
相続は一生のうちで何度も経験することではありません。そのため、相続があった場合にどのような手続きをすればいいのか、税金はどうなるのか、わからないという人も少なくないでしょう。
実は、相続税は相続開始時点の価値にしたがって計算をします。
預金などは金額がすぐわかりますが、土地や建物はその価値を評価する必要があります。また、再建築不可物件の場合は、他の不動産とは異なる評価をする必要があります。
この記事では、再建築不可物件を相続したときの手続きと税金を分かりやすく解説します。
目次
再建築不可物件を相続したときの手続き
財産を所有している人が亡くなると相続が開始され、相続人(相続を受ける人)は、被相続人(亡くなった人)が所有していた預金や不動産などの財産を引き継ぎます。
では、相続があった場合、どのような手続きが必要か見ていきましょう。
手順1 財産と相続人の確定
相続が開始されたらまず所有している財産と相続人を確定する必要があります。

①所有している財産の確定
被相続人が所有している財産は、すべて相続人で分割する必要があります。もし、相続の手続きが終了したあとに遺産の一部が見つかると、再度最初から手続きをし直す必要があります。
そうなってしまうと、相続税の申告期限に間に合わない可能性があるなど、トラブルのもとになります。そこで、まずは所有している財産の確定を行います。
財産の確定は、預金については通帳に記載してあるお金の出し入れや、郵便物などから調査します。株式や不動産についても、固定資産税通知書や配当金支払明細書などの郵便物から調査していくのが一般的です。
②相続人の確定
相続では、今まで親族の中でも存在が知られていなかった相続人がいる場合もあります。そうした事態が発生しても財産をきちんと分割するためには、相続人の確定が必要です。
相続人の確定は、被相続人の戸籍謄本等を新しいものから順に遡って調べます。
手順2 遺産の分割
被相続人が所有している財産と相続人の確定ができたら、いよいよ遺産の分割です。遺産を分割する際も、下記のような手順を踏む必要があります。
①遺言書の確認
実は、相続では、被相続人の意思が重要視されます。そのため、遺言書で誰にどの財産を引き継ぐか記載されている場合は、遺言に従って遺産分割する必要があります。
そこで、まずは遺言書を確認します。
②財産の評価
遺産を分割するためには、その財産の価値がいくらかを知る必要があります。不動産や株式などの財産がある場合は、相続開始時点での価値を評価する必要があります。
③遺産分割協議
遺産の価値が分かれば、それを基に、相続人同士でどのように遺産を分割するかを協議し、決定します。遺産分割は、相続人全員の同意がなければ決定しません。
後でトラブルにならないためにも、相続人全員の同意がなされたら、相続人全員の署名・押印がされた遺産分割協議書を作成します。
手順3 相続税の申告と相続登記
相続人の間で遺産分割がされたら、相続税の申告と相続登記を行います。
①相続税の申告
相続が開始されたら、10カ月以内に相続人全員の署名・押印がされた申告書を作成し、相続税の申告と納付をする必要があります。
相続税申告書は、被相続人の住所地の所轄税務署に提出します。

②相続登記
再建築不可物件などの不動産がある場合は、相続登記を行います。相続登記とは、被相続人から相続人への所有権移転登記(名義変更)のことです。相続登記は法務局で行います。
相続登記は、必ずしなければならないものではありません。費用がかかるため行わないという人もいますが、次の相続のときに遺産分割ができないといったトラブルになる可能性があり、デメリットも多いです。
そのため、できるだけ相続登記を行っておいた方が良いでしょう。その他、必要に応じて、口座などの名義変更の手続きを行います。


再建築不可物件の相続に関する税金
相続の税金といえば、代表的なものは相続税ですが、実は、再建築不可物件などの不動産を相続した場合には、それ以外にもさまざまな税金がかかります。
ここでは、どのような税金がかかるか見ていきましょう。
相続税
相続税とは、被相続人が所有していた財産にかかる税金です。
しかし、そのすべてに税金をかけてしまうと、残された遺族の生活を保障できなくなるため、基礎控除という一定の非課税枠(相続人の数によって異なる)が設けられています。
被相続人が所有していた財産の評価額が、基礎控除額を超える場合のみ相続税がかかります。
相続税は、財産の評価額に応じて10~55%の税率がかけられ、評価額が高ければ税率も高くなります。他の税金に比べて納付額が高くなることから、相続の税金といえば相続税が中心となります。

登録免許税
登録免許税とは、再建築不可物件の相続登記を行う際に必要な税金です。相続登記をする際に、法務局で印紙を購入する形で納めます。
登録免許税の金額は、固定資産税評価額×税率0.4%で、税率は評価額にかかわらず一定です。
固定資産税評価額は、市区町村などの役所から毎年送付される、固定資産税課税明細書などに記載されています。ちなみに、相続で取得した再建築不可物件に対して、不動産取得税はかかりません。

固定資産税・都市計画税
再建築不可物件を所有すると、毎年、固定資産税と都市計画税がかかります。固定資産税とは所有している固定資産に課される税金で、都市計画税とは都市計画事業や土地区画整理事業のために課される税金のことです。
1つの納付書で固定資産税と都市計画税の両方を支払うため、一般的には合算したものが固定資産税と考えている人も多いですが、それぞれ税率が異なります。
固定資産税と都市計画税の税金は、それぞれ次のように計算します。
- 固定資産税
固定資産税評価額×税率1.4%(原則) - 都市計画税
固定資産税評価額×税率0.3%(原則)
税率は、自治体や物件の利用状況などにより異なります。再建築不可物件は、一般の物件に比べて固定資産税評価額が低いため、登録免許税や固定資産税・都市計画税は比較的低くなります。

相続した時にかかる相続税の計算方法
再建築不可物件などの不動産を相続した場合には、さまざまな税金がかかりますが、なかでも中心となるのが相続税です。ここでは、相続税の計算方法について見ていきましょう。
相続税の基本的な計算方法
相続税の計算は、厳密にいうと少し複雑な箇所があります。そこで、今回は簡単に相続税の概算額を求めるための基本的な計算方法を見ていきましょう。
上述したとおり、被相続人が所有していた財産の評価額が基礎控除額を超える場合のみ、相続税を支払う必要があります。基礎控除額は以下の計算式で計算します。
例えば、相続人が配偶者と子供2人の合計3人の場合の基礎控除額は、3,000万円+600万円×3人=4,800万円となります。
基礎控除額を超える財産がある場合は、次の計算式で相続税を計算します。
例えば、財産の評価額総額が1億円、相続人が配偶者と子供2人の合計3人、相続税率30% 控除額700万円の場合、相続税の金額は以下のようになります。
相続税率は次の表のとおりです。
財産の評価額-基礎控除額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
参照:国税庁
※上記の計算はあくまで概算の相続税を計算するためのものです。実際の納付額とは少し異なります。
土地と建物の評価方法
ここまでで、相続税の計算方法を確認しました。相続税を計算するためには、被相続人が所有していた財産を相続評価する必要があります。
その中でも土地や建物の評価方法は、他の資産とは異なります。ここでは、土地と建物の評価方法を見ていきましょう。
①土地の評価方法
土地の評価方法には、路線価方式と倍率方式の2つがあります。ここでは一般的な宅地の評価方法である路線価方式について解説します。
路線価とは、1㎡あたりの土地の価額のことで、路線価方式とは、国税庁が公表する路線価を用いて評価する方法です。
例えば、路線価が50万円で土地の面積が500㎡の場合は、路線価50万円×500㎡=2億5,000万円が、その土地の評価額になります。
ただし、上記の計算は土地が正方形の場合を前提とした評価です。全ての土地が同じ条件にあるわけではなく、間口が狭い、奥行きが長い、不整形であるなど、それぞれで状況が異なります。
そこで、実際には、上記の計算にさまざまな補正をかけて評価額を計算します。
各都道府県の路線価の詳細については、国税庁の財産評価基準書 路線価図・評価倍率表をご覧ください。
②建物の評価方法
建物の評価額は、原則、固定資産税評価額をそのまま使います。固定資産税評価額は、上述した登録免許税や固定資産税・都市計画税の計算の基になるものと同じです。
再建築不可物件は、一般の物件に比べて固定資産税評価額は低くなるメリットがあります。
再建築不可物件の土地評価とは
ここからは、再建築不可物件の評価方法を見ていきましょう。建物の評価方法は一般の物件と同じであるため、ここでは、土地の評価について見ていきます。
土地の評価は路線価×土地の面積を基本にさまざまな補正を行い、評価額を求めます。では、再建築不可物件はどうなるのでしょうか。
再建築不可物件とは、建物の建て替えができない土地のことです。建物の建て替えができない理由で最も多いものが、接道義務を満たしていないというものです。
建築基準法上の道路に2メートル以上接していない場合や、前面道路の幅員が4m以上の道路(道路法などの法律で決められた道路)でない場合は、接道義務を満たしていないため、建物を再建築することができません。
この場合、実は土地の評価にも影響します。路線と接している間口(接道部分)が狭い宅地の場合は利用価値が下がります。
そこで、通常の土地の評価に間口狭小補正率という補正をかけ、さらに土地の評価を下げます。また、状況にもよりますが、無道路地として、通常の土地評価の最大40%減となる場合もあります。
再建築不可物件を相続した場合は、間口狭小補正率の補正や無道路地として評価できるかどうかを検討する必要があるでしょう。

再建築不可物件を相続する前に押さえておくべきこと
ここからは、再建築不可物件を相続する前に押さえておくべき注意点などを見ていきましょう。
都市計画予定地、市街化調整区域の土地の評価減を考慮する
先述したように、接道義務を満たしていないため、建物を再建築することができない場合は、土地の評価が下がります。
実は、相続した土地が都市計画法による区画整理などの都市計画予定地であったり、市街化調整区域の土地であったりする場合にも、再建築不可になるケースがあります。
そうしたケースでも、それぞれで土地の評価を下げることができる特例があります。ただし、土地の状況や要件などがあるため、判断が難しいこともあります。
土地の評価額が変わると、納付する相続税の金額に大きく影響するだけでなく、遺産を相続人の間で平等に分けようとする際にも影響を与えます。
そのため、あらかじめ税理士などの専門家に相談しておくことをおすすめします。
また、隣接地との境界がはっきりしていない場合は、そもそも土地の形や面積がわからず、相続評価ができません。相続時には境界を確認しておく必要があります。

再建築不可物件は売買しにくい
再建築不可物件を相続した場合、その不動産を売却しようと考える人も多いでしょう。しかし、再建築不可物件は売買しにくいという実態があります。
それは、住宅ローンなど銀行の融資が使えない場合が多いからです。たとえ融資ができたとしても、金利が高くなることが多いです。
金融機関は、融資する際にその物件を担保にします。しかし、今まで見てきた通り、再建築不可物件は資産価値が低くなりがちです。
そのため、購入希望者は融資を受けることができず、現金を用意する必要があります。そうなると購入者が限られてくるので、再建築不可物件は売買がしにくくなったり、売却価格が低くなったりします。
再建築不可物件を相続した場合は、不動産会社やネットなどで売買価格の相場や情報をチェックしておきましょう。

再建築不可物件の活用方法を考えておく
再建築不可物件を相続した場合は、売却しにくい現実があります。そのため、その活用方法を考えておく必要があります。一つの手段としては、再建築できるようにすることです。
接道義務を満たせば、再建築が可能です。そのため、隣地を購入して間口を広くしたり、セットバックをして道路幅を4m以上にしたりすることで接道義務を満たし、再建築できるようにします。こうすることで、売却も可能になります。
別の手段としては、大幅なリフォームやリノベーションがあります。再建築不可物件を建て替えることはできませんが、リフォームやリノベーションは制限されていません。
相続した家屋が老朽化している場合や空き家不動産となっている場合は、リフォームやリノベーションをして、住宅として使用したり、賃貸物件として貸し出したりすることもできます。
また、敷地を有効利用するために、建物を取り壊すのも一つの手段です。更地にすることで、駐車場や資材置き場として活用することができます。

まとめ
再建築不可物件を相続した場合は、相続税や登録免許税、固定資産税などを納める必要があります。特に相続税は金額が大きくなりがちです。
納税資金の用意などもあるため、事前にどれぐらいの税額になるのか概算で知っておく必要があります。
また、相続税の計算のためには、不動産の評価が必要です。特に、再建築不可物件の場合は減額できる可能性が大きいです。どのような項目で減額ができるのかをしっかりと理解し、評価額を計算しましょう。