
アパートの賃貸経営をおこなっているオーナーの中には、法人化を検討している人も多いです。
ただし、明確な理由がないまま法人化した場合、後悔してしまう可能性もあるため、法人化のメリットをしっかり理解しておくことが大切です。
この記事では、賃貸経営を法人化するメリットやタイミングをわかりやすく解説します。また、法人化に必要な手続きなども詳しく説明するので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
アパート経営を法人化するメリット
「所得分散(不動産収入の獲得)」「相続税対策(節税対策)」などを目的にアパート経営をおこなうこともあるでしょう。
副業として不動産投資して家賃収入を得ている人もいれば、個人経営・会社経営で本格的に取り組んでいる人もいます。
「どの方法を選んでもあまり変わらないのでは?」と考えるかもしれませんが、不動産経営の結果に大きな差が生じることもあります。法人化には以下の4つのメリットがあります。
- 所得税を抑えることができる
- 経費を多く計上できる
- 融資を受けやすくなる
- 損失の繰越控除期間が長い
次の項目から、それぞれのメリットを詳しく解説していきます。

①所得税を抑えることができる
賃貸不動産を取得して家賃収入を得ている場合には不動産所得が生じます。不動産所得とは「不動産投資で得られる収入-経費」がプラスの場合に課される税金です。
個人に適用される所得税の税率は以下の通りです。
所得金額 | 所得税率 | 住民税率 | 控除額 |
195万円以下 | 5% | 10% | 0円 |
195万円超330万円以下 | 10% | 10% | 9万7,500円 |
330万円超695万円以下 | 20% | 10% | 42万7,500円 |
695万円超900万円以下 | 23% | 10% | 63万6,000円 |
900万円超1,800万円以下 | 33% | 10% | 153万6,000円 |
1,800万円超4,000万円以下 | 40% | 10% | 279万6,000円 |
4,000万円超 | 45% | 10% | 479万6,000円 |
個人に適用される所得税は累進課税という制度が導入されており、所得が多くなるほど税率が高くなります。
サラリーマンオーナーであれば会社から受け取る給与所得に不動産所得が合算されるため、所得税の税率が高くなります。一方で、法人化すると適用される法人税の税率は以下の通りです。
税金の種類 | 分類 | 税率 |
法人税 | 利益800万円以下 | 利益×15% |
利益が800万円超 | 利益×23.2% | |
地方法人税 | なし | 法人税×10.3% |
法人事業税 |
利益が400万円以下 | 利益×5% |
利益が400万円超 | 利益×7.3% | |
利益が800万円超 | 利益×9.6% | |
法人県民税 | なし | 法人税×1%+均等割り |
法人市民税 | なし | 法人税×6%+均等割り |
法人の場合、800万円を超えるかが1つの基準になります。しかし、800万円を超えても、法人税の税率は30%程度です。
個人の税率は最大55%になることを考えると、900万円以上では個人で不動産投資をおこなうよりも法人化して不動産投資した方が、所得税の節税効果が期待できるでしょう。
②経費を多く計上できる
個人が不動産投資する場合、不動産投資で得られる収入は不動産所得として扱われます。そのため、不動産投資にかかった費用でなければ経費として計上できません。
たとえば、
「生命保険の保険料」
「家族に支払う役員報酬」
「通信費や自動車の購入費用」
など私的なものか事業に要したものかの判断が困難なので経費計上の上限や制限があります。
一方で、法人が不動産投資する場合、得られるのが不動産収入であっても事業所得として扱われます。そのため、経費の制限や上限がほとんどなくなります。
上記のような生命保険の保険料・家族の役員報酬は全額経費に計上可能です。また、法人名義で自動車を購入すれば社用車として扱われるため、こちらも全額経費に計上可能です。
個人で上手に経費を計上して所得税負担を軽減しようとしても、経費として認められない可能性もあります。税務調査が入った場合、経費として認められず税金を追加徴収されてしまうこともあるので注意が必要です。
しかし、法人化することで経費として計上できるため、所得税負担を軽減できるほか、どれが経費なのかを判断する手間と時間も省くことができるでしょう。

③融資を受けやすくなる
賃貸物件を購入する際は多額の資金が必要です。そのため「自己資金だけでは賃貸物件の購入資金が足りない」「現金を手元に残しておきたい」などの理由で、金融機関から融資を受けて不動産投資するのが一般的でしょう。
融資する相手が個人の場合、金融機関は契約者の死亡や相続を考慮しなければいけません。そのため、融資を慎重に判断します。
一方で、法人は原則寿命というものがありません。そのため、金融機関は契約者の死亡や相続を考慮する必要はないため、個人に比べて前向きに融資する可能性が高いです。
このように法人は個人よりも信用力が高く評価されるケースが多いため「融資を受けやすい」「融資上限額が大きくなりやすい」などのメリットがあります。
④損失の繰越控除期間が長い
たとえば、修繕や保証金の返還などで1,000万円の赤字が生じたとします。
給与所得が500万円のサラリーマンオーナーの場合、500万円から赤字の1,000万円を引くと利益が0になり、所得税が課されません。
まだ500万円の赤字が残っていますが、兼業のオーナーはこの赤字を繰り越すことができません。そのため、翌年に利益が生じるとその利益に対して所得税が課されるのが一般的です。
しかし、個人事業主として青色申告をおこなうと赤字を3年間繰り越せるため、所得税の節税効果が期待できます。また、法人化すると赤字を繰り越せる期間が10年間に延びます。
赤字決算になることは決して良いとはいえません。しかし、利益が生じても繰り越した赤字と相殺できるため、節税効果の高さが法人化の大きなメリットといえるでしょう。
アパート経営の法人化に必要な手続き
アパート経営をおこなう際は、個人よりも法人の方が節税効果が高いといえます。そのため、法人化を検討するかもしれません。アパート経営の法人化に必要な手続きは以下の5つです。
- 法人の種類を決定する
- 法人の定款を作成する
- 法人の登記書類を作成する
- 法務局で設立登記をおこなう
- 税務署に法人の開業届を提出する
それぞれの手続きについて詳しく見ていきましょう。

①法人の種類を決定する
「株式会社」「合同会社」「合資会社」など法人には多くの種類があります。そのため、まずはどの法人を設立するのか決めなくてはいけません。法人形態ごとの特徴は以下の通りです。
株主が会社の株を所有し、出資割合に応じた責任を負う法人形態です。会社の代表者や経営者が株主となっているのが一般的で、法人を設立する際は株式会社を選ぶことがほとんどです。
株式会社と比べると小資金で設立できる法人形態です。株式会社とは異なり、社員全員が出資して責任を負うという特徴があります。出資比率とは異なる利益配分を自由に設定できるのがポイントです。
有限責任社員と無限責任社員の2人が必要で、少額資本金で設立できる法人形態です。
このように法人形態によって特徴が大きく異なるため、どの法人を設立するかよく考えてから設立することが重要です。
②法人の定款を作成する
どの法人を設立するか決めたあとは、法人の定款の作成に移ります。
定款に最低限盛り込んでおかなくてはならない項目は以下の5つです。
- 会社の商号
- 本店の所在地
- 代表者の氏名と住所
- 会社の事業目的
- 出資の財産と金額
株式会社の場合「株式を譲渡する際の制限の有無」「取締役の人数」取締役が3人以上であれば「取締役会の設置の有無」設置するのであれば「監査役の設置の有無」なども定款に盛り込む必要があります。
③法人の登記書類を作成する
法人を設立する際は、法人の登記をおこなわなくてはなりません。法人の登記には、以下のような書類が必要です。
- 定款
- 資本金の払込証明書
- 就任承諾書
- 役員全員の印鑑証明書
- 印鑑届出書
- 登記申請書
どの法人を設立するかによって必要書類は多少異なります。就任承諾書とは、法人設立から就任していた役員の実印を押した書類です。
就任承諾書の実印が本物なのか証明するために、発行から3カ月以内の役員全員の印鑑証明書が必要になります。また、法人として契約をおこなう際に使用する法人印の作成に必要な印鑑届出書も準備しなくてはなりません。
登記申請書とは法人設立登記に必要な書類ですが、法務省のホームページからダウンロードまたは法務局の窓口でもらえます。
④法務局で設立登記をおこなう
法人の設立登記は法務局でおこないます。小規模の法人の場合には、オンライン申請することで登記の時間と手間を省略できます。
しかし、設立登記の必要書類に不足や不備があった場合は、時間と手間がかかってしまいます。
法務局の窓口で設立登記をおこなうと相談しながら手続きを進められるのでスムーズです。
登記が完了した日が法人の設立日になるため、設立日にこだわっている場合、時間的な余裕を十分に持ってから法人の設立登記をおこないましょう。
⑤税務署に法人の開業届を提出する
法人の設立登記が完了しても、不動産投資の法人化が完了するわけではありません。税務署に法人の開業届を出してようやく法人化が完了します。
税務署に法人の開業届を提出する際に必要な書類は以下の通りです。
- 登記簿謄本
- 定款の写し
- 株主名簿の写し
- 会社設立時の貸借対照表
- 出資者の氏名や出資金額を確認できる書類
必要な書類は設立した法人の種類によって異なります。法人の開業届は設立登記と同時に提出する必要はありませんが、開業から2カ月以内という期限が設けられています。
届出の期限が迫って焦ることがないように、早めに届出をおこないましょう。
アパート経営を法人化するタイミング
アパート経営を法人化することで得られるメリットが大きいものの、法人化の手続きは時間と手間がかかります。アパート経営を法人化するのに最適なタイミングは以下の2つです。
- 最初から法人化する
- 所得が増えたタイミングで法人化する
それぞれのタイミングについて詳しく解説していきます。
最初から法人化する
個人から法人化して賃貸アパートを経営する場合、物件の名義を個人から法人に変更しなければなりません。
そうなると「不動産取得税」「登録免許税」が二重にかかることになるため、手続きの手間だけでなく税負担が大きくなります。
一方で、最初から法人としてアパート経営をおこなえば、名義変更における手間と税負担を軽減することが可能です。
また、アパート経営を始めた後に法人化する場合、アパート経営をおこないつつ法人化の手続きを進めなくてはなりません。
多忙な日々の中で手続きを進めた場合、書類の不足や不備が生じてスムーズに手続きを進めることができない可能性もあるため、最初から法人化した方が良いといえるでしょう。
所得が増えたタイミングで法人化する
すでに個人でアパート経営を始めているのであれば、所得が増えたタイミングで法人化した方が良いといえます。
所得が少ない場合、個人に適用される所得税の税率の方が法人税よりも低いため、法人化するメリットは大きくありません。
しかし、アパート経営によって得られる所得が900万円を上回った場合、法人税の税率の方が個人に適用される所得税よりも低くなるため、節税効果が高くなります。
アパート経営で得られる所得が900万円を上回った瞬間が法人化の1つのタイミングといえるでしょう。
手続きやタイミングが分からなければ税理士に相談
法人化の手続きを進めるのに時間と手間がかかるのをどうにかしたい、法人化のタイミングがわからないといった悩みを抱いている人も多いと思います。
そこで登場するのが税理士です。税理士は税務の専門家ですが、法人の設立に必要な手続きをサポートしてくれるため、円滑に法人化を進めることが可能です。
また、法人の設立後も「会計業務をサポートしてもらえる」「節税のアドバイスを受けられる」「資金繰りについて相談できる」などのメリットがあります。
税理士に法人化の手続きのサポート・税務に関するアドバイスを依頼した場合、税理士報酬が発生します。
税理士報酬は法人の規模によって異なりますが、法人化の手続きの手間を省く、安定したアパート経営をおこなうためにも専門家に依頼することも検討してみましょう。
まとめ
法人がアパート経営をおこなうと、所得税を抑えることができる・経費を多く計上できるといったメリットがあると聞いて、真実かどうか気になっている人も多いと思います。
法人としてアパート経営をおこなうことには多くのメリットがありますが、所得が少ない場合には不動産所得に対して適用される税率が個人の方が低くなります。
必ず法人化した方が良いとは言えないため、法人化すべきかどうかをよく考えてから法人化するとよいです。
法人化に関する疑問や不安がある人などは税理士等の専門家に相談することが大切です。