、その他交渉などは破産管財人が行います。

任意売却の売却代金は、破産者の手元に残るのでしょうか?

原則、すべて債権者への配当に回されます。ただし、債権者との交渉によっては引越し代金分を支給してもらえる可能性があります。

任意売却が成約したら、すぐに出ていかなければいけませんか?

任意売却の場合、引き渡しの時期はある程度交渉が可能です。ただし、いつまでも居座るわけにはいかないので、なるべく早めに転居先を探しましょう。

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