立ち退きが認められる「正当事由」とは?事例・判例をもとに解説します

立ち退き 正当事由

土地や建物の賃貸借契約において、貸主側から契約解除を求めるのは容易ではありません。

借主に立ち退きを請求する際は、貸主側に「正当事由」が必要です。

正当事由のない立ち退き請求は、借主が拒否する限り認められません。

借主側が賃料を滞納している場合など、一定の過失があれば強制退去が認められますが、それも正当な手続きを踏まえて訴える必要があります。

正当事由の有無に関わらず、立ち退きに関してトラブルになったときは、不動産問題に詳しい弁護士を間に立てて協議・交渉をおこないましょう。強引な立ち退き請求をおこなうと、裁判に発展したときに不利になってしまう恐れがあります。

立ち退きを求めるには「正当事由」が必要

立ち退きにおける「正当事由」とは、その名の通り、立ち退きを要求するもっともな理由のことです。

立ち退き要求の正当事由として「建物の老朽化による強度不足」「貸主が居住するのにどうしてもその物件が必要になった」などの理由があげられます。

旧借地法や借家法においても「貸主自らが物件を使用しなければならなくなった場合」または「その他の正当な事由がある場合」に立ち退きを求めることができる、とされています。

現在の借地借家法でも、貸主及び借主のあらゆる事情を考慮して、立ち退き要求が正当なものかを判断するとしています。

また、財産上の給付、つまり立ち退き料を支払うことによっても、正当な事由をもって立ち退き要求ができるとしています。

前条の異議は、借地権設定者及び借地権者(転借地権者を含む。以下この条において同じ。)が土地の使用を必要とする事情のほか、借地に関する従前の経過及び土地の利用状況並びに借地権設定者が土地の明渡しの条件として又は土地の明渡しと引換えに借地権者に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、述べることができない。
出典:e-Gov法令検索、借地借家法6条

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立ち退き交渉は、契約期間満了の1年前~6カ月前に行うのが原則

貸主の都合で立ち退きを求める場合は、賃貸契約の契約期間満了の1年前から、6カ月前までに勧告をし、交渉を始めなければなりません。

借主と交渉をし、借主の次の住居を探すための期間としても、猶予期間は必要になるでしょう。

建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の一年前から六月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。
2. 前項の通知をした場合であっても、建物の賃貸借の期間が満了した後建物の賃借人が使用を継続する場合において、建物の賃貸人が遅滞なく異議を述べなかったときも、同項と同様とする。
3. 建物の転貸借がされている場合においては、建物の転借人がする建物の使用の継続を建物の賃借人がする建物の使用の継続とみなして、建物の賃借人と賃貸人との間について前項の規定を適用する。出典:e-Gov法令検索借地借家法26条

ただし、立ち退き交渉は、あくまでも交渉です。「正当事由があれば、必ず立ち退いてもらえる」わけではないので、注意しましょう。

正当事由での立ち退き事例・判例

さきほども説明しましたが、正当事由があっても立ち退き要求が認められない恐れもあります。

そこで、実際に正当事由があると認められた立ち退き要求の判例を見てみましょう。

正当事由がないとみなされた判例もあわせてご紹介します。

1.貸主の自己使用を理由とする立ち退き要求の判例

判決 立ち退き料 概要
正当事由あり 750万円 貸主はマンションに住んでおり、家族と住むには手狭になったために借地の借主に対し、立ち退きを求めたもの。

借主側が借地上にある居宅をすでに使用していなかったことに加え、十分な額の立ち退き料が用意されたことで、正当事由ありとみなされた。

200万円 貸主は、賃貸契約を結んでから10数年後、転勤から戻ってアパート暮らしをしていた。

借家の借主には転居する経済的能力があったため、借主の転居に伴う仲介料や敷金、引っ越し代などの立ち退き料を支払うことで、正当事由があるとみなされた。

0円 貸主はマンションに住んでおり、家族と住むには手狭になったために借地の借主に対し、立ち退きを求めたもの。

借主側は、借地上にある居宅をすでに使用していなかった。さらに、借主は以前にも明け渡しの約束を何度かしていたため、立ち退き料がないとしても正当事由があるものとみなされた。

正当事由なし  

 

貸主が、長女夫婦と同居するための新居を建てる必要があるとして借地の返還を求めたもの。貸主には別に居宅があった。しかし借主は家族とともに同居していたことや、借地内で店舗を営み生計を立てていたことから、正当事由は認められないと認定された。
貸主は、身体障害者である子の居宅を建築する必要があるとし、立退き料300万を提示することで立ち退きを求めたが、借主は借地を多数の家族の居住場所にしていたため、正当事由は認められなかった。

2.貸主が「営業目的」での自己使用を理由にした立ち退き要求の判例

判決 立退料 概要
正当事由あり 8億円 貸主が、本社の社屋を建築するために必要として借地の立ち退きを求めた。しかし借主は借地で20年以上パチンコ店を経営しており、立ち退けば廃業となる。裁判所は、借地権価格、借主の営業利益、権利金無しなどを総合的に考慮し、立退き料8億円の提供によって正当事由が認められるとした。
6450万円 新聞販売店を営んでいた貸主が、従業員宿舎としてビルを建築する必要があるとして、賃借人に土地の返還を申し出た。

立ち退き料は6450万円で十分なものであり、正当事由ありと認定された。

正当事由なし  

 

貸主は、借地の隣接地に居住していた。借地に養子を居住させて老後の面倒をみさせるためとして、借地権買取価格での立ち退き料2504万円を提供すると申し出た。しかし賃借人は借地を倉庫、資材置き場として使用する必要があるとして異議を申し出る。正当事由は認められなかった。

3.貸主の目的が「自己使用および営業目的」の立ち退き要求の判例

判決 立ち退き料 概要
正当事由あり 650万円 貸主の子が居住し、かつ自動車整備事業を経営するため借地が必要であるとして立ち退きを求めたもの。借主に対して使用継続に異議を述べるとともに、立ち退き料および利害調整金として650万円を提供することで、正当事由による立ち退きが認められた。
正当事由なし  

 

貸主は借地の隣接地で理髪業を経営。理髪業および居住に手狭として借地からの立ち退きを要求。しかし借主は、商品の保管場所に必要として争う。

貸主は、借主との信頼関係の破壊も合わせて主張したが、正当事由があるとは認められなかった。

4.再開発事業・有効利用・高度利用に関する裁判例

判決 立ち退き料 概要
正当事由あり  

6500万円

 

 

貸主は、都市の再開発事業を手掛ける不動産業者。再開発事業を効率的に進めるため立ち退き交渉を行ったが、十分な額の立ち退き料の提供により、正当事由ありと認定された。
正当事由なし  

 

申立人は、当該地域が開発地域であることを理由に立ち退きを求めた。しかし当時はバブル景気の破綻直後であり、申立人がすでに予定している計画を実現できていないこと、および立ち退きの根拠として述べるような開発計画の実行が今後なされるかについては疑問があることが認められ、正当事由なしとされた。

5.建物の老朽化による立ち退き要求の判例

判決 立ち退き料 概要
正当事由あり 8億円 建物が老朽化しており、耐震性の面でも危険があった。補強には高額の費用が必要になるが、借家の立地場所は銀座であり、今後は土地の高度利用や有効活用が望まれることから、高額の立ち退き料を提示し、正当事由が認められた。
正当事由なし  

 

賃貸人は、今の家賃の4年分以上に相当する立ち退き料を支払うとして立ち退きを要求したが、老朽化の責任は貸主にあること、また築30年以上の借家ではあるものの今後数年の使用には耐えうることなどを理由として、正当事由は認められなかった。

建物の老朽化による立ち退き要求については、借主の身体的な安全にも関係する事由のため、認められる可能性があります。

正当事由がなくても、十分な立ち退き料を提示することで交渉できる

先ほど紹介した判例の通り「立ち退いて欲しい理由」だけでは正当事由にはならないケースもあります。

その際は、十分な金額の立ち退き料を用意することで、正当事由として認められる例も多数ありました。

最高裁の判例でも「立ち退き料の提供は正当事由の有力な事情」とされています。

これらのことから、立ち退き料の金額は、正当事由を認めるかどうかの重要な判断材料です。

十分な金額の立ち退き料とは?

実際に支払われる立ち退き料は、立ち退きを求める理由や、貸主および借主の事情によって大きく変動します。

ですので「立ち退き料はこれ以上の額でなければならない」という法律上の規定やルールはありません。立ち退きの事例はケースバイケースのため、相場も存在しません。

「家賃の半年分以上の金額 + 引っ越し費用」が立ち退き料の目安とされることもありますが、確実ではありません。

このように、立ち退き料に明確な相場はないため、実際に立ち退き要求をする際は不動産問題に詳しい弁護士へ相談してみましょう。

弁護士なら、ケースに応じて必要な立ち退き料をアドバイスできるでしょう。

借主に過失がある場合は立ち退き要求が認められる可能性がある

貸主の都合による立ち退き要求では、どうしても貸主側の立場が弱くなってしまいます。

もしも、立ち退きを求める理由が借主によるものであれば(借主に過失があれば)立ち退き要求できる場合があります。

  • 借主が家賃を滞納している
  • 騒音や悪臭を発生させる迷惑な借主である
  • 賃貸借契約違反がある
  • その他、借主の悪質な行為

次の項目から、詳しく見ていきましょう。

1.借主が家賃を滞納している

立ち退きというよりは「強制退去」というべきかもしれませんが、家賃滞納されている場合は、立ち退きを要求できます。

事実、強制退去の理由の中で最も多い原因が、家賃滞納とされています。

ただし、家賃滞納の理由が失業や病気などによるもので、世間的に見ても止むを得ない事情とみなされる場合は、立ち退き要求が認められない場合もあります。

一方、お金を持っているのにあえて払わないような悪質なケースであったり、対話や交渉に長期間応じないケースなどは、最後の手段として強制退去を要求できます。

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2.騒音や悪臭を発生させる迷惑な借主である

 

騒音による近隣トラブルは、集合住宅や住宅密集地であれば、頻繁に見られるものです。

しかし、騒音が常軌を逸しており、近隣住民が深刻な被害を感じるようであれば、立ち退きを要求する正当な事由となり得ます。

「深夜早朝を問わず大音量で音楽を流す」「あえて騒音を生じさせるような行為を繰り返す」などは、立ち退きを要求できる迷惑行為となります。

立ち退きが認められるには客観的な証拠が必要なため、複数名の近隣住民による証言や、録音や録画などで状況を記録しておくことが必要です。

また、悪臭が原因で立ち退きになるのは「物件がゴミ屋敷化してしまい近隣住民にとっても苦痛」となるような場合のみで、非常にまれなケースです。

ただし、ゴミ屋敷は悪臭だけでなく、放火の被害に遭う可能性も高いので、多くの場合は市区町村の職員が是正勧告をしたりと、何らかの対策を取ってくれます。

3.賃貸借契約違反がある

賃貸借契約には、物件の使用について様々な規定が定められています。

例えば「第三者へ又貸ししてはならない」「他人を住まわせてはならない」などです。

借主がこのような規定に違反しており、再三の警告にもかかわらず改善が見られない場合は、立ち退きを要求する正当な事由となる場合があります。

ただし、この点については借主の悪質性が認められない限り、実際に立ち退かせることは難しいでしょう。

4.その他、借主の悪質な行為

ときには、近隣住民や貸主に対して暴力をふるおうとしたり、脅迫まがいのことをする借主もいるかもしれません。

これらは、どんな事情があろうと許されることではありません。当然、立ち退きを求めることができるでしょう。

この場合は、貸主が自分だけで立ち退き要求をすることは危険です。

警察や弁護士などの協力と指示のもと、身の安全を第一に交渉しましょう。

まとめ

借主の中には、正当な事由や自分の過失による立ち退き要求でも、なかなか応じない人もいます。

また、できるだけ立ち退き料を増額させようと考える借主もいるかもしれません。

このような場合は、貸主だけで交渉を続けても話し合いがまとまらず、借主との関係が険悪になってしまうかもしれません。

立ち退き交渉はこじれてしまう前に、弁護士へ相談することを検討しましょう。

借主から見ても弁護士は第三者なので、感情的にならず冷静に交渉を進められます。

また、当事者のみの交渉よりも圧倒的に早く決着がつくでしょう。

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