未成年者が不動産の売却手続きを行う際は法定代理人の同意が必要
不動産売却は多額の金銭が動き、未成年者の利益に大きく影響する法律行為です。未成年者が共有名義の不動産を売却する場合、未成年者本人が単独で契約を結ぶことはできません。必ず法定代理人(親権者や未成年後見人など)の同意が必要です。これは、民法第5条により明確に定められており、法律上の根拠があります。
未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
引用元 民法第5条
法定代理人とは、法律に基づき、本人に代わって法律行為を行う権限を与えられた人を指します。未成年者や判断能力が不十分な人が不利益を受けないようにするために設けられた制度で、本人の利益を守る役割を担うのです。
未成年者が共有名義に含まれている場合、売却手続き全体が複雑になりやすく、誤った進め方をすると契約が無効または取消しの対象となることがあります。そのため、適切な法的手順を理解しながら進めることが非常に重要です。
通常は親権者が法定代理人となる
民法第824条により、未成年者の法定代理人は、基本的に父母などの親権者が務めます。
親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。
引用元 民法第824条
親権者は未成年者の財産を管理し、未成年者に代わって法律行為を行う権限を持っています。
不動産売却もその一つで、「未成年者本人の持分」について親権者が代理人となり売買契約を進めることが可能です。
ただし、未成年者と親権者の利益が相反する場合(利益相反行為)には、親権者は代理行為を行うことができません。共有名義の売却では、安易に親権者が契約を進めると、後に契約が無効になるリスクがあります。
「利益相反行為」について、その詳しい内容や具体的にどのようなケースが該当するのかについては、後述の未成年者が親権者に共有持分を売却する場合は「特別代理人」の選任が必要の項目でより詳しく解説しています。
親権者が法定代理人になれない場合は「未成年後見人」を選任する
親権者が死亡している場合や、事情により親権を行使できない場合には、未成年者の法定代理人として「未成年後見人」を選任する必要があります。未成年後見人は、家庭裁判所に申し立てを行い、選任してもらうことが必要です。
未成年後見人は、不動産の売却を含む法律行為を代理で行う権限を持っています。未成年後見人は「未成年者の利益を保護する」という目的のため、親族などから選任されることが一般的です。加えて、家庭裁判所は 未成年者の利益を最優先できるかどうか を基準に選任を行うため、親族以外が選ばれるケースもあります。
親族の中に適任者がいない場合や、親族間に利害関係やトラブルがあるといった状況では、弁護士や司法書士などの専門職後見人 が選ばれることもあります。
未成年後見人の選任までの必要な手続きは、以下のフローになります。
| 手順 |
概要 |
主な必要書類 |
| 申立書の提出 |
家庭裁判所に対して、未成年後見開始の申立てを行う
申立書には、未成年者の状況(年齢・住所・置かれている環境)や、後見人を選任する必要性を記載 |
・申立書(家庭裁判所の書式)
|
| 必要書類の提出 |
申立書に加えて、家庭裁判所が判断するために必要となる資料一式を提出 |
・申立人の住民票または戸籍附票
・未成年者の戸籍謄本
・未成年者の住民票または戸籍附票
・未成年後見人候補者の戸籍謄本
・未成年者に対して親権を行うものがないこと等を証する書面
・未成年者の財産に関する資料(不動産登記事項証明書等)
・利害関係人からの申立て:利害関係を証する資料
・親族からの申立て:戸籍謄本
・後見人候補者が法人:当該法人の商業登記簿謄本
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| 審理・調査 |
家庭裁判所の調査官が、未成年者の利益を最優先できるかを判断するために調査 |
必要に応じて
・裁判所が指示する回答書類
・調査官面談に必要な資料
・財産に関する追加資料
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| 未成年後見人の選任審判 |
家庭裁判所が未成年後見人を正式に選任する審判を行う |
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未成年後見人が選任されるまでには、家庭裁判所への申立てから審判の確定まで約2〜4か月程度が目安です。申立てから審判までが1〜3か月となり、審判後の不服申立期間(約2週間)を経て確定します。
ただし、この期間は未成年者の財産の規模や家庭環境、親族間の状況、必要に応じて専門家による調査や鑑定が入るかどうかなどによって大きく変動します。その間は、売却手続きがストップする可能性があります。時間的な余裕がないケースでは、専門家に相談しながらスケジュール調整を行うことが重要です。
未成年者を含む共有名義不動産の売却方法
未成年者が共有者として名義に含まれる不動産の売却は、通常の売却よりも手続きが複雑です。法定代理人の関与や、必要書類の提出、場合によっては家庭裁判所の関与も必要になることがあります。
未成年者を含む共有名義不動産の売却方法としては、下記の二つの方法が挙げられます。
- 法定代理人として売却手続きを行う
- 法定代理人の同意の上で未成年者が売却手続きを行う
どちらの方法を選ぶ場合でも、手続きや書類に不備があると契約が無効になるリスクがあります。売却を検討する際は、専門家に相談することが安心です。
詳しくは、未成年者を含む不動産売却の注意点や必要書類を解説したこちらの記事もご覧ください。
法定代理人として売却手続きを行う
未成年者を含む共有名義不動産の売却方法として、法定代理人が、未成年者に代わって売却手続きを行う方法があります。この方法では、未成年者本人が売却手続きに直接関与することはありません。売買契約書への署名・捺印は法定代理人が行い、未成年者の代理人として契約を締結します。
親権者と未成年後見人はともに未成年者の法定代理人という立場で手続きを行う点は共通ですが、手続き上・書類上の実務は多少異なる点があります。
親権者が法定代理人として売却手続きを行う場合
親権者が法定代理人として売却手続きを行う場合は、親権者の同意書や戸籍謄本などの書類を提示し、未成年者から同意を得ていることや、未成年者の親権者であることを証明する必要があります。
親権者が法定代理人として売却手続きを行う場合には、以下の書類が必要です。
- 親権者であることを証明する戸籍謄本
- 親権者が未成年者の法定代理人であることを証明する書類
- 未成年者の戸籍謄本(親権者の記載)
- 未成年者・親権者の住民票
- 親権者の実印と印鑑登録証明書
- 未成年者の実印と印鑑登録証明書
未成年者は、自治体によっては15歳以上でも印鑑登録できない場合があるため、事前確認が必要です。法定代理人の印鑑証明で代替するという扱いが、全国的なおおよその実務慣行となっています。
未成年後見人が法定代理人として売却手続きを行う場合
未成年後見人は裁判所が選任した法定代理人であるため、親権者の同意は不要です。ただし親権者が別に存在する場合、利益相反の確認が必要なケースがあります。
未成年後見人が法定代理人として売却手続きを行う場合には、以下の書類が必要です。
- 家庭裁判所が発行した未成年後見人選任審判書の写し
- 未成年後見人本人の住民票
- 未成年者の戸籍謄本・住民票
- 未成年後見人の実印・印鑑登録証明書
ただし、必要な書類は物件の状態や登記状況、未成年後見人の資格の有無、家庭裁判所の判断などによって異なります。事前に管轄の家庭裁判所や法務局、不動産会社と確認が必要です。
法定代理人の同意の上で未成年者が売却手続きを行う
未成年者を含む共有名義不動産の売却方法として、未成年者が売却手続きを行う方法もあります。ただし、民法第5条に基づき、法定代理人の同意が必須です。
未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
引用元 民法第5条
売買契約書には未成年者本人が署名・捺印しますが、契約の有効性を担保するために、法定代理人の同意書も添付します。
法定代理人の同意書に関しては、以下の書類が必要です。
- 未成年者の戸籍謄本(親権者の記載)
- 法定代理人の印鑑登録証明書 ( 同意書・契約書に実印を使う場合の本人確認手段)
- 法定代理人の住民票
- 未成年者・親権者の本人確認書類
この手法は、未成年者本人の意思を尊重しながらも、法的に安全に売却を進められる方法です。ただし、書類の要不要や種類は、不動産会社・司法書士・登記所の判断によって異なります。契約前に各所へ問い合わせて確認する必要があります。
未成年者が不動産を売却する際の注意点
未成年者が不動産を売却する場合は、通常の売却よりも法的なハードルが高く、慎重な手続きが求められます。
未成年者が 不動産を売却する際の注意点としては、以下のようなものが挙げられます。
- 未成年者が法定代理人の同意なしで売却した際は、原則として売買契約を取り消せる
- 未成年者が法定代理人の同意なしで不動産を売却した場合でも売買契約を取り消せないケースがある
- 父母ともに健在の場合、父母両方の同意が必要(共同親権の原則)
- 未成年者が親権者に共有持分を売却する場合は「特別代理人」の選任が必要
注意点を把握せずに不動産を売却すると、契約が無効になることや、後からトラブルになるリスクがあります。
未成年者が不動産を売却する際に、押さえておくべき注意点を詳しく見ていきましょう。
未成年者が法定代理人の同意なしで売却した際は、原則として売買契約を取り消せる
未成年者が法定代理人の同意を得ずに不動産を売却した場合、その売買契約は原則として取り消すことが可能です。
この点については、民法第5条第2項で以下のように明記されています。
(未成年者の法律行為)
未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。
引用元 民法5条第2項
民法では、法定代理人の同意のない未成年の契約について、取消権を認めています。売買契約の取消しは、未成年者または、法定代理人のどちらからでも取消しが可能です。
取消し通知には基本ルールがある
取消しの意思表示は、口頭でも成立しますが、トラブルを防ぐためにも書面で行うことが推奨されます。
取消し通知の基本ルールとしては、以下が挙げられます。
- 通知は書面で行うことが強く推奨される(後の証拠になるため)
- 書面はコピーをとって保存しておく
- 送付方法としては、「特定記録郵便」または「簡易書留」が望ましい(これにより、発送記録と到着記録が残り、法的トラブルに備えられる)
書面と郵送記録があれば、「いつ」「誰から」「誰宛に」「どのような内容で」通知したかを証拠として残せます。実際、東京都の消費者相談窓口では、上記の形式での通知を推奨しています。(東京都消費生活総合センターホームページ)
取消し通知に記載すべき内容は、下記になります。
| 記載内容 |
詳細 |
| 通知の宛先 |
相手方の住所・氏名または商号・担当者名
取引の相手方を特定するため、正式名称および所在地を明記 |
| 通知者の氏名および住所 |
未成年者本人または法定代理人
通知を行う者が誰であるかを明確にし、連絡可能な住所を記載 |
| 契約の内容および締結日 |
当該売買契約がいつ、どのような内容で締結されたかを特定するため、契約締結日・契約名・対象不動産の所在地や登記情報等を記載 |
| 契約を取り消す旨の明確な意思表示 |
「本件契約は、未成年者が法定代理人の同意を得ずに締結したものであるため、民法第5条第2項に基づき取り消します。」
など、取消しの法的根拠と意思を明確に記載 |
| 取消しに伴う求める措置 |
契約の無効化に伴い必要となる措置(受領済み代金の返還、所有権移転登記の抹消手続き等)について具体的に記載 |
| 通知日 |
取消しの意思表示がいつ行われたものかを示すため、文書作成日を明記 |
| 通知者の署名および押印 |
通知者が確かにこの意思表示を行ったことを証するため、署名または記名押印 |
取消し通知書の一例
以下は、取消し通知書の一例となります。
取消し通知
令和〇年〇月〇日
【相手方】
〒XXX-XXXX
東京都〇〇区〇〇〇丁目〇番〇号
〇〇不動産株式会社
代表取締役〇〇 〇〇殿
|
【通知者】
〒YYY-YYYY
東京都△△区△△△丁目△番△号
未成年者〇〇 〇〇
法定代理人〇〇 〇〇
電話番号:090-XXXX-XXXX
|
拝啓
平素より大変お世話になっております。
さて、令和〇年〇月〇日に締結いたしました、下記不動産に関する売買契約についてご通知申し上げます。
【契約の概要】
物件所在地:東京都〇〇区〇〇〇丁目〇番〇号
登記簿表示:家屋番号〇〇
契約日:令和〇年〇月〇日
契約名義人:未成年者〇〇 〇〇
本件契約は、未成年者が法定代理人の同意を得ずに締結した契約であり、
民法第5条第2項に基づき、本契約を取り消す意思表示を行います。
つきましては、契約取消しに伴い、速やかに以下の措置を講じていただきたくお願い申し上げます。
- ・受領済み金銭がある場合は、その全額をご返金ください。
- ・所有権移転登記の申請が行われている場合は、登記抹消の手続きにご協力ください。
- ・その他、契約に基づく互いの義務は、本通知により消滅いたします。
本通知書をもって正式な取消しの意思表示といたしますので、ご了承くださいますようお願い申し上げます。
敬具
上記のとおり通知いたします。
署名:〇〇 〇〇(法定代理人)㊞
なお、実際には「未成年者である売主」から不動産を買おうとする買主がほとんどいないため、このケースの発生頻度は極めて低いのが実情です。
未成年が関係する不動産売買で「同意なし」の契約をしてしまった場合、取消し通知は非常に有力な救済手段になります。ただし、通知が法的に有効になるよう、書面・書留など形式を守ることが不可欠です。
取消しをしない限りは有効になる(取消権の行使)
未成年者が法定代理人の同意なしで不動産を売却した場合でも、取消しをしなければ契約はそのまま有効です。これは、取消しが行われるまでは法律的な効力を持ち続けるためです。
また、取消権は未成年者本人だけではなく、法定代理人からでも行使できます。いずれかが契約内容に不利益を認めた場合には、相手方へ取消しの意思を示すことで契約を無効にできます。
ただし、取消しが遅れると、引き渡しや代金受領など手続きが進んでしまう可能性があり、トラブルを避けるためにも早めの対応が重要です。
取消権の行使の時効は5年以内もしくは20年以内
取消権の行使の時効は、5年以内もしくは20年以内になります。取消権の時効については、民法第126条が根拠となります。
取消権は、追認をすることができる時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。
引用元 民法126条
分かりやすく言い換えると、未成年者の取消権は「成年に達した時から5年以内」または「契約から20年以内」のいずれかの期間内に行使する必要があります。
時効を過ぎてしまうと契約を取り消すことができません。取消しのタイミングを逃すと、たとえ未成年者に不利な契約内容であっても、その後は法的に覆すことができません。時効は未成年者本人の年齢や契約時期によって起算点が異なるため、「いつまでに取消しが可能なのか」を正確に把握しておくことが重要です。
法定代理人が気づかないまま、取消権の行使の時効が経過してしまうケースもあります。契約後は早期に内容を確認し、必要に応じて専門家へ相談しながら対応期限を管理することが求められます。
未成年者が法定代理人の同意なしで不動産を売却した場合でも売買契約を取り消せないケースがある
未成年者が法定代理人の同意なしで不動産を売却した場合は、原則として取消し可能ですが、法律上、次のような場合には取消権が認められないことがあります。
売買契約を取り消せないケースとして、下記の三つが挙げられます。
- 未成年者が買主を騙して売却したケース
- 法定代理人から「営業許可」を受けた未成年者が売却したケース
- 未成年者が成年に達した後「追認」したケース
未成年者が法定代理人の同意なしで不動産を売却した場合に、取消権が認められないケースについて詳しく見ていきましょう。
未成年者が買主を騙して売却したケース
未成年者が、自分を成年者であるかのように装うことや、意図的に誤解を与える行為(=詐術)を用いて契約した場合、取消権は認められません。詐術の定義とは、「制限行為能力者が、能力者であると信じさせるために相手方を欺く行為」のことを指します。
売買契約を取り消せない行為として、下記の例が挙げられます。
- 「20歳です」と嘘をついた
- 成人のふりをして署名した
- 身分証を偽造した
買主が未成年者であることを知らなかったとしても、詐術があれば取消しは認められません。
法定代理人から「営業許可」を受けた未成年者が売却したケース
民法では、未成年者が法定代理人から「営業の許可」を受けた場合、営業に関しては成年者と同じ能力を持つと定めています。
一種又は数種の営業を許された未成年者は、その営業に関しては、成年者と同一の行為能力を有する。
引用元 民法6条
未成年者が営業許可を受けて行った事業に関する不動産売却は、取り消せません。
ただし、自宅の売却、個人的な共有持分の売却など「営業とは無関係の私的行為」については、従来どおり法定代理人の同意が必要です。つまり、未成年者に営業許可があっても、私的な取引には制限が残るのが通常です。
未成年者が成年に達した後「追認」したケース
民法の規定により、未成年者が法定代理人の同意なしで不動産を売却した場合でも、成年になった後に本人が契約を「追認」すれば、契約は有効となり、取り消すことはできません。
取り消すことができる行為の追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅し、かつ、取消権を有することを知った後にしなければ、その効力を生じない。
次に掲げる場合には、前項の追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅した後にすることを要しない。
一 法定代理人又は制限行為能力者の保佐人若しくは補助人が追認をするとき。
二 制限行為能力者(成年被後見人を除く。)が法定代理人、保佐人又は補助人の同意を得て追認をするとき。
引用元 民法124条
追認とは、未成年だったときに取り消せた契約について、「取り消さない」と後から意思表示することです。
未成年だから無条件で取り消せるというわけではなく、成年後の行動次第で契約は確定してしまう可能性があります。契約を取り消したい場合は、成年後の追認の有無も考慮して慎重に判断する必要があります。
父母ともに健在の場合、父母両方の同意が必要(共同親権の原則)
父母ともに健在の場合は、共同親権の原則により父母両方の同意が必要であることも、未成年者を含む共有名義不動産を売却する際の注意点です。
民法の規定により、父母がともに親権者である場合は「共同親権」が適用されます。
父母の婚姻中はその双方を親権者とする。
引用元 民法818条
未成年者の不動産売却には、父母双方の同意が必要です。片方の親のみの同意では、不動産の売却手続きを行うことはできません。仮に、片方だけが未成年者の不動産売却に同意した場合、同意しなかった親権者は契約を取り消すことができます。
ただし、未成年者の片方の親が親権を持っている場合は、その親のみの同意で売却が可能です。
未成年者が親権者に共有持分を売却する場合は「特別代理人」の選任が必要
未成年者が親権者に共有持分を売却する場合、親権者自身が売却の利害関係者になるため、利益相反に該当します。そのため、民法第826条に基づき「特別代理人」の選任が必要です。
親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
引用元 民法第826条
利益相反とは、「一方の人の利益を優先すると、もう一方の人の利益を損なってしまう関係のこと」で、不動産取引などでは特に注意が必要な概念です。
不動産売却での例として、未成年者が親権者に不動産の持分を売る場合を考えてみます。
- 親権者(親)は、不動産を安く買いたい
- 未成年者(子)は、不動産を高く売りたい
このとき、親権者が子に代わって売買手続をすると、親自身の利益(安く買う)が優先されて、子の利益(高く売る)が損なわれる可能性があります。これが利益相反の典型例です。
特別代理人は、親権者に代わって未成年者の利益を守りながら売却手続きを進める役割を担います。
選任は家庭裁判所への申し立てが必要で、審査には日数を要するため早めの準備が求められます。
特別代理人は、未成年者を代表して不動産の売却手続きを行うことができるのです。
婚姻による成年擬制についての変更にも注意(旧制度)
かつての民法では、民法753条に基づき、未成年者でも婚姻をすると「成年」とみなされる成年擬制がありました。しかし、2022年4月1日の民法改正により、この成年擬制は廃止されました。現在は、男女ともに婚姻適齢が18歳に統一されており、婚姻によって未成年のまま結婚するケースは基本的に生じません。そのため、18歳以上の未成年者(18歳・19歳での結婚者を含む)は、すでに法律上の成年に達しているとみなされます。
結果として、現行制度では18歳以上の未成年者が結婚している場合でも、不動産売却などの法律行為に親権者の同意は不要です。
手続きや親権者との話し合いがうまく進まない場合は専門家への相談を検討する
未成年者を含む共有名義不動産の売却は、法定代理人の関与、家庭裁判所の手続き、利益相反の解消など、通常の不動産売却よりも手続きが複雑です。そのため、手続きを進める中で親権者との話し合いがうまくいかない場合や、必要な書類や手順に不安を感じる方も少なくありません。
このような場合は、不動産や法律の専門家に相談することが最も確実な解決策です。
手続きや話し合いがうまく進まない場合は、下記の専門家への相談方法が挙げられます。
| 専門家 |
相談方法 |
| 司法書士 |
不動産登記手続き・家庭裁判所に提出する書類の作成サポート |
| 弁護士 |
共有者間のトラブル解消・契約トラブル・特別代理人の選任手続き
|
| 税理士 |
税金面の相談 |
専門家に相談することで、法律上の手続きや書類の不備を防ぎつつ、スムーズに売却手続きを進めることが可能になります。
司法書士:所有権移転の手続き・家庭裁判所に提出する書類の作成サポート
司法書士は、不動産登記や家庭裁判所に提出する書類の作成など、未成年者を含む共有名義不動産の売却に関わる様々な手続きをサポートできます。具体的には、所有権移転の手続きや、特別代理人選任のために家庭裁判所に提出する申立書類の作成を依頼することが可能です。
所有権移転の手続きは専門知識を要するため、書類不備で差し戻されるリスクがあります。特別代理人選任のために家庭裁判所に提出する申立書類の作成も、自身で行うと追加書類の提出が必要になるなど、手続きが長引くリスクがあります。
以下は、所有権移転の手続きに必要な書類の一覧です。
- 売買契約書
- 登記原因証明情報(所有権移転の原因を証明する書類)
- 登記申請書
- 印鑑証明書(売主・買主双方)
- 住民票・戸籍謄本(売主・買主双方)
- 未成年者が関わる場合は親権者や後見人の記載がある戸籍謄本
- 固定資産税評価証明書
未成年者が関わる場合は 必要に応じて「未成年後見人の選任審判書」「親権者同意書」 などの書類を提出します。
以下は、特別代理人選任申立てに必要な書類の一覧です。
- 申立書
- 未成年者の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 親権者または未成年後見人の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 特別代理人候補者の住民票または戸籍附票
- 利益相反に関する資料(遺産分割協議書案、契約書案・抵当権を設定する不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)など)
- 利害関係を証する資料(戸籍謄本(全部事項証明書)など
参照:最高裁判所「特別代理人選任(親権者とその子との利益相反の場合)」
司法書士に依頼することで、書類作成や手続きの流れを正確に進められ、売却全体がスムーズに進行できます。ただし、弁護士とは異なり、法律トラブルや紛争の解決、訴訟代理などは行えません。そのため、未成年者が関わる共有名義不動産の売却でトラブルが発生した場合には、弁護士の相談が必要になるケースがあります。
弁護士:共有者間のトラブル解消・契約トラブル・特別代理人の選任手続き
弁護士は、法律の専門家として売買契約や共有者間のトラブルの解消、契約トラブル・特別代理人の選任手続きなどを依頼できます。
例えば、未成年者を含む共有名義不動産では、利益相反や親権者との意見の不一致により、契約が進められない場合があります。その際、弁護士は特別代理人の選任手続きや家庭裁判所への申立て、親権者との交渉を代行し、法的な問題が発生した場合も適切な対応を行えるのです。
弁護士を介することで、法的リスクを抑えつつ、安全に売却手続きを進められます。
税理士:税金面の相談
税理士は、税に関する専門家です。不動産を売却する際には、譲渡所得税や相続税、贈与税など、税金面での影響も考慮する必要があります。
税理士は、不動産売却時の税務処理のアドバイスを行い、結果として税負担を抑えられる可能性もあるのです。
特に未成年者を含む共有名義の不動産では、売却による利益の配分や相続に伴う税金計算が複雑になるため、税金に関する誤りや控除の漏れを防ぐためにも、専門家のサポートを受けることが推奨されます。
共有者との関係が良好でないなら自分の共有持分を第三者に売却するのも選択肢の一つ
共有者との関係が悪化していたり、共有不動産全体をまとめて売却するための話し合いが進まない場合には、「自分の共有持分だけを第三者に売却する」という方法も検討できます。共有持分の売却には、ほかの共有者の同意が必要ないため、単独で手続きを進められる点が大きなメリットです。
ただし、共有持分の売却には注意すべき点もあります。そもそも、共有名義の不動産全体を変更したり売却したりする場合には、他の共有者の同意が必要です。共有持分を所有していても持分の所有者は単独で不動産全体を自由に使用・処分できるわけではないため、市場価値が下がる傾向があるのです。
一般的には、以下が相場とされています。
不動産全体の評価額 × 持分割合 × およそ30〜50%
例えば、不動産全体:3,000万円、持分割合:1/4(=25%)の場合は、
3,000万円 × ¼(25% )= 750万円(持分評価額)
買取相場(30%)750万円 × 30% = 225万円
買取相場(50%)750万円 × 50% = 375万円
3000万円の不動産で、自分の持分1/4の場合は、225万〜375万円程度で売却されることが一般的です。これはあくまで「売却できた場合の傾向」の話であり、場合によってはそもそも売却自体が困難であったり、第三者が価値を認めず買い手がつかないことも少なくありません。
持分のみの売却は市場価値が低い理由として、購入者側が残りの共有者との調整リスクを抱える点や、利用価値が限定される点が影響します。このため、通常の不動産市場では買い手がつきにくく、個人の一般買主に売却できる可能性は高くありません。
こうした共有持分特有の事情から、「共有持分買取専門業者」へ依頼すれば、共有持分を買い取ってもらえる可能性が高くなります。専門業者であれば共有状態の不動産の取り扱いに慣れており、専門外の不動産会社よりも買取ってもらえる確率が高いため、早期解決につながる可能性が高まります。
未成年者本人が売主となる場合には、契約内容の理解や意思確認などの観点から、事前に専門家へ相談しておくと安心です。
共有持分の売却についてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事も参考になります。
まとめ
未成年者を含む共有名義の不動産は、売却手続きが通常より複雑になることが多く、特に法定代理人の同意取得や利益相反の有無の判断など、慎重な対応が求められます。
共有者全員が協力して売却できる場合は比較的スムーズに進みますが、関係が悪化している場合や意見がまとまらない状況では、共有持分のみを売却するという選択肢も検討する必要があります。
もっとも、持分だけでは個人向けの需要はほぼ期待できないため、売却先は買取業者となるのが現実的です。
買取業者に依頼する場合、業者自身が直接の買い手となるため、一般市場で買主を探す必要がありません。そのぶん手続きが早く進みやすく、共有関係に起因する調整の負担も抑えられる点がメリットといえます。
共有名義ならではの煩雑さをできるだけ抑えたい場合には、こうした売却方法も視野に入れておくとよいでしょう。
未成年者を含む共有名義不動産についてよくある質問
未成年者を含む共有名義不動産の売却以外で特別代理人の選任が必要なケースはある?
未成年者が関わる不動産手続では、売却以外でも「利益相反」が生じる場面では特別代理人の選任が必要になります。例えば、不動産を未成年者と共同で相続する際に遺産分割協議を行う場合、親権者である親が相続人に含まれると親と子の利害が一致しない可能性があるため、特別代理人の関与が求められます。
また、共有者である親が自身の借金を理由に、子の共有持分に抵当権を設定する場合も、親の利益と子の権利保護が衝突するため同様に必要です。
さらに、未成年者が相続放棄を検討するケースでも、判断能力が不十分なまま重大な財産処分が行われることを避けるため、特別代理人の選任が必須です。
未成年者の財産を適切に守るためにも、こうした手続きは専門家の助言を得ながら慎重に進めることが大切です。
未成年者が関わる相続や手続きについてさらに詳しく知りたい場合は、以下の関連記事も参考になります。