
家を売却し、売却後の家に賃貸物件として住み続けるリースバック。
「引っ越しをせずに家を売却できる」というメリットがある反面、通常の不動産売買とは違うトラブルが起きるリスクもあります。
・リースバックを検討しているけど、どんなリスクがあるの?
・リースバック後に起こるトラブルやその解決方法を知りたい!
・リースバックの契約にあたって、トラブルを防ぐ方法は?
など、さまざまな悩みや疑問を抱えている方も多いでしょう。
この記事では「リースバックを検討している人」のために、不動産専門家の観点から解説し、疑問やお悩みを解決します。
具体的には、
・リースバックのメリットとデメリット
・リースバックによるトラブルの具体的な例
・トラブルを防ぐための「リースバック契約時の注意点」
…etc
などを、重要なポイントに絞ってわかりやすく紹介していきます。
この記事を読めば、リースバック契約で起こりうるトラブルのリスクを最小限に抑えられるでしょう。最後まで読んで、ぜひ参考にしてください。
目次
リースバックとは「売却した家に賃貸として住み続ける」契約方法
リースバックとは「セール・アンド・リースバック」を略した言葉で、家の売却(sale:セール)と賃貸(lease:リース)がセットになった契約方法です。
家を売却した後も、家賃を支払って住み続けられるのが特徴です。
老後資金の調達や相続対策、ローン返済のための資金確保などで注目されつつある契約方法ですが、メリットがあればデメリットも当然あります。
リースバックのメリットとデメリットを比較して、具体的にどのような契約であるのか概要を把握しておきましょう。
また、リースバックについてより詳しく知りたい場合は、下記の関連記事も参考にしてください。

「まとまった現金が手に入る」「引っ越さなくてよい」などがメリット
リースバックのメリットは、家を売ることでまとまった現金が手に入る点と、家の売却後も引っ越さなくてよい点です。
「まとまった資金が必要だけど、財産といえるのが家しかない」
「家を売却して老後資金にしたいけど、住み慣れた家から引っ越したくない」
こういった状況の人たちにとって、家を売却しても住み続けられるリースバックは魅力的といえるでしょう。
また、契約内容によってはリースバックで売却した家を買い戻すことも可能です。
「一時的にまとまった現金が必要」という場合にも、有効な方法といえるでしょう。
「家の売却価格が安い」「家賃の支払いがある」などがデメリット
リースバックのデメリットは、一般的な不動産売買より売却価格の相場が安い点と、家賃の支払いが必要になる点です。
リースバックで家を売った場合、売却価格は一般的な市場相場の6~9割程度になります。地域や物件の細かい条件によっては、さらに変動があります。
また、これまで自分のものだった家に対して家賃を支払う状況に、心理的な違和感や抵抗感のある人もいるでしょう。
加えて、リースバックにおける家賃は同レベルの賃貸物件より高くなるのが一般的です。
なぜなら、通常の賃貸物件は近隣の相場なども考慮して家賃を設定するのに対し、リースバックでは「年間の家賃が買取価格の10%前後」というように一律で決められるからです。
リースバックしてから家に住み続ける期間が長期化すると、売却価格より家賃の合計額が大きくなり、トータルで見ると損失になってしまいます。
リースバックにおける代表的なトラブル例
リースバックは、うまく利用すればまとまった資金を簡単に調達できる方法です。
しかし、一般的な認知度が低いために、内容をきちんと把握せず契約してしまいトラブルになるケースが少なくありません。
リースバックにおける代表的なトラブル例を紹介しますので、リースバック契約を結ぶときの参考にしてください。
【トラブル例1】リースバックの審査に通らない
リースバックにも審査があり、だれでも契約できるわけではありません。
リースバックの審査には「所有者の審査」と「不動産の調査」があります。審査結果によっては、取引が成立しない場合もあるでしょう。
「査定を依頼したのに断られた」と憤る人もいますが、リースバックも不動産取引の1つです。必ずしも取引が成立するとは限らないと考えましょう。
リースバックの審査1:所有者の審査
所有者の審査では「家賃を滞りなく支払えるのか」が重要です。通常の賃貸借契約と同じく、安定した収入があるのどうかが見られます。
ただし、リースバックの利用者には高齢者も多いため「年金や物件の売却益で家賃を問題なく支払えるか」といった、収入以外の部分で判断される場合もあります。
また、共有名義不動は、共有者全員の同意がなければ売却できません。家が共有名義である場合、ほかの共有者もリースバックに同意している必要があります。

リースバックの審査2:不動産の調査
不動産の調査では、住宅ローンや抵当権の有無、事故物件でないかなどが調査されます。
とくに、住宅ローンの残債がリースバックの売却価格より高い場合、リースバックの審査に落ちてしまう可能性が高いでしょう。
このような物件は「任意売却」という方法で売却する必要があります。
任意売却は銀行との交渉などが必要な手続きで、リースバック業者には「任意売却が必要な物件は不可」としているところもあります。
住宅ローンの残債がリースバックの売却価格より高い場合、任意売却にも対応しているリースバック業者を探す必要があるでしょう。

【トラブル例2】交渉が進むにつれてリースバック条件が変わっていった
不動産取引においては、最初に提示された条件と契約直前の条件が変わってしまうケースは少なくありません。
不動産の査定は、簡易査定と本査定の2段階に分かれるのが一般的です。
簡易査定では調査しきれなかった部分が本査定で発覚する場合もあるので、査定価格が多少変動するのは覚悟しておいたほうがよいでしょう。
また、仲介手数料や保険料など細かい費用を詰めていくと、想像以上に費用が高くなり、売却代金がほとんど残らないというケースもあります。
査定額や諸費用をしっかりと検討してから、契約書にサインするようにしましょう。
【トラブル例3】契約後に家賃を上げられた
リースバックが成立し賃貸物件として住みはじめてから、家賃を上げられてしまったというケースもあります。
一般的なリースバック契約では、家賃の値上がりはほとんどありません。
しかし、次のような状況では、例外的に家賃を上げられる恐れがあります。
- 固定資産税など税金の増額によって、現在の家賃が不相当となった場合
- 近隣の家賃相場が上昇し、現在の家賃が不相当となった場合
ただし、リースバックの家賃は、通常の賃貸借契約と同じ考え方が適用されます。
通常の賃貸借契約においても、家賃の変動は貸主と借主の交渉で決められます。
不当な値上げを請求された場合、不動産に強い弁護士と相談しながら家賃交渉をするとよいでしょう。
【トラブル例4】ライフプランの予想が外れて家賃を支払えなくなった
ライフプランの見通しがうまくいかず、家賃を支払えなくなるケースもあります。
- シミュレーションより生活費の支出が大きくなった
- 会社の倒産や転職・退職で収入が減ってしまった
- 病気や怪我で働けなくなった
上記のような理由で、収入と支出のバランスが崩れてしまう場合もあるでしょう。家賃の支払いができないと、家からの退去を請求されてしまいます。
これらのリスクをなくすためには、無理のないライフプランを立てる必要があります。また、必要に応じて医療保に加入するなど「不測の事態」に備えておくとよいでしょう。
【トラブル例5】家の修繕費をオーナーが負担しない
リースバック契約における家の修繕費は、特約で「賃借人が負担する」と取り決められているケースが少なくありません。
通常の賃貸借契約では修繕の責任は家のオーナーにありますが、リースバック契約では賃借人の責任になってしまうので注意が必要です。
小規模な修繕は借主の「家財保険」で、大規模な修繕はオーナーの「火災・地震保険」で対応するよう取り決めるケースもあります。
いずれにしろ、契約前に「修繕費が必要になったらどうするか」をしっかりと確認しておきましょう。
【トラブル例6】賃貸借契約の更新を断られた
リースバックにおける賃貸借契約は、期間が定められた「定期借家契約」であることがほとんどです。
定期借家契約とは「期間満了後は契約を更新せず退去する」という契約です。
リースバックの契約時に定期借家契約であることを知らず、期間満了時に「出ていくことになるとは思っていなかった」とトラブルになるケースも少なくありません。
最初の契約時に「家賃を問題なく支払っていれば、期間満了時に何度でも契約を更新できる」という特約をつけることも可能なので、契約前にしっかりと取り決めを確認しましょう。

【トラブル例7】家の買い戻しに応じてもらえないor買い戻し代金が高い
リースバック契約では、将来的に家を買い戻したいと考える人もいます。
実際に買い戻せるケースも多くありますが、リースバックで売却した後の家はあくまで「買主=オーナーの所有物」です。リースバック後に買い戻しを要求しても、応じてくれるとは限りません。
家を買い戻す可能性がある場合、リースバック契約時に買い戻しの条件を交渉しておくとよいでしょう。
リースバックの買い戻し代金は、売却価格の1.1~1.3倍になるのが一般的です。
ただし、オーナーによっては買い戻しに高額な代金を請求するケースもあります。買い戻す際の費用についても、リースバック契約前に交渉しておくとよいでしょう。
【トラブル例8】オーナーが破産したor家を第三者に売却した
オーナーの破産や、オーナー自身の意思による転売で、家の所有権が第三者に移ってしまう場合があります。
リースバック後の転売は、賃借人の立場からは防げません。
しかし、そういった場合に備えて、契約書に「第三者に転売する際は賃貸借契約も引き継がせる」という決まりを盛り込むことは可能です。
【トラブル例9】家族や相続に関係する人とリースバックについて揉めてしまった
リースバックすることで、子供や孫など、将来的に家を相続するはずだった家族or親戚から不満が出る恐れもあります。
「いざとなれば実家を相続できる」と考えている人も多く、リースバックしたことで関係性が悪化するケースもありえますす。
リースバック前には、家族や親戚など相続に関わる人と話し合っておいたほうがよいでしょう。
トラブルを防ぐためリースバック契約前にできる工夫
具体的なトラブル例を解説しましたが、リースバック契約におけるトラブルはなるべく事前に防ぎたいものです。
次の項目を契約前に確認しておけば、トラブルが発生するリスクを大幅に減らせるでしょう。
- 家の適正価格を調べておく
- リースバックの収支も含めて堅実なライフプランを立てておく
- 家の買主について調査しておく
- リースバックを仲介する業者が「不誠実な対応」をしないかよく見ておく
詳しく解説しますので、リースバック契約時にはトラブル回避のためにぜひ活用してください。
家の適正価格を調べておく
リースバックをするにあたって、家の適正価格は非常に重要です。
リースバック契約における家の売却価格は、一般的な市場相場の6~9割程度です。ある程度安くなるのは仕方ありませんが、不当に安く買い叩かれては損失になってしまいます。
自分の家がどの程度で売れるのか、しっかり調べておきましょう。査定だけなら無料の場合が多いので、複数のリースバック業者に査定を依頼してみるのもおすすめです。
ちなみに、すでに解説したとおり、リースバック後の家賃は年間で買取価格の10%前後になります。
家が高く売れれば、その分リースバック後の家賃も高くなるので注意しましょう。
リースバックの収支も含めて堅実なライフプランを立てておく
リースバック契約は、家に住み続けられるとはいえ今後のライフプランにも大きな影響があります。
家の売却代金やリースバック後の家賃のほか、今後の収入と支出を考えて、堅実で無理のないライフプランを作成しましょう。ファイナンシャルプランナーなど、ライフプランの作成をサポートする専門家に相談するのもおすすめです。
転職や退職、子供の教育費や老後の蓄えなど、出費が必要になる出来事は年齢ごとにある程度の予測を立てられます。自分が今後どのように生きていきたいか、家族とも話し合って収支をシミュレーションしましょう。
家の買主について調査しておく
リースバック後、買主の資金繰りが苦しくなってリースバックの家を転売するリスクや、買主が破産して家を差し押さえられるリスクがあります。
差し押さえや転売で家の所有権が次のオーナーに移るとき、リースバック契約がきちんと引き継がれなければ、賃貸借契約の更新拒否や退去請求をされるかもしれません。
つまり、リースバック契約では買主の資金力や信用力が、リースバック後に賃貸として長く住み続けられるのかという点で大きく影響力するといえます。
そのため、リースバックの契約前に買主の資金力や信用力を調査すべきです。
リースバック契約における買主は、主に不動産投資会社や個人投資家です。不動産投資会社の場合は業績や口コミ、個人投資家であれば家の代金を現金で支払えるか(=一括払いができるほど資金力があるか)を見るとよいでしょう。
リースバックを仲介する業者が「不誠実な対応」をしないかよく見ておく
リースバック業者が誠実に対応してくれるかどうかも、とても大切な観点といえます。家の査定額や家賃の安さだけでなく、担当者の態度や説明の仕方もよく見ておきましょう。
次のような対応を取るリースバック業者は、避けたほうが無難です。
- 質問をしても回答まで数日~数週間かかる
- 契約を急かしてくる
- ろくに理由も説明せず契約条件を変えてくる
トラブルを防ぐためにリースバックの契約書でよく見ておくべき項目
リースバック契約は、家の「売買契約」と「賃貸借契約」の2つで成り立ちます。この2つは本来別の契約であるため、契約書も別々に作成します。
契約書に記載された内容が最終的な取り決めになるため、これまでの交渉が正確に反映されているかなどをしっかり確認してからサインしましょう。
2つの契約書で、それぞれどんな項目に注目すべきか解説します。
1.売買契約書の場合
売買契約書の場合、重要な項目は次のとおりです。
- 家の売却価格
- 家の引渡し日程
- 買い戻しに関する取り決め
- 買主の名義
家の売却価格や引渡し日程は、見間違えてはならない重要なポイントです。事前交渉の合意にもとづいているかしっかりと確認しましょう。
将来的に家を買い戻す予定なら、買い戻しに関する取り決めも重要です。「買い戻す場合の価格」や「リースバック後いつまでなら買い戻しをできるか」について、事前に交渉しておきましょう。
買主の名義は、意外と見落しやすいので注意が必要です。リースバックは「売買契約の買主がそのままオーナーになる」ケースのほかに「リースバック業者が一旦買い取って別の人or企業に転売するケース」もあります。
「リースバック後の家の貸主はだれなのか」にも関わるので、買主の名義もしっかりと確認しておきましょう。
2.賃貸借契約書の場合
賃貸借契約書の場合、重要な項目は次のとおりです。
- 契約期間や更新の可否
- 家賃や敷金、管理費など
- 修繕の費用負担や火災保険、家財保険など
- 途中解約の条件
- 退去時の原状回復について
- その他禁止事項
リースバックは基本的に定期借家契約を結びますが、契約期間満了時に借主の意思で更新できるような契約内容にしておくのが一般的です。
家賃や管理費は、金額や支払い方法を確認しておきましょう。修繕が必要になった場合の費用負担も、だれがどれだけ負担するのかあらかじめ決めておきます。
途中解約の条件や原状回復については、通常の賃貸借契約と同じように取り決めます。普通、途中解約は双方の予告期間を1~2ヶ月間とし、原状回復には敷金を充てるよう取り決めるケースが多いでしょう。
その他の禁止事項は、転貸(又貸し)や事務所としての使用禁止、ペットを飼ってもよいかどうかなどを取り決めます。
まとめ
リースバックのトラブルを防ぐためには、契約前に条件を細かく確認することが大切です。
リースバックは「家を売却したうえでそのまま住み続けられる」という大きなメリットがある反面、通常の不動産売買とは違ったトラブルが発生するリスクもあります。
信頼できるリースバック業者を選び、売却価格や賃貸借契約の条件などを隅々まで交渉・確認してから契約するようにしましょう。