【不動産があるときの遺留分減殺請求】遺留分の評価方法、相手方と合意できないときの解決方法

遺留分

遺留分は、遺産相続・遺産分割の際にトラブルとなりやすい典型的な問題のひとつです。たとえば、亡くなった父が「すべての相続財産を特定の人(愛人・弟・孫)だけに与える」といった遺言書を残していたときには、その他の相続人(妻・兄・子)に対する遺留分侵害が生じますが、相手方が遺留分侵害を認めない場合もあるでしょう。被相続人所有の不動産が生前贈与・死因贈与・遺贈された場合には、不動産評価の結論によって遺留分侵害の有無についての法律上の結論も変わってしまうからです。

この記事では、遺留分に不動産が含まれる場合の評価・算定方法、遺留分について当事者間で話し合いがまとまらないときの対処方法などについて解説していきます。

遺留分の評価・算定

遺留分
相続が発生した場合の遺留分額は、「遺留分の対象となる財産総額」に「それぞれの遺留分権者に認められた遺留分の割合」を乗じて計算します。

遺留分の対象となる財産の範囲

遺留分の対象となる財産の額は、相続開始(被相続人死亡)のときに残された相続財産のすべてに、被相続人が生前に贈与した財産を加えた財産総額から、被相続人が抱えていた負債総額を差し引いて算出します(民法1043条)。遺留分の対象として組み入れられるのは、下記の条件に該当する生前の贈与です(民法1044条)。

・相続開始前の1年間になされた贈与
・相続人に対する10年以内の贈与(特別受益に該当する場合)
・贈与の当事者双方が遺留分権を侵害することを知ってなされた贈与(期間無制限)

たとえば、被相続人が50万円の現金、300万円の預貯金、200万円の借金を残して亡くなり、死亡する5年前に住宅購入資金の援助として100万円を長男に贈与していた場合の遺留分の基礎となる財産総額は、「50万円+300万円+100万円-200万円=250万円」となります。なお、これまでの法律では、相続人に対する特別受益は、期間を限定せずに遺留分の基礎として加えることになっていましたが、2019年7月1日から施行された現行民法において「相続開始の10年前まで」と改められました
参照:総務省 民法1043条・1044条

遺留分の割合

遺留分権者ごとの遺留分の割合は、それぞれの法定相続分に下記の割合を乗じたものとなります。

・直系尊属(父母・祖父母)のみが相続人となる場合:1/3
・上記以外の相続の場合:1/2

たとえば、相続人が、配偶者・長男・長女というケースの場合であれば、配偶者の遺留分は法定相続分(1/2)☓1/2=1/4、長男・長女の遺留分は法定相続分(1/2☓1/2)☓1/2=1/8ずつということになります。
参照:総務省 民法1042条

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遺留分が認められない4つの場合

以下の相続人には、遺留分が認められません

・兄弟姉妹の相続人
・相続放棄(遺留分放棄)の意思表示をした相続人
・相続欠格とされた相続人
・相続から廃除されている相続人

兄弟姉妹は法定相続人ですが遺留分は認められていないことに注意する必要があります。次に、代襲相続が発生する場合、代襲相続人は遺留分についても相続人(子・兄弟姉妹)の地位を受け継ぐのが原則です。したがって、子が生前に遺留分放棄の意思表示をしているときには、代襲相続人である孫の遺留分も認められません

ただし、代襲相続人に固有の遺留分が認められるときには、被代襲人に生じた事情は関係ありません。代襲相続が発生する場合の遺留分は複雑な事情があることも多く判断も難しくなるので、相続問題に詳しい弁護士の助言を受けておいた方がよいでしょう。

遺留分の算定において不動産の評価が重要な理由

遺産のすべてが現金・預金であれば、残された額がそのまま遺留分算定の基礎となる財産となるので、とても明確です。また、有価証券の場合も、市場価格というわかりやすい基準があるので算定は比較的容易といえます。しかし、遺留分に不動産が含まれる場合には、その評価額によって遺留分の額が大きく変わってしまうことから、不動産の評価をめぐって相続人の間でトラブルになることも珍しくありません。

たとえば、遺産が現金100万円、預貯金200万円、自宅不動産、相続人が子A・B2人という場合のときであれば、不動産の評価額によって、以下のように遺留分額に違いが生じます

・自宅不動産の評価額が1400万円のときの遺留分額=1400万円×1/2☓1/2=350万円
・自宅不動産の評価額が1800万円のときの遺留分額=1800万円☓1/2☓1/2=450万円

遺言書の内容がAには400万円、Bには残額を相続させるという内容であった場合には、不動産が1400万円と評価されたケースでは遺留分侵害は発生しませんが、1800万円と評価されるのであれば50万円の遺留分侵害となります。つまり、遺留分を請求する側の相続人にとっては、不動産評価額の高い方が有利になり、遺留分を請求される側にとっては、不動産評価額の低い方が有利になるので、不動産の評価方法・評価額をめぐってトラブルになりやすいというわけです。

相続における不動産の評価方法

固定資産税
遺留分の対象となる不動産の価格は、適切かつ公平な方法で評価することが重要です。

相続不動産の評価基準4つ

相続不動産の価格を評価するときには、以下で述べる4つの基準が用いられることが一般的です。

固定資産税評価額

固定資産税評価額は、名前のとおり、不動産の固定資産税額を算出するために用いられる不動産の評価額です。遺留分の基礎財産のうち、建物の評価は固定資産税評価額を基準に行われるのが一般的です。
固定資産税評価額は次の方法で確認できます。

・市町村から送付される課税明細書
・固定資産税評価証明書(市町村・都税事務所で入手可能)
・市町村が備えている固定資産課税台帳

なお、固定資産税評価額は、地価のおよそ70%程度の評価額になるのが一般的といわれ、最も安価な評価額が算出されます。

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路線価

路線価は、相続税や贈与税の課税額を算出するために用いられる基準です。そのため相続税評価額とよばれることもあります。路線価は、その名前のとおり、ある道路から一定距離の範囲に面する土地の面積(1平方メートル)当たりの価格です。毎年1月1日の土地の価格が夏頃に発表され、下記のウェブサイトで確認することができます。なお、路線価も固定資産税評価額と同様に、時価よりも低い価格となることが一般的です。
参照:国税庁 路線価

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地価公示価格・地価調査標準価格

地価公示価格とは、国土交通省が公表している毎年1月1日時点での土地の価格のことです。単純に地価、公示価格とよばれることもあります。地価公示価格は、2人以上の不動産鑑定士による鑑定評価の結果を国土交通省の土地鑑定委員会が審査した上で決定される価格なので、実際の取引価格にかなり近いものといえます。地価公示価格は、下記の国土交通省ウェブサイトで調べることができます。
参照:国土交通省 地価公示・都道府県地価調査

また、地価公示価格に近い価格を示す基準としては、地価調査標準価格があります。こちらは、それぞれの都道府県が毎年7月1日に調査を行ったときの土地の価格となっています。
参照:東京都財務局 地価公示価格

実勢価格

実勢価格とは、不動産の時価(実際の取引価格)のことです。遺留分の評価をする場合には、実際に売却するわけではありませんから、周辺の不動産の取引価格や、固定資産税評価額などを基に推定したり、不動産鑑定士・不動産業者に鑑定評価してもらって調べることができます。相続人同士で交渉するための一時的な評価額を調べるのであれば、ウェブなどを活用して無料査定書を取得するのも有効な方法です。

遺留分の算定として不動産評価を行うときの注意点

遺留分算定の基礎となる財産としての不動産評価は相続開始のときの価格が基準となります。したがって、生前に贈与・特別受益があったときには、不動産価格の換算が必要となります。贈与・特別受益がなされたときに比べて対象となる土地の価格が上昇している場合には、不動産評価の換算は、贈与・特別受益のあった相続人にとって不利な結論となります。

また、路線価をベースに不動産の評価を行うときには、路線価に面積をかけた金額では適正な評価額とならない場合もあります。土地の形状などによっては、同じ面積でも価格が変動する場合もあるからです。相続人の間で不動産評価額を定める交渉を行うときに、それぞれが基準としている価格の特徴を正しく把握しておかなければ、後になって「不公平な結果になった」と不満を感じてしまうでしょう。

不動産の評価額について合意できないときの対処方法

家庭裁判所
自分の遺留分が侵害されていると感じているのに相手方が認めてくれないという場合には、まず「遺留分侵害額請求(※民法改正によって遺留分減殺請求に呼び名が変わりました)」の意思表示を相手方に行いましょう。遺留分侵害額請求は、裁判をしなくても相手方に請求できます。理屈の上では相手方に口頭で伝えても問題はありませんが、後に「言った、言わない」といったトラブルにしないためにも、内容証明郵便で意思表示するといった確実な方法を選択すべきです。

なお、遺留分侵害額請求権には、消滅時効があります遺留分侵害額請求権の消滅時効は、「相続開始・遺留分侵害を知ったときから1年」です。また、「相続開始から10年」が経過した場合には(相続開始や遺留分侵害に気づいていなくても)遺留分侵害額請求権を行使できなくなりますので注意しましょう。

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裁判所の手続きを利用する

当事者間の話し合いでは遺留分について合意が得られないというときには、裁判所の手続きを用いるのが最も典型的な対処方法といえます。遺留分に関する裁判所の手続きは、家庭裁判所における「調停」から始まります。遺留分に関する調停は、「相手方の住所地」を管轄する家庭裁判所(もしくは当事者間で合意のある家庭裁判所)に対して行う必要があります。

遺留分に関する争いには調停前置主義という仕組みが採用されるため、いきなり訴訟提起することはできないので注意しましょう。調停でも話し合いがまとまらず合意に達しない場合には、別途訴訟を提起する必要があります。この場合には、家庭裁判所ではなく、相手方の住所地を管轄する「簡易裁判所もしくは地方裁判所」に訴状を提出します。訴訟の場合には、最終的には裁判官が判決によって遺留分の有無、遺留分が認められるときの遺留分額について判断してもらえます。

ただし、自分の言い分を認めてもらうためには、裁判所に認めてもらえるだけの証拠を自分で揃える必要があります。遺留分をめぐる争いでは、寄与分や特別受益の評価といった不動産評価以外の要素が絡んでくることも多いので、訴訟をするときには弁護士のサポートが必須といえるでしょう。

専門家に相談・査定依頼する

不動産の評価方法・評価額について当事者間で合意ができないという場合には、利害関係の対立する相手方に対する不信感が原因となっていることも多いといえます。その場合には、不動産鑑定士・不動産業者といった中立的な専門家による鑑定を上手に利用することも有効です。

また、相手方との交渉を弁護士に任せることで、感情的な対立を上手に回避し、お互いに納得できる妥協点を見いだせる場合も少なくありません。特に、関係が不仲な兄弟間の遺留分争いや、愛人と被相続人の妻(夫)・子との間の遺留分争いなどでは、「相手が許せない」といった感情が原因で交渉がうまく行かない場合も少なくないでしょう。

不安・疑問がある時は弁護士に相談する

相続が発生したときには、葬式・納骨といった法要や、親類などへの挨拶、遺品の整理など、相続の手続き以外にもやらなければならないことがたくさんあります。また、身近な人がなくなったということで、まずは故人を静かに弔いたいと考える人もいるかもしれません。しかし、相続税の申告や相続放棄の手続きのように、相続が発生した場合の手続きには、期限が定められているものも少なくありません。遺留分の評価が定まらず、相続手続きが進められなければ、相続税の負担で損をしてしまうこともあります。

弁護士などの専門家に相続の手続きを依頼すれば、面倒な手続きをすべて任せて故人の供養に専念できますし、普段の生活に負担をかけることもなくなります。特に、遺留分の算定が必要なケースでは、金銭的な利害対立に直結することから、当事者間の感情的な対立も起きやすいといえます。遺留分や相続の手続きについて不安がある、疑問を感じたときには、できるだけ早いうちに弁護士に相談することをオススメします。

まとめ

遺留分算定の基礎財産に不動産があるときには、慎重に対応する必要があります。不動産評価の結果によっては、遺留分侵害の有無についての結論がかわってしまうからです。十分な知識がないままに不動産の評価を行えば、受遺者から価額弁償を受けられたはずなのに受けられなかった(支払わなくて良かったお金を支払ってしまった)ということにもなりかねません。

とはいえ、利害関係の対立する当事者同士の話し合いは、どうしても感情的にトラブルになりがちです。弁護士を上手に活用すれば、不要なトラブルを回避できる可能性もかなり高くなります遺言で示された財産分与の内容が遺留分を侵害しているかもしれないと感じたときには、早めに弁護士などの専門家に相談してみるとよいでしょう。

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