家賃を滞納している入居者が自己破産!契約や滞納分の家賃はどうなる?

家賃滞納 自己破産

家賃を滞納していた入居者が自己破産してしまうことが分かった場合、大家さんとしては非常に困った事態になります。今後の支払い能力を信用できないから出て行ってもらいたい、しかしその前に滞納している家賃を払ってもらわねば・・・と、様々な心配事が出てくることでしょう。

今回は、自己破産に関係する賃貸借契約の解除と自己破産した入居者が滞納している家賃について、詳しく解説します。

自己破産とは

自己破産
自己破産とは、裁判所を通して財産を処分し、債務を取り消してもらう手続きです。税金などの非免責債権を除いた、すべての債務が対象になります。債務の金額や借り入れ件数などが一定基準に満たなければ自己破産はできないという規定は設けられていません。

現状保有している財産や今後の収入の見通しなどから考えて、債務を完済することが困難であると認められる場合に限って、自己破産を選択できると言えます。破産法第2条11項では、債務を完済できない状態を「支払い不能」と表現しています。

個々の人の事情により、支払い不能になる状況は異なるでしょう。債務総額がたった50万円だとしても、現在無職で今後就労する可能性も低い人にとっては、返済不能な金額になり得ます。支払い不能とみなすかどうかは、破産しようとしている人の資産保有状況や収入、債務総額や借り入れ件数などを総合的に考慮して、裁判官が判断します。

破産手続開始決定後、免責が確定すると、債務の返済義務は無くなります。自己破産の事実は、法令の公布などの政府情報が掲載されている「官報」に掲載されますが、一般人が閲覧することはほとんどないため、知人や勤務先などに知られる可能性は低いと言えます。

入居者の自己破産を理由とした契約解除は不可能

周囲の人に知られにくい自己破産ですが、大家さんがひょんなことから入居者の自己破産について知ることもあります。自己破産するほど経済的に困窮しているなら今後の家賃支払いが心配だ、できれば出て行ってもらいたい、と考えるとしても無理はないでしょう。しかし実際には、入居者が自己破産したとしても、それを理由に賃貸借契約を解除することはできません

よく、「入居者が自己破産した場合には賃貸借契約を解除する」などという特約が契約書に盛り込まれていることがありますが、現在そのような特約は法的に有効なものではありません。平成16年の破産法改正により、入居者が自己破産した場合には貸主が一方的に契約を解除できるとしていた旧民法621条の規定は削除されているからです。

実際、自己破産した入居者に家賃の滞納はなかったにもかかわらず、自己破産したという事実のみで一方的な契約解除が行われる事例もあり、学説や判例なども旧民法621条の適用については積極的な態度を示してはいませんでした。破産法改正の背景には、自己破産者に対する問答無用の契約解除への社会的批判が高まったこともあったと考えられています。

このようなわけで現在では、入居者が自己破産したとしてもすぐに契約解除して退去させることはできません。自己破産した入居者との契約を解除できる状況については、続きの部分で詳しく説明しています。

自己破産した入居者との賃貸借契約はどうなる?

免責不許可事由
自己破産の手続きは2種類あります。「同時廃止事件」と「管財事件」です。入居者がどちらの手続で自己破産したのかによって、賃貸借契約の行方も変わる場合があります。

同時廃止事件の場合

同時廃止事件とは、裁判所に破産申立をした際に申立人が価値のある財産を保有しておらず、破産手続きの費用を支払えないと認められる場合の破産手続きです。自己破産するほどですから、申立をする頃には目ぼしい財産は手放して換金していることがほとんどで、申立の時点で財産らしい財産を保有していないのが普通でしょう。

個人の自己破産の場合は、ほとんどが同時廃止事件扱いになります。どれくらいの財産があると同時廃止事件にならないかという目安については、およそ20万円程度と考えることができます。これは、管財事件で考えた場合の少額管財予納金が、最低でも20万円からとされているためです。予納金とは、破産管財人の報酬などに充てられる費用です。具体的な金額は地域によって多少異なります。現金だけでなく、退職金や生命保険の返戻金、自動車など、20万円以上の価値がある財産を保有しているなら、管財事件になる可能性があるでしょう。

次の項目で紹介する管財事件とは異なり、同時廃止事件では破産管財人の選任がありません。申立人に財産がなく、破産管財人へ支払う報酬などの費用を支出できないためです。そのため、破産手続開始と同時にその破産事件は終了することになります。開始と終了が同時であるため、同時廃止と呼ばれているのです。

破産管財人の選任が不要の同時廃止事件は、申立人にとって手続きが迅速に運び、費用も抑えられるという大きなメリットがあります。ただし、同時廃止事件として認められるための要件は、20万円以上の財産が無いこと以外にもあります「免責不許可事由」に該当しないことです。
破産法第252条によると、おもな免責不許可事由には以下のようなものがあります。

1.債権者を害する目的で、債権者に返済されるべき財産を隠匿または損壊などすること

2.債務を負った理由が、ギャンブルや無計画な浪費によること

3.申立にあたり提出するべき書類を変造したり、虚偽を述べたりすること

4.過去の免責決定日から今回の免責許可申立日の間隔が、7年未満であること

5.破産管財人や裁判所職員に非協力的であること

上記は一例ですが、これらの免責不許可事由に該当する場合は絶対に免責が下りなくなるというわけではありません。例えば、債務のほとんどがギャンブルによるものであるとしても、すでにギャンブルから手を引き今後も二度としない決意をしているなど、反省していることが明白な場合には免責が下りることもあります。

その他、裁判所が申立に至るまでの諸事情を考慮した結果、免責不許可事由に該当する行為があったとしても免責を認める場合があります「裁量免責」と呼ばれる制度です。ただし、債権者への悪意が明らかである場合や、ギャンブルや浪費による債務があまりに過大で反省の色も見えない場合、破産手続きを妨害したり非協力的である場合などは、裁量免責が認められる可能性は非常に低くなります。

同時廃止事件においては、財産を他の誰かに管理してもらうことがないため、賃貸借契約を継続するか解除するかは、入居者である本人の意思によることとなります。

管財事件の場合

破産手続きにおける原則的な形態は、管財事件です。管財事件では、まず裁判所によって破産管財人が選任されます。破産管財人は申立人の財産を管理する権利を持ちます。換金できる財産は一通り換金し、債権者へ配当するのも破産管財人の業務です。自己破産が管財事件として扱われるのは、おもに以下の3つのケースです。

1.資産の調査が必要な場合

免責不許可事由に該当する場合や債務総額が非常に高額である場合、申立人が法人や個人事業主の場合には、裁判所が調査の必要性を認識し、破産管財人に調査させることがあります。破産管財人の選任が必要になるので、管財事件として扱われます。

2.偏頗弁済や過払い金がある場合

個人の自己破産でも時折問題になるのが、偏頗(へんぱ)弁済です。「偏頗」という単語は、偏っているということを表しています。自己破産は、すべての債権者に対して債務の免除を求める手続きのため、債権者ごとに対応の差をつけることは認められません。破産申立の直前あるいは申立後に、特定の債権者にだけ返済したりするなら偏頗弁済となります。その他の債権者を不平等な仕方で扱ったことになるからです。

なお、消費者金融などからの借入金に対して過払い金が発生している場合も管財事件になります。過払い金の返還を受け、それを債権者への配当に充てる手続きが必要なためです。

3.一定以上の財産がある場合

自己破産の申立人が一定以上の財産を有している場合は、管財事件扱いになります。申立人の財産は破産管財人によって管理され、債権者に公平に分配されなければならないためです。一定以上の財産とは、およそ20万円以上の価値のある財産のことを言います。

管財事件の破産手続きは破産管財人に一任されるため、かなりの時間を要します。破産管財人は、常時複数の申立人の財産を管理していることが多いためです。破産管財人の報酬として、予納金を納めておく必要もあります。先ほど説明したように少額管財事件でも最低20万円以上が必要になります。

破産管財人がいる場合には、申立人の賃貸借契約も破産管財人によって管理され、賃貸借契約を継続するか、解除するかは、破産管財人の判断によることになります。大家さんとしては、契約についての判断をできるだけ早く下してほしいと思うことでしょう。もし契約を解除するなら、早く次の入居者を探さなければなりません。物件を遊ばせている時間が長くなってしまえば、本来なら手にできるはずの家賃収入がその分減ってしまいます。

しかし、何件もの事件を抱えていていつも多忙な破産管財人が、契約についての決定をすぐに下せるとは限りません。そこで、一定期間が経過しても破産管財人から契約についての意思表示がされない場合は、大家さんの側から回答を催告することができることになっています。期限内に回答が得られない場合には、賃貸借契約は解除されたものとみなすことが可能です。

自己破産した入居者との賃貸借契約を解除できるケース

ここまでで、自己破産したことだけを理由に入居者との契約解除をする権限は、大家さんにないことがお分かりいただけたと思います。しかし、自己破産した入居者との契約解除が可能になるケースもあります。代表的なのは次の2つのケースです。

1.家賃滞納による信頼関係の破壊

大家さんから一方的に契約解除をしたい場合には、「正当事由」が必要です。賃貸経営における正当事由とは、契約更新の拒絶や貸主からの一方的な契約解除が正当であることを示す事実や根拠のことを表しています。

正当事由としてよく主張されるものには、大家さんと入居者との間の「信頼関係の破壊」があります信頼関係の破壊とは、当事者同士の信頼関係が著しく損なわれた状態のことを表しています。賃貸借契約のような長期的で強い信頼関係を基礎とする契約においては、当事者の一方が裏切り行為や不法行為を働いたことにより、他方の側がもはや契約を継続することは困難と判断せざるを得なくなったような状態が、信頼関係の破壊に該当します。

自己破産に関係して正当事由になりそうなのは、家賃滞納による信頼関係の破壊です。自己破産した入居者は明らかに経済的に行き詰っているのですから、普通に家賃を払っていられることの方が珍しいでしょう。入居者の自己破産を知った時点で、すでに2、3カ月分の家賃を滞納されていたという大家さんもいるかもしれません。

賃貸借契約書では、「1カ月でも家賃を滞納すれば契約解除する」などと記載しているかもしれませんが、家賃滞納によって信頼関係が破壊されたとみなされるのは、多くの場合3カ月以上の長期滞納です。しかし、家賃滞納の事実だけでは信頼関係の破壊とはみなされません。

家賃滞納の理由や滞納前までの家賃支払い状況、大家さんからの催告の頻度や方法、催告に対する入居者の対応や支払い意思の有無など、総合的な要素を考慮して判断されます。例えば、自己破産の前から度々家賃の支払いを遅延させていた入居者が、すでに3カ月分以上の家賃を滞納しており、大家さんからの電話に応答せず、訪問しても居留守を使い、再三の催告にまったく対応しないという状況であれば、信頼関係の破壊は認められやすいでしょう。

2.滞納した家賃を免責することによる債務不履行

債務不履行とは、簡単に言えば契約違反のことです。入居者にとっての債務不履行は、とても広い意味合いを持つ言葉になります。先ほど解説した家賃滞納も債務不履行のひとつですし、居住用物件を事務所として使用したり、ペットを飼育できない物件でペットを飼うことも同様です。

自己破産とは、申立人が抱える債務すべてを清算することです。債務には当然、滞納している家賃も含まれます。自己破産の手続きが始まる前までの滞納家賃は「破産債権」となり、破産債権はそのほとんどが免責になります。免責になるとは、分かりやすく言えば「踏み倒す」ことを意味します。滞納家賃を踏み倒してしまうことは、極めて重大な債務不履行となります。この場合は、賃貸借契約を解除できる可能性が高いでしょう。

滞納された家賃は全額回収できるのか

大家さん
大家さんとして一番の心配事は、自己破産した入居者の滞納していた家賃が全額弁済されるのかどうかということでしょう。現実には、滞納された家賃を全額回収することは不可能に近いものがあります。なんとか一部を回収できればまだ良い方かもしれません。以下、滞納された家賃を回収するためのおもな手段3つをご紹介します。

1.債権者として受ける配当

自己破産の手続開始決定の前に滞納された家賃は、破産債権として配当の対象になります。大家さんは、債権者として配当を受け取ることができます。ただし配当は、すべての債権者に対し、各々の債権の大きさに従って割り振られるものです。滞納していた家賃よりも多額の債務があれば、そちらへの配当割合が大きくなるでしょう。

配当による補てんは、それほど期待できるものではありません。そもそも配当は、自己破産する人の持つ財産から分配されるものです。これ以上ないほど困窮した結果が自己破産なのですから、財産を持っていたとしても微々たる額であるはずです。滞納された家賃のごく一部が返ってくるかもしれないくらいの感覚でいるべきでしょう。

2.敷金からの補てん

入居時に敷金を預かっていれば、滞納された家賃をそこから差し引くことができます敷金は、賃料債務を担保するという法的性質を持ちます。ですから大家さんには、滞納された家賃を敷金から相殺する権利があります。しかし多くの賃貸物件では、敷金の預かりは多くても2カ月分程度です。そこから滞納家賃全額を相殺できるかどうかは、微妙でしょう。

3.連帯保証人への請求

滞納された家賃の全額を回収できる見込みが最も高いのは、連帯保証人からの弁済です。連帯保証人は、入居者が家賃を滞納した際に代わりに支払う義務を負っている上、催告・検索の抗弁権を持ちません

催告の抗弁権とは、「私に請求する前に、まずは入居者に家賃を請求して下さい」と主張する権利のことです。単なる保証人であればこの抗弁権を持っているのですが、連帯保証人にはありません。

検索の抗弁権とは、「入居者は支払いに充てられるだけの財産を持っているので、そこから弁済を受けて下さい」と主張する権利のことです。主張するだけでなく、入居者に財産があり、家賃の支払いが可能であることを証明する必要もあります。保証人はこの権利を持ちますが、連帯保証人にはありません。

このように、連帯保証人の責任は入居者とほぼ同等です。入居者が滞納した家賃の支払いを拒む権利はありません。いざとなると気後れしてしまう大家さんも多いですが、連帯保証人へは遠慮なく請求して良いのだということを覚えておきましょう。往々にして、連帯保証人は入居者よりも経済的基盤がしっかりしていることが多いため、請求に応じてくれる可能性は十分あります。

なお、連帯保証人には、入居者が滞納している家賃以外にも、請求されれば支払わなければならない費用があります。例えば、「原状回復費用」です。入居者が退去した後の部屋は、新しい入居者を募集するにあたって綺麗に整えなければなりませんが、前入居者の過失によって傷んだ部分が多いと、原状回復費用はかさみます。敷金からの相殺では不足することになれば、超過した費用は入居者へ請求されることになります。自己破産した前入居者に支払う余裕があるとは考えにくいため、連帯保証人が弁済することになるでしょう。

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まとめ

自己破産した入居者にとって、大家さんは債権者のひとりになります。自己破産の手続きが一定の段階まで進んでいるなら、債権者である大家さんが言ってはいけないこと、やってはいけないことが出てきます。ちょっとした言動ひとつで、大家さんにとって圧倒的不利になることもあるのです。

自分が債権者になるというのは非日常の出来事です。そんな非日常の中で自分に有利な結果にたどり着きたいなら、弁護士の力を借りるべきです。相手と交渉したり、トラブルの仲裁をしたり、依頼者の代わりに裁判所に出廷したりできるのは弁護士だけだからです。相談するタイミングが早ければ早いほど、より多くの家賃を回収できる可能性が高くなるでしょう。


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