
不動産を複数人で所有する共有名義の不動産において、各共有者がもつ所有権を「共有持分」といいます。
共有名義の不動産は管理や売却に共有者同士の話し合いは必須で、共有者間でトラブルになりやすいといわれています。
相続によって共有持分を取得するケースが多いのですが、なかには
・相続対象の共有持分の価値が低い
・不動産の管理が面倒
・他の共有者といちいち話し合いなどしたくない
という理由で、相続放棄したいと考える人もいるでしょう。
この記事では、共有持分を相続放棄する方法を、不動産の専門家がプロの観点でわかりやすく解説します。
具体的には、
・共同相続関係や相続放棄についての概要
・共有持分を相続放棄するときの注意点や手続きなど
・相続放棄ではなく自分の共有持分だけを売る方法
などを、重要なポイントに絞って解説していきます。
この記事を読んで、共有持分の相続放棄における注意点や必要書類などを把握すれば、スムーズに放棄の手続きを終えられるでしょう。
最後まで読んで、ぜひ参考にしてみてください。
目次
共有持分の相続放棄とは
相続放棄とは、法定相続人が自らの意思で相続を辞退することです。相続放棄がなされると、その相続人は初めから相続人とはならなかったことになり、共有持分を取得することもないため、共有関係に巻き込まれることを回避できます。
共有持分とは、一つの物を複数の人が共同で所有する関係にある場合において、各共有者がその物に対して有する割合をいい、共有者ごとにその目的物の全体に対する「○分の○」という割合で示されます。
また、目的物が家財道具などではない、マンション等の不動産の場合には、各共有者の持分割合は登記にも表示されます(不動産登記法第59条)。
共同相続関係とは
相続が開始した場合に、相続人が複数いる場合には、各相続人がその法定相続分に応じて相続財産を共有する形となります。
通常はその後の遺産分割協議によって誰がどの財産を取得するかを協議により決定し、共有関係を解消するのが一般的です。
共有持分の相続とは
借金などの債務を整理し、財産分与及び相続が開始された場合において、被相続人がもともと共有持分を有しており、その結果、相続財産に共有持分があった場合、相続人は被相続人が有していた共有持分を相続することになります。
相続人が一人の場合には、その相続人が被相続人の有していた共有持分をそのまま相続し、他の共有者と共有関係になります。
相続人が複数いる場合には、被相続人が有していた共有持分を、さらに共同相続人同士で法定相続分に従って共有することとなります。
具体的に見てみましょう。
共有持分の相続:パターン①
■ABCの3人がそれぞれ1/3の共有持分で共有していたときに、Aが死亡し、Aの子供DEが相続した場合
Aの持分1/3を更にDEが共同相続するため、DEはAの持分1/3を更に1/2ずつ相続するため、DEはそれぞれ1/6の共有持分を相続することになります。
この結果、この物件の共有持分は「B:1/3」「C:1/3」「D:1/6」「E:1/6」となります。
共有持分の相続:パターン②
■AとBが夫婦で、それぞれ1/2の持分を有していたときに、Aが亡くなって、妻Bと子供CDが相続した場合
BとCDの相続分は、Bが1/2、CDがそれぞれ1/4です。Aの共有持分をBCDがそれぞれこの割合で相続すると、BはAが有していた持分1/2の更に1/2である1/4を相続することになります。
CDはそれぞれAが有していた持分1/2の更に1/4である1/8ずつ相続することになります。
ところで、BはもともとAと共有していた持分1/2を有しているため、結局自分の持分1/2と今回Aから相続した1/4の合計3/4の持分を取得することになります。
その結果、この物件の共有持分は「B:3/4」「C:1/8」「D:1/8」となります。
共有持分の相続放棄
共同相続の場合や相続財産に共有持分があった場合には、相続人が共有関係に巻き込まれることがあります。共有持分も所有権の一種ですから、それ自体相応の価値を有しています。
ただし、一方で、共有関係は他の共有者との関係が複雑だったりして、共有者間の関係悪化を招くことがあります。
実際のところ、思い通りに利用したり処分したりできないため、トラブルの原因となる場合も多々あります。
そこで、共有関係から離脱する方法として相続放棄という手段が利用されるのです。
共有持分を相続放棄するときの注意点
実際に相続において共有持分を放棄する時は、どのような点に注意を払えばよいのでしょうか。
相続放棄の制度
相続による共有関係を回避するために相続放棄を考える場合、相続放棄という制度を正確に理解しておくことが必要です。
相続放棄において最も重要なポイントは、相続放棄した場合、その者は初めから相続人にならないということです。
その結果、被相続人が有していたお金などの財産を一切相続し、請求することはできないことになります。
逆に言うと、共有持分はいらないが、それ以外の財産は相続したいという場合には、「相続放棄」をしてはならないと言うことです。この点は誤解しがちなので、注意が必要です。
共有持分については相続したくないが、それ以外の財産については相続したいという場合には、相続自体は承認した上で、相続財産の遺産分割協議の中で調整するか、相続を承認していったんは共有持分を取得した上で、その後、相続によって取得した「共有持分を放棄」するという方法をとることになります。義務と権利のいいとこ取りはできないということです。
相続放棄ができる期間
相続放棄は、相続開始を知った時から3カ月以内に行わなければなりません。この期間を過ぎると、相続を承認したものとされてしまい、以後、相続を放棄できません。
相続放棄が他の親族等に与える影響
相続放棄する場合にもう一つ注意しなければならないことは、ある相続人が相続した場合、後順位の法定相続人にも影響を与える場合があるということです。
相続放棄によって、その者は初めから相続人にならなかったことになります。その結果、他の相続人の相続分や相続順位にも影響を与える可能性があるのです。
具体的に見ていきましょう。
相続放棄:パターン①
■被相続人に、配偶者Aと長男Bと次男Cがいた場合
本来であればAが1/2、BとCがそれぞれ1/4を相続します。ここでBが相続を放棄した場合にはAが1/2、Cが1/2となり、Cの相続分が影響を受けることになります。
相続放棄:パターン②
■被相続人に配偶者A、長男B、被相続人の父親Cがいた場合
本来であればAが1/2、Bが1/2で、Cは相続できません。ところが、第1順位の相続人である長男Bが相続を放棄した場合には、長男Bは初めからいなかったものとして取り扱われるため、第1順位の相続人が不在となり、第2順位の相続人である被相続人の父親であるCが相続人として現れることになります。
その結果、相続人は配偶者Aと被相続人の父親Cの2人となり、Aの相続分は2/3、Cの相続分は1/3となります。
このように、相続放棄によって、他の共同相続人の相続分が影響するだけでなく、相続人の対象がかわる可能性もあります。相続放棄をする場合には、この点にも注意する必要があります。
共有持分の相続放棄における手続きと必要書類
相続放棄するためには、相続開始を知ったときから3カ月の間に、家庭裁判所にその旨の書面(相続放棄申述書)を提出しなければなりません(民法第938条)。
他の相続人に対して相続を放棄する旨の通知をしただけでは、効力はなく、認められません。
また、以下の書類を添付する必要があります。
・相続放棄する本人の戸籍謄本
・収入印紙
・被相続人の死亡を記載してある戸籍謄本
・書類送付用の郵便切手
共有持分の相続放棄と贈与税の関係性
相続放棄によって、当該相続人は初めから相続人にならなかったことになります。つまり、相続放棄がなされた場合、その者は相続によって財産を取得することはなかったことになります。
相続放棄によって放棄者が相続すべきであった共有持分を他の相続人が取得した場合、放棄者がいったん相続した共有持分を他の共有者や他の相続人に移転させるものではなく、他の相続人が初めから相続によってそれらの共有持分を取得することになります。
従って、他の相続人が、当該相続人が相続放棄しなかった場合よりも多くの相続財産を取得したり、本来は相続人とならないはずだった後順位の相続人が遺産を相続することになったとしても、それは当該相続放棄をした者から共有持分の贈与を受けたことにはならず、贈与税も問題となりません。
実際に財産を相続した相続人は、相続した財産に対する相続税を納めるだけです。
共有関係を避けたい場合、自分の持分だけを売却する方法もある
共有持分の本質は、所有権です。従って、各共有者はそれぞれが有している共有持分だけを譲渡できます。
しかも、他の共有者の同意などを得る必要はなく、各共有者が単独で売却できるのです。
共有関係から離脱する方法として、相続自体を放棄するのではなく、いったん共有持分を相続した上で、自己が取得した共有持分を他に売却する方法としてどのような方法があるのか考えてみましょう。

他の共有者に売却する
他の共有者も、一般的には、対象となる財産を単独で所有したいという希望を持っている場合が多いと思われます。従って、自己の共有持分を他の共有者に売却する方法で、自らは共有関係から離脱できます。
買主になる他の共有者も当該目的物の単独所有者となるメリットがあるため、比較的正当な価格での売買が可能になります。
当該不動産を第三者に売却する
例えば、当該不動産の持分を各共有者から取得するなどして、その不動産を有効活用することを希望する事業者がいる場合、その者に持分を譲渡することが考えられます。
このような場合、当該購入者もそのままでは当該不動産を有効活用することはできず、共有持分を取得した後で、他の共有者等からも共有持分を取得して当該不動産全体の権利を取得した上で有効活用するのが一般的です。
その意味からも、共有持分の譲渡価格については、有効活用できる状態ではないことから、通常の相場価格よりも大幅に安価になることは避けられません。
不動産会社に売却する
共有持分の取得は、将来的に、他の共有者から持分を取得する目的がある場合を除いて、あまり大きなメリットがある取引ではありません。
その結果、共有者以外の第三者で、共有持分の購入を希望する人は、基本的にあまりいないというのが実情です。
しかし、共有持分不動産を専門的に扱う不動産会社もあるので、速やかに譲渡したいときは専門業者に相談してみると良いでしょう。
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まとめ
相続財産に共有持分がある場合、共有関係を回避する方法として、相続放棄という手段があります。相続放棄が、具体的にどのような形で行われ、結果としてどのような法的効果が生じるか、また共有関係から逃れる方法として、共有持分の売却についても見てきました。
相続の際に、自らの意思によらない形で共有関係に加わることになった場合、共有物の使用や処分などにおいて、共有関係に伴う色々な制限や複雑な人間関係に巻き込まれることが考えられます。
その関係から離れる方法を検討する必要があります。ただ、その方法として、相続放棄という方法がいいのか、それとも、いったん相続による共有持分を取得した上で、これを売却という形で処分して共有関係から離脱する方法がいいのかは、難しい問題といえるでしょう。
実際、目的物の有効活用が難しい物件の場合、いったん共有持分を取得してしまうと、後から共有持分の処分や放棄などが困難になってしまい、かえってリスクを引き受けることになる可能性もあります。そのような場合には、相続自体を放棄するという選択肢も考えられます。
一方で、当該共有持分以外にも相続財産がある場合、相続放棄をしてしまうと、他の相続財産についても取得できないことになってしまいます。
ですから、具体的に相続財産がどの程度あるのかと言った事情も考慮して、どの方法が自分にとって最も合理的かを判断していくことになります。
不明点が多い場合は、民法や不動産登記法の財産分与に詳しい弁護士などに相談してみましょう。
また両親の兄弟姉妹など関係者全員を集め、父名義・母名義の不動産をどう分筆して相続するか、資産の持ち分はどうするか、放棄したい者はいるかなど、意見を交えてきちんと相談することが大切です。