築50年アパートは建て替えする?費用や判断基準、流れなどを解説

築50年アパート 建て替え

築50年が経過しているアパートは、老朽化が進んでいるため、安全性に懸念があります。また、減価償却の期間が終了している場合が多く、所有しているだけで負担になるケースもあります。
そのため、築50年はアパートの建て替えなどを検討するタイミングといえるでしょう。しかし、実際に建て替えるためにはどれくらいの費用がかかるのか、どのように判断すればいいのか、分からない人もいらっしゃるでしょう。
そこで今回は築50年が経過したアパートの建て替えについて、必要な費用の相場や建て替えなくてはいけない理由、建て替えのメリットデメリット、立ち退きの手順などについて解説します。アパートを建て替えるべきか悩んでいる人はぜひチェックしてください。

築50年のアパートは建て替えるべき理由

築年数が50年を超えるアパートは、さまざまな理由から建て替えたほうがいいといえます。具体的な理由は以下のとおりです。

  • 減価償却が終わっていて税負担が増える
  • 建物が老朽化している
  • メンテナンス費用が多くなる
  • 耐震性に不安がある
  • 空室が多くなる

それぞれ詳しく解説します。

減価償却が終わっていて税負担が増える

築50年のアパートを建て替えるべき理由として、減価償却が終わることで税負担が増えることが挙げられます。

減価償却とは、高額で経年劣化する資産を所得した場合に、その価額を耐用年数に応じて1年ごとに分割して経費計上することをいいます。

住宅の減価償却期間は以下のように設定されています。

  • 木造:22年
  • 金属造:19~34年
  • 鉄筋:コンクリート造47年

そのため、築50年のアパートはすでに減価償却が完了しているのです。
不動産投資では、建物の資産価値が時間の経過とともに減少します。減少した分は減価償却費として経費計上が可能なため、所得税や住民税などを節税できます。
しかし、築50年のアパートでは減価償却が終了しているケースが多く、経費計上できる金額が減少して、課税所得が増加します。そのため、税負担が増加するのです。
築50年のアパートを新たに建て替えれば、再度減価償却を開始できます。経費計上による節税ができるようになるほか、新築アパートは設備が新しいため、入居率のアップによる家賃収入の増加も期待できるでしょう。
ただし、アパートの建て替えには相当な資金を準備する必要があり、資金の準備や投資金額を回収する期間、収益の予測など、慎重に検討しなければなりません。

建物が老朽化している

築50年のアパートを建て替えたほうがいい理由として、建物が老朽化している点も挙げられます。
建物の老朽化とは、時間の経過とともに建物の構造や設備が劣化をすることをいいます。
建物の老朽化が進んだアパートは、さまざまな問題やトラブルが発生しやすくなります。
例えば、建物が老朽化すると入居者が集まりにくくなります。入居者はできるだけ快適に生活できる環境を求めるため、同じ条件や近い条件であれば、築年数の浅いアパートを選ぶ傾向にあるためです。
入居率が低下すれば、家賃収入が減少する可能性もあるでしょう。
また、老朽化したアパートは、建物の安全性が低下するケースがあります。日本は地震が多いため、設備が損害を受けたり、最悪の場合アパートが倒壊したりする恐れもあります。
これらの理由から、築50年が経過したアパートは建て替えを検討したほうがいいのです。

メンテナンス費用が多くなる

メンテナンス費用や修繕費が多くなるのも、築50年のアパートを建て替えるべき理由です。
築50年のアパートは建物の老朽化が進んでおり、メンテナンスや修繕の費用がかさみやすくなります。
水回りや電気設備、エアコンなどの設備を修繕したり、交換したりするための費用が増えやすくなるためです。
また、壁や床、天井、屋根など、建物の構造となる部分も劣化するため、同じく修繕費用がかさみやすく、オーナーに大きな負担になってしまうのです。
費用負担が増大して赤字となる前に、新しいアパートに建て替えれば、メンテナンスなどのかかるコストを抑えつつ、賃料収入や減価償却による節税を期待できるようになるでしょう。

耐震性に不安がある

築50年のアパートを建て替えるべき理由として、耐震性に不安があることが挙げられます。
古い耐震基準をもとに建てられているためです。
建築基準法で定められている耐震基準は1981年6月に改正され、現在に至るまでその基準が採用されています。
築50年が経過しているアパートの場合、いわゆる旧耐震基準(1981年5月以前の基準)をもとに建設されています。
震度7程度の強い地震を受けた場合、旧耐震基準に沿って建設されたアパートは、現在の耐震基準で建築された建物よりも、大きく損傷する恐れがあります。旧耐震基準の建物は、新耐震基準の建物と比較して、強い地震への耐性が低いからです。
そのため、旧耐震基準で建てられたアパートの安全性を考えた場合、耐震補強工事をするか、新しく建て替えるかのどちらかを選択しなければなりません。

なお、耐震補強工事に費用感は平均150万円程度、耐震診断は木造1棟につき10~30万円程度です(※具体的な金額は建物の規模や立地、建築会社などによって異なる)。

ただ、耐震補強工事を行ったところで、築年数が経過したアパートはメンテナンスや修繕に費用がかかりやすいほか、入居者が集まりにくいため、建て替えを選択するのが現実的といえます。

空室が多くなる

空室が多くなるのも、築50年のアパートを建て替えるべき理由です。
築年数が進んだ賃貸住宅は、入居者が集まりにくいためです。
同じ条件や似たような条件であれば、入居者は築年数が浅い住宅を選択しやすくなります。築年数が浅いアパートのほうが、住環境が快適になりやすいからです。一方、築年数が進んだアパートは、たとえ家賃が低くても入居者が常に集まるとはいえないでしょう。
また、先述のとおり、メンテナンス費用や修繕費用がかかりやすいため、家賃収入があっても手元に残るお金が少なくなる可能性もあります。
なお、一般的にアパートの建て替えを検討する空室率の基準は50%程度といわれています。
もし、空室率が50%を超えているなら、建て替えを検討するべきタイミングなのかもしれません。

築50年のアパートの建て替え費用

築50年のアパートを建て替えることを検討する場合、気になるのは建て替えにかかる費用でしょう。
古いアパートを建て替える場合、一般的には以下の費用が必要になります。

  • 新築の建築費用
  • 建て替え中の退去費用
  • 解体工事の費用

それぞれの費用がどれくらいかかるのか見ていきましょう。

新築の建築費用

新築アパートの建築費用は坪単価で考えると予測しやすくなります。
木造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造での建築費用の坪単価の相場は以下のとおりです。

  • 木造アパート:1坪あたり50~105万円
  • 鉄骨造アパート:1坪あたり70~120万円
  • 鉄筋コンクリート造:1坪あたり95~125万円

※具体的な金額は建物の規模、立地、建築会社などによって異なる

上記の費用相場から、床面積が80坪・100坪のアパートを建て替える場合、必要な建築費用の目安は以下のようになります。

80坪 100坪
木造 4,000万円~8,400万円 5,000万円~1億500万円
鉄骨造 5,600万円~9,600万円 7000万円~1億2,000万円
鉄筋コンクリート造 7,600万円~1億円 9,500万円~1億2,500万円

※具体的な金額は建物の規模、立地、建築会社などによって異なる

アパートの規模にもよりますが、4,000万円~1億2,500万円程度の建築費用が必要になります。
また、建築費用に加えて、外構工事など付帯工事にかかる費用が建築費用の20%程度、水道分担金や不動産取得税などの諸費用が建築費用の10%程度発生します。
ただし、上記の金額はあくまでも目安となります。具体的な費用は建設会社からの見積もりによって確認してください。

建て替え中の退去費用

築年数が進んだアパートを建て替える場合、入居者に退去してもらう必要があります。その際に発生する可能性があるのが立ち退き料です。
立ち退き料とは、オーナーの都合で退去してもらう場合に発生する損害を補償するものです。立ち退き料の内訳は以下のとおりです。

  • 新しい住まいへの引っ越し費用
  • 新居の敷金や礼金、保証金
  • 不動産会社への仲介手数料
  • インターネット回線の移転費用 など

立ち退き料の目安は、賃料の6ヶ月分~1年分程度になるのが一般的です。仮に1ヶ月の家賃が6万5,000円で、立ち退き料を家賃6ヶ月分と設定する場合、39万円程度の立ち退き料を支払うことになります。
また、交渉にかかる費用もオーナーが負担することになります。
なぜ立ち退き料が必要になるかというと、日本では借地借家法という法律があるためです。この法律によって、入居者の権利が強く保護されており、正当な理由がない限り貸主側から賃貸借契約を解約することができないのです。
上記の「正当な理由」にあたるのは以下のとおりです。

  • 建物の使用を必要とする事情があること
  • 徒前の経過(賃貸借契約締結の際の事情、賃貸借契約の期間、契約継続中の更新料の有無やその額、入居者側の債務不履行の有無や程度など)
  • 建物の現況(建物の種類が構造、規模、用途、県築年数、利用頻度などの客観的な状況)
  • 建物の明け渡しを条件として賃借人に対して財産の給付(立ち退き料の支払い)を行うこと

参考:借地借家法第二十八条 建築賃貸借契約の更新拒絶等の要件

そのため、各状況を考えた上で、オーナーと入居者の双方が納得できる立ち退き料の金額を交渉することになります。

解体工事の費用

築年数が進んだアパートを建て替える場合、解体工事が必要です。
木造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造の解体費用の相場は以下のとおりです。

  • 木造アパート:1坪あたり2万5,000円~4万円
  • 鉄骨造アパート:1坪あたり3万5,000円~6万円
  • 鉄筋コンクリート造アパート:1坪あたり4万5,000円~8万円

※具体的な金額は建物の規模、立地、建築会社、解体業者によって異なる。

上記の費用相場から、床面積が80坪・100坪のアパートを解体する場合、必要な解体費用の目安は以下のようになります。

80坪 100坪
木造 200~320万円 250~400万円
鉄骨造 280~480万円 350~600万円
鉄筋コンクリート造 360~640万円 450~800万円

※具体的な金額は建物の規模、立地、建築会社、解体業者によって異なる。

上記のように、建物の構造によって200~800万円の解体費用がかかります。

築50年のアパートは建て替えとリノベどっちがいい?

築50年のアパートを建て替えるには、相応の費用が必要になることが分かりました。
一方で、築年数の進んだアパートを建て替えるのではなく、躯体や構造などを残したまま、リノベーションするという選択肢もあります。
リノベーションとは、築年数が経過した物件の間取りや設備、配管などを替える大掛かりな修繕工事のことです。
アパートの性能を高めたり、付加価値を加えたりするために行われるほか、アパート周辺の環境が変化している場合や、建築規制によって同じ場所に同じ規模のアパートを建てられない場合にも、リノベーションが選択される場合があります。
使いやすい間取りで新築同様の内装になるため、入居者を確保しやすくなり、賃料をアップさせられるメリットがあります。特に、躯体が頑丈なアパートで活用しやすい方法です。
では、築50年が経過したアパートは、建て替えるのか、リノベーションするのか、どちらがいいのでしょうか。
ここでは建て替えとリノベーションにかかる費用を比較したいと思います。
現状のアパートの条件を以下のように設定します。

  • 築50年の木造アパート
  • 床面積100坪、8部屋
  • 家賃6万5,000円
  • 残債なし
  • 空室率50%

まずは建て替える場合の費用のシミュレーションです。

建て替え費用
立ち退き費用 156万円(賃料6ヶ月分×4部屋分)
解体費用 400万円(解体坪単価4万円想定×100坪)
建築費用 8,000万円(建築費用坪単価80万円×100坪)
付帯工事費用 1,600万円(建築工事費用の20%想定)
建築諸費用 800万円(建築工事費用の10%想定)
合計 1億956万円
収支シミュレーション
年収 816万円(8部屋・12ヶ月分・満室想定)
※新築により家賃を2万円アップの8万5,000円と想定
支出 122万4,000円(年収の15%を経費率として想定)
利回り 約6.3%(年収-支出÷建て替え費用×100)

新築の場合、工事費用が高くなりやすいほか、ローン返済が20年程度続くことになりますが、減価償却期間も19~27年ほど続くため、節税効果を期待できます。
また、新築にすることで、家賃を高く設定できるため、年収アップを期待できるでしょう。

次に、リノベーションの場合の費用シミュレーションです。

リノベーション費用
立ち退き費用 156万円(賃料6ヶ月分×4部屋分)
リノベーション費用 8,000万円(1戸1,000万円×8部屋)
合計 8,156万円
収支シミュレーション
年収 630万円(7部屋入居・12ヶ月分)
※リノベーションにより家賃を1万円アップの7万5,000円と想定
支出 126万円(年収の20%を経費率として想定)
利回り 約6.2%(年収-支出÷リノベーション費用×100)

リノベーションの場合は工事費用が抑えられますが、築年数が進んでいる場合、想定外の費用が発生する場合がある点には注意が必要です。
また、築年数が経過しているため、家賃アップの割合は低くなります。

築50年のアパートを建て替えるメリット

次に、築50年のアパートを建て替えるメリットを解説します。具体的なメリットは以下のとおりです。

  • 減価償却を再開でき、所得税の節税になる
  • 相続税対策になる
  • 収益性を上げられる

それぞれ詳しく見ていきましょう。

減価償却を再開でき、所得税の節税になる

減価償却を再開でき、所得税を節税できるというのが、築50年のアパートを建て替えるメリットの1つです。
減価償却とは、高額で経年劣化がする資産を所得した場合に、その価額を耐用年数に応じて1年ごとに分割して経費計上することをいいます。
築50年のアパートは減価償却が終了している場合がほとんどで、減価償却分を経費計上できず、節税ができません。
しかし、アパートを建て替えることで、新たに減価償却ができるようになり、耐用年数に応じて所得税を減税できるようになります。
建物の構造ごとの減価償却期間(耐用年数)は以下のとおりです。

  • 木造アパート:22年
  • 鉄骨造アパート(骨格材の厚み3mm以下):19年
  • 鉄骨造アパート(骨格材の厚み3mm超え4mm以下):27年
  • 鉄骨造アパート(骨格材の厚み4mm以上)34年
  • 鉄筋コンクリート造:47年

※不動産業界においては、骨格材の厚みが6mm以上の鉄骨造、または鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造のものはマンションに分類される
参考:主な減価償却資産の耐用年数表|国税庁

上記のように、建て替えるアパートの耐用年数は、木造の場合は22年、鉄骨造の場合は19~34年となり、その期間内は減価償却ができるため、節税が可能になるわけです。
アパート運営によって節税効果を得たい場合は、築年数が進んだアパートを建て替えたほうがいいでしょう。

相続税対策になる

相続税対策になるのも、築50年のアパートを建て替えるメリットです。
相続税とは、故人がなくなった際、その人の財産を相続する人に対して課税される税金のことです。この場合の財産とは、不動産や預貯金、株式、債券などが該当します。
相続税は、財産の価額に対して税額が決められるため、財産の価値が高いほど相続税は高くなります。
築年数が進んだアパートを建て替えた場合、以下のような相続税の節税効果を期待できます。

  • 空室率が低下して賃貸割合が上がる
  • 建て替え費用として受けた融資額を財産の総額から差し引ける

アパートの所有者が亡くなった場合、土地と建物の両方が相続財産の対象となります。アパートの相続税評価額は、以下の計算式で算出します。

  • アパートの相続税評価額=固定資産税評価額×(1-借家権割合×賃貸割合)

築50年が経過しているアパートの場合、空室率が上がっているのがほとんどです。空室率が上がっている(=賃貸割合が下がる)場合、上記の計算式に当てはめると、アパートの相続税評価額は上がります。
つまり、空室率が上がると、相続税が高くなるのです。
そのため、相続税の節税目的でアパートを所有する場合、相続時の空室率をできるだけ下げておくことが重要になります。
築50年のアパートを希望する入居者はかなり少ないと想定されるため、入居者を増やすためにも、アパートを建て替えたほうがいいわけです。
また、アパートの建て替え費用として金融機関から融資を受けている場合、相続時の債務がアパートの土地・建物の評価額の合計から差し引けます。
これにより、相続財産の評価額が下がるため、相続税を節税できます。
相続税を少しでも減らしたい場合は、アパートの建て替えが有効な手段となるでしょう。

収益性を上げられる

収益性を上げられるのも、築50年のアパートを建て替えるメリットです。
新築のアパートに入居したいと考える人が多いためです。
新築アパートは設備の品質が高く、内装も新しいため、入居希望者にとって快適で魅力的な住環境を提供できます。
また、質の高い住環境を提供できるため、それに見合った家賃を設定可能です。さらに新築アパートは賃貸市場での競争力があるため、ニーズが高まることで家賃をより引き上げられる可能性があります。
他にも、新築のアパートは最新の建築技術や省エネルギー設備が採用されるため、アパート運営にかかるランニングコストを低減できるケースが多いといえます。
築50年のアパートと比較して、収益性が大幅に改善されることで、アパートオーナーの収入はアップしやすくなるでしょう。

築50年のアパートを建て替えるデメリット

築50年のアパートを建て替える場合、メリットだけではなくデメリットも存在します。具体的なデメリットは以下のとおりです。

  • 建て替え費用がかかる
  • 入居者の立ち退きが必要になる
  • 入居まで3〜4年かかり、無収益期間が発生する

それぞれ詳しく解説します。

建て替え費用がかかる

築50年のアパートを建て替えるデメリットの1つが、建て替え費用がかかるということです。
アパートを建て替えるためには、既存の建物を解体した後に、新しい建物を建築しなければなりません。
前述したように、新しくアパートを建てるには数千万~億単位の資金が必要です。多くの場合で金融機関からの融資を受ける必要があり、アパートの建築後は融資を返済していくことになります。
また、築年数が進んだアパートを解体する場合、周辺の環境が変化し、建物が隣接しているケースや、庭木が生い茂っているケースもあります。
これらが解体の妨げになるような場合は解体費用が高額になり、建て替え費用が増大することもあります。
アパートの建て替えには、相当な資金を準備する必要があることを理解しておきましょう。

入居者の立ち退きが必要になる

入居者の立ち退きが必要になるのも、築50年のアパートを建て替える場合のデメリットです。
特に、築50年のアパートの場合、長期間入居している入居者が多い傾向にあります。長期入居者は立地や環境、家賃など、さまざまな要因から長期間入居しています。
退去を依頼した場合、転居先が見つからなかったり、退去準備に時間がかかったりするケースもあります。
アパートの建て替えによる立ち退き交渉は、最低でも半年前に文書で告知する必要がありますが、築50年のアパートの場合はそれよりも前から告知しておいたほうがいいでしょう。
また、立ち退き交渉が難航する場合は、立ち退き料を上乗せするなど、交渉方法や材料も考えなければなりません。
入居者の立ち退きが完了しなければ、アパートの建て替えはできないため、できるだけ早く準備しておくことが重要です。

入居まで3〜4年かかり、無収益期間が発生する

新しいアパートが完成し入居が開始するまで無収益となるのも、築50年のアパートを建て替えるデメリットです。
一般的に、アパートの建て替えを検討してから、新しい入居が始まるまで、3~4年程度はかかるからです。
アパートの建て替えはプランの検討から始まり、実際に建て替えが決定した場合は、立ち退きや解体、新築工事などの手順を踏むことになります。最終的に新たなアパートに入居者が入るまで、3~4年程度かかることになります。
また、立ち退き交渉や工期が長引く恐れもあり、無収益期間が長期化する可能性もあります。
建て替えを計画する段階から、無収益期間がどれくらいになりそうか、その間に家賃収入が発生しなくても問題ないかなど、シミュレーションする必要があるでしょう。

アパート立ち退きの手順

次に、アパートの建て替えが決まった場合の、入居者の立ち退きの手順について解説します。具体的な手順は以下のとおりです。

  1. 退去通知・更新停止のお知らせを書面で送る
  2. オーナーと入居者がお互いに合意
  3. 入居者の退去準備

それぞれ詳しく見ていきましょう。

退去通知・更新停止のお知らせを書面で送る

アパートのオーナーの都合で入居者に退去を求める場合、まずは書面で退去通知や更新停止を知らせます。
通知は書面で行われるのが一般的で、半年~1年前には通知しておく必要があります。なお、口頭のみで通知されることはありません。
また、通知書には、以下の項目について具体的な内容の記載が必要です。

  • 通知書を作成した日付
  • 建て替えを実施する理由
  • 予定されている工事のスケジュール
  • 立ち退きまでの期間 など

書面を送付した後は、入居者と直接話をして退去について説明します。通知を書面で送付しただけでは見ていない可能性があり、退去の合意を得られない恐れがあるためです。
特に建て替えの理由や計画、立ち退きまでの期間について、明確に説明します。

オーナーと入居者がお互いに合意

立ち退きの内容に入居者が納得して合意形成できた場合は、立ち退き交渉は完了です。
ただし、すべての入居者や立ち退き交渉に前向きに応じてくれるとは限りません。
例えば、引っ越し費用が捻出できずに退去できない場合や、現状と同じ予算で暮らせる住居が見つからない場合、立ち退き交渉が難航する可能性もあるでしょう。
このような場合、入居者に対して立ち退き料の支払いが必要になることがあります。
立ち退き料とは、貸主や借主に対して普通賃貸借契約の解除や更新を拒絶する際に、両者の話し合いが折り合わない場合、貸主から借主に支払われる補償金のことをいいます。
具体的には、引っ越し費用や新しい住まいを借りるための資金、礼金、保証金などを補償するための費用です。
立ち退き料の金額には明確な基準がありません。また、法律的には支払う義務はありませんが、交渉材料の1つとして家賃や立ち退き期間などから、両者の交渉によって金額を決定するのが一般的です。
なお、立ち退き費用の相場は、家賃6ヶ月分~1年分程度の金額になるケースが多いでしょう。
また、単身者とファミリーでは引っ越し費用や入居費用が異なるため、ある程度まとまった金額を支払う可能性があることを把握しておきましょう。
ただし、退去通知を前向きに受け入れてくれる入居者もいるため、オーナーが立ち退き料をあえて提案する必要はありません。

入居者の退去準備

すべての入居者との立ち退き交渉が完了し、退去日が近づいてきたら、入居者の退去準備が始まります。
通常の退去手続きでは、退去の1ヶ月前に入居者側から通知してもらうのが一般的ですが、アパートの建て替えによる立ち退きでは、できるだけ早く退去してもらったほうがいいでしょう。
退去してもらいやすいよう、退去前の家賃を1ヶ月分免除したり、原状回復費用の免除による敷金の全額返還などを実施したりすれば、退去に協力してもらいやすくなります。

築50年のアパートを建て替える以外の選択肢

築50年のアパートの建て替えについて解説してきましたが、建て替え以外にもいくつかの選択肢があるため紹介します。具体的な選択肢は以下のとおりです。

  • 売却する
  • 更地活用する
  • 賃貸併用住宅にする

それぞれ詳しく見ていきましょう。

売却する

築50年のアパートを活用する手段として、アパートを売却する方法があります。
売却する場合のメリットは以下のとおりです。

  • 一括で資金を取得できる
  • 不動産市場の変動によるリスクを回避できる
  • 手続きに手間がかかりにくい

アパートを売却する大きなメリットは、一括で売却資金を手に入れられるということです。まとまった資金になる場合もあるため、新たな資産運用に資金を投入できるでしょう。
また、不動産市場は常に変動しており、価格が下落するリスクを伴うほか、築年数が進んだアパートでは、運営にトラブルが発生する可能性が高くなります。これらのリスクは、アパートを売却することで回避可能です。
さらに、不動産の売却は比較的スムーズに進むことが多く、手続きにそれほど手間がかからない可能性があります。

一方、アパートを売却する場合、以下のデメリットがあります。

  • 市場価値が低い
  • 譲渡所得に対して税金が課される

まず、築50年のアパートは老朽化が進んでいるため、資産価値が低くなるケースがあります。また、土地が欲しい人にとってはアパートが邪魔になるかもしれません。建物の解体が必要になり、その分の費用が発生するため、買い手が付きにくくなる可能性があります。
そして、アパートを売却(=譲渡)した場合、譲渡所得に対して所得税や住民税が加算される点もデメリットです。
譲渡所得とは、土地や建物、株式、ゴルフ会員権などの資産を譲渡(=売却)することで発生する所得のことです。
譲渡所得や税額は以下の計算式で算出されます。

  • 譲渡所得=譲渡収入金額-(取得費+譲渡費用)
  • 税額=譲渡所得×所得税・住民税のそれぞれの税率

また、土地や建物を売却した際に発生する譲渡所得に対する税金は以下のとおりです。

区分 所得税 住民税
長期譲渡所得
(売却年の1月1日現在で所有期間が5年を超える場合)
15% 5%
短期譲渡所得
(売却年の1月1日現在で所有期間が5年以下の場合)
30% 9%

※確定申告時には所得税と合わせて所得税額に2.1%を掛けた復興特別所得税の申告・納付が必要
参考:土地や建物を売ったとき 税額の計算|国税庁

売却益が高いほど、課税される所得税・住民税も高くなる点には注意しましょう。
また、アパートの立地条件が良い場合は、建物だけを解体して更地にして売却するのも1つの方法です。
なお、不動産を売却する場合は、築古物件に強い不動産買取業者へ売却するのがおすすめです。建て替え後に売却する場合は別として、築古のアパートを仲介業者に売ろうとしても買い手が付きにくいでしょう。
築古アパートの売却を検討している場合は、不動産売却一括査定サイトを利用してみましょう。全国から厳選された不動産会社の中から、あなたの不動産を高く売却してくれる不動産会社に出会うことができます。
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更地活用する

築50年のアパートを解体し、更地にして新たに活用するのも1つの方法です。
更地にして活用するメリットは以下のとおりです。

  • 新しい建築物を立てられる
  • 土地を最大限に活用できる

アパートを解体して更地にすれば、新しい建物を建てられます。最新の設備やデザインなどを備えた不動産を建築することも可能で、高い収益性や節税を期待できるでしょう。
また、立地条件や広さに合わせた建物や設備を建てることで、所有する土地を最大限に活用できるのもメリットです。
例えば、アパートが建っているのが駅の近くや交通量の多い場所であれば、駐車場やテナントビルにして収益化を目指すという選択肢があります。
一方、更地にして活用する場合、以下のデメリットがあります。

  • 建て替えコストがかかる
  • 工事期間は収益が発生しない

アパート以外の建物や施設を建てる場合でも、相応の建築コストがかかる点がデメリットです。鉄筋コンクリート造の不動産を立てる場合は、多額の資金が必要になるため注意しなければなりません。
また、アパートの建て替えと同様に、建築物が完成し運用が始まるまでは収益が発生しません。無収益になる期間を事前に確認し、問題がないかどうか慎重に検討する必要があるでしょう。

賃貸併用住宅にする

築50年のアパートを、賃貸併用住宅にする方法もあります。
賃貸併用住宅とは、戸建住宅の一部に賃貸住宅を加えた建物のことです。
賃貸併用住宅を建てることで、以下のようなメリットがあります。

  • 住宅ローンを利用して建てられる
  • 賃料収入で住宅ローンを返済できる
  • 節税効果が期待できる
  • 安定収入を得られる可能性がある
  • ライフステージの変化に対応しやすい

賃貸併用住宅にすることで、住宅ローンを利用した賃貸経営が可能になります。住宅ローンは一般的なアパート向けローンよりも低金利なため、融資に対する金利負担が軽減できます。
また、賃貸併用住宅を建てるために住宅ローンを利用する場合、自宅部分の床面積が50%以上であることが条件となり、条件を満たせば賃貸部分も住宅ローンで建てられるようになります。
次に、賃貸部分から発生する賃料収入を住宅ローンの返済に充てられるのもメリットです。
場合によっては、住宅ローンの返済月額のすべてを賃料収入で賄うこともできるため、自己資金が少なくても建て替えが可能です。
さらに、賃貸併用住宅を建てることで、節税効果を期待できます。
節税できる税金とその理由は以下のとおりです。

  • 所得税:住宅ローン控除を利用できるため
  • 相続税:自宅部分と比較して賃貸部分の評価額が敷地は約2割、建物は約3割低くなるため
  • 固定資産税:1つに土地に対して戸数が増えることで固定資産税が減額される割合が増えるため

※相続税は一定の要件をクリアすれば小規模宅地等の課税の特例によって、相続税の評価額が減額される場合があり、さらに節税できる

その他にも賃貸部分に入居者がいる限り、安定的な収入源となるほか、将来的に賃貸部分を二世帯住宅として利用するなど、ライフステージの変化に対応しやすいといったメリットもあります。

一方、賃貸併用住宅にするデメリットは以下のとおりです。

  • プライバシーが確保しづらくなる恐れがある
  • 売却や引っ越しが難しい
  • 空室リスクが伴う
  • 管理に手間がかかる

賃貸併用住宅では、設計次第でオーナー・入居者双方のプライバシーが確保しづらくなるケースがあります。
自宅と賃貸部分の導線を分けたり、目隠しを設置したりするなど、配慮が必要になるでしょう。
また、賃貸併用住宅の購入ニーズが限定的であるため売却が難しいほか、引っ越しが必要になった場合、住宅ローンの一括返済が必要になる場合もある点には注意が必要です。
さらに、賃貸ニーズがない場所に賃貸併用住宅を建てた場合、空室が発生するリスクがあります。空室の発生は収益に大きく影響するため、建てる前に周辺エリアの賃貸ニーズについて調査したり、間取りや内装を考えたりする必要があるでしょう。
そして、賃貸併用住宅では賃貸戸数が少ないために、賃貸物件の自主管理を選択するケースが多いです。しかし、賃貸管理にはさまざまな業務があるため、意外と手間がかかります。
管理に自信がない場合は専門業者に管理を委託したほうがいいですが、その分のコストが発生するため注意しましょう。

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まとめ

今回は築50年のアパートを建て替えるべき理由や建て替えにかかる費用、建て替えの判断基準などについて解説しました。
築年数が経過したアパートは節税効果が薄まっているほか、修繕やメンテナンスにコストがかかりやすくなります。
節税効果や収益性を回復させたい場合は、建て替えを検討したほうがいいでしょう。
ただし、建て替えには相応の資金が必要になることに加え、入居者への立ち退き交渉によっては追加のコストがかかることもある点には注意しましょう。
築50年のアパートを所有している場合は、本記事を参考に建て替えについて検討してみてください。

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