プライベートカンパニー(資産管理会社)の設立を不動産投資をしている人なら一度は考えたことがあるのではないでしょうか。家賃収入が上がると個人で持ち続けることに不安を感じることがあります。思った以上に税金が高いと感じることも。また、ゆくゆくは不動産投資で生計を立てたいと考えている人も資産管理法人設立を身近に感じていることでしょう。事実プライベートカンパニーを持つことは、非常にたくさんのメリットが存在します。不動産投資を真剣に考えるならば、資産管理会社の知識があることは大きなアドバンテージになります。
この記事では、プライベートカンパニーを作るメリット、設立するタイミング、法人化の手順について説明します。
法人運営と個人運営の違い
プライベートカンパニー(資産管理会社)とは主に副業目的で作る個人の会社のこと。実際に法人と個人事業主では業務上どのような違いがあるのでしょうか。個人と比べて法人はさまざまな手続きが複雑ですが、赤字繰り越しや生命保険の控除などで優遇があります。
法人 | 個人 | |
設立・開業の手続き | 定款作成・法人登記 | 開業届 |
廃業の手続き | 解散登記や公告 | 廃業届 |
①赤字繰り越し | 9年 | 3年 |
②経理・会計 | 決算書・申告書 | 確定申告 |
③生命保険 | 全額控除 | 所得控除のみ |
①赤字繰り越し
赤字繰り越しとは事業で損失(赤字)が出た場合に、その損失を次年度以降に繰り越すことができる制度です。翌年は黒字だとしても赤字を繰り越しているため、支払う税金を抑えることができます。赤字というと悪いイメージが付きまといますが、上手に使えば「赤字計上」をコントロールできるため大きな節税が期待できます。
赤字繰り越しは、個人では3年、法人では9年。不動産投資をする以上、物件の購入や大規模修繕があった年には支払いが多くなり赤字になることもあるので、事業計画に応じて9年間で自由に設定できるのは大きなメリットと言えます。
②経理・会計
法人と個人では、申告方法が違います。個人では1月~12月までの期間の内容を、2月16日~3月15日の間に確定申告を行います。法人では任意で決めた事業年度終了後、2カ月以内に法人税・消費税の申告納税をします。法人では申告期限までの期間が短いため、毎月きちんと月次会計をするなど、決算に向けての準備をしておかなければなりません。
個人の確定申告は、法人と比べると簡易な内容になっているため個人で作成することもできるでしょう。しかし法人決算で作成する書類は非常に多く複雑であるため、税理士に依頼する会社がほとんどです。
③生命保険
生命保険の掛け金は、経費として処理することができます。ただし、個人の場合、最大控除額は19万円までですが、法人では、制限がありません。法人保険は損金算入に制限がないこともあり、いろいろな商品があります。長期平準定期保険は、節税対策に特化したものです。満期は数十年先になりますが、解約返戻率が高く、支払った保険料の100%に近い額が戻ってきます。ほぼ全額返ってくるにもかかわらず半分は毎年損金処理できるため、安定経営の会社では、よく使われている節税テクニックです。
損金処理しながら積み立てができるタイプの保険は、退職金対策としても使われています。不動産投資は毎月の収入が安定しているため、積立式の保険に向いている業種だといえるでしょう。法人保険は他にもさまざまな種類があるため、状況に応じて検討することができます。
プライベートカンパニーを作る3つのメリット
プライベートカンパニーを作るということは、個人と法人で資産や収入を明確に分けるということです。不動産投資の資産や収入を、個人ではなく会社に集約することはさまざまなメリットがあります。次からは、節税、相続や資産継承、事業規模拡大の大きな3つのメリットについて説明します。
節税対策ができる
法人化、最大のメリットは節税対策を考えられることです。不動産を個人で所有していると、家賃収入は給与所得と合算して計算されます。所得税は累進課税のため、所得が高くなるにしたがって税金が高くなってしまいます。しかし法人化していると、個人と会社に所得分散されるため双方の税率が低くなり支払う税金が減るのです。他にも、計上できる経費の種類や短期譲渡所得税に関しても法人化した方が有利になります。
収入が上がると所得税より法人税の方が税金は安くなる
不動産投資をして家賃収入が上がれば上がるほど、法人化している方が支払う税金が安くなります。所得税の税率は、課税所得に応じて7段階に区分されています。所得税の最大税率は45%。半分近くを税金として納める必要があります。しかし法人税では二つに区分されており、どれだけ所得が増えても最大23.20%です。所得が高いもしくは今後上がる予定があれば、プライベートカンパニーを持つことで大きな節税が期待できるでしょう。
計上できる経費の種類が多い
個人と比べて、計上できる経費の種類が格段に増えます。法人税の課税所得は、収入から経費を引いた額で計算されるため、経費が増えると大きな節税効果があります。個人では、家族へ支払う給料に制限がかかります。法人では、妻やこども、親族への給与も支払えます。業務に携わっていなくても役員にすることで役員報酬を支払うこともできます。生計を共にしている家族の場合、給料を支払ったとしても財布は同じなので手元に残るお金は変わりません。人件費を分散させることで税金のみを下げることができるのです。
会社名義で車両を購入することもできますし、自宅を社宅として購入することもできます。また交際費では、少しでも会社経営に意味があるものなら年間800万円までは全額経費にすることも可能です。物件の下見に行った帰りに、役員の妻と昼食をとった際の食事代も会議費として費用計上できます。もちろん法で認められた範囲内ですが、経費を使って節税ができることは、プライベートカンパニーを持つメリットだといえるでしょう。
短期譲渡の出口戦略では法人の方が有利
個人では、物件を売却する時期がその年の1月1日時点で5年を超えているかどうかで所得税率が変わります。特に5年以下の場合は30.63%と非常に高いです。また、個人での不動産売却は、給与所得などと分離して計算する分離課税となっているため節税する方法がほぼありません。
その点、法人ではどのような種類であっても一本の収入と処理されます。つまり家賃収入も売却益も全部まとめて法人の収入になるということです。所得金額は収入から経費を引いて算出するため、自由度が高い節税対策を講じることができます。長期譲渡の所得税率は15.315%と法人税と大きな違いはありませんが、節税対策の種類を考えるとメリットがあります。短期譲渡の場合は法人の方が有利であることは間違いありません。
相続や資産継承がスムーズにできる
法人に資産を集約することで相続や事業継承がスムーズにできます。富裕層では、相続対策としてプライベートカンパニーを持ち計画的に資産運用しています。では具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。
資産や収入が分散できる
個人で不動産を購入すると、所有者一人に資産や収入が集中しますが、法人を主体にしておくことで資産の分散ができます。毎月450万円の家賃収入がある場合を想定してみましょう。個人だと450万円収入が上乗せされることになり、納税義務も個人で負うことになります。
では資産管理会社を持っており、代表と2人の役員がいる場合ではどうでしょうか。3人に役員報酬として150万円ずつ支払うことにより資産の分散をすることができます。個人の場合、年間110万円を超えると贈与税が発生するため、資産管理会社を持つ意味が大きくなります。
遺産分割が容易になる
不動産などの所有資産を遺産分割することは簡単ではありません。相続時に相続人の人数で分割することになりますが、それぞれの気持ちもありスムーズに進まないことが多いです。特に複数不動産を所有している場合には、より複雑な手続きや相続人同士での話し合いが必要となり仲違いしてしまうという話も聞きます。
資産があるからこそ発生する相続問題も資産管理会社を持つことで解消されます。プライベートカンパニーであっても法人成りしていれば、当然株式が発行されています。実質的なオーナーが亡くなったときには、オーナー所有の株式を相続人で適切に分配することで不動産の相続が完了してしまうのです。
複数所有している場合でもすべての権利は法人に集約されているため、所有権移転登記などの手続きも必要ありません。相続はまだまだ先の話ですが、資産を持つということは将来の家族や親族にも影響を及ぼす可能性があります。資産維持のためにもオーナー自らがきちんと考えておくことが必要です。
専業不動産投資家を目指せる
プライベートカンパニーを早い段階で持つことで、専業不動産投資家を目指すことができます。副業で始めた場合、個人のまま資産を積み上げていく人が多いのではないでしょうか。しかし、情熱的に不動産投資に打ち込んでいたとしても個人では必ず限界がきます。法人化しなければ超えられないハードルが存在するからです。税金もそうですし、第三者からの信頼度も個人と法人では大きな差が生まれます。ゆくゆくは大家業で生計を立てたいと考えているなら、いつかは法人化を考えなければいけません。
副業規定を考えることなく規模を拡大できる
会社員では、勤務先に副業禁止規定があることが多いです。不動産投資は厳密にいうと副業ではないため小規模であれば認められていますが、一定の規模を超えると事業とみなされ副業禁止規定に抵触する恐れがあります。事業規模とみなされる基準は、独立した貸家では5棟以上、マンションなどの区分所有では10室以上。一棟のマンションを購入すると超えてしまう可能性がある規模ですね。
法人化していると副業規定を気にすることなく規模を拡大することができます。ワンルームをいくつか購入する規模であれば問題ありませんが、一棟マンションの所有を視野に入れている場合は法人化しておく方が、ストレスなく進めることができるでしょう。
多額な融資が可能になる
法人と個人では、金融機関からの信用度が違います。会社で不動産購入をすることで、金融機関から賃貸経営を事業として行っていると見られるようになります。個人では難しい多額の融資が受けやすくなり、数棟の収益マンション・億単位の資産などを目指せる立場になるということです。多額の融資が可能である理由は、個人の命は限られていますが、法人は永遠だと考えられているからです。個人ではオーナーが亡くなってしまうと同じようにアパート経営ができるか不安があるため、一定の規模までいくと銀行は融資に消極的になります。
法人は利益を求めるために作られた団体です。将来に亘って経営者になり得る存在(社員や子どもなど)がいれば、金融機関は事業拡大に積極的に協力してくれるでしょう。また地方銀行などの金融機関との取引実績を重ねることで、都市銀行などの大きな金融機関と取引ができるようになります。金利も下がりますし、融資の額もますます多くなります。個人では考えられない額の融資も可能になるのは、法人ならではのメリットだといえるでしょう。
本気で不動産投資に取り組むなら法人化は必須
不動産投資で生計を立てたいなら法人化は必須です。規模拡大をするためには、トランプのカードのように売却と購入を繰り返して良い物件を揃え続ける必要があります。そのためには、法人化をして金融機関などの第三者と対等に渡り合える状況を作っておかねばなりません。
不動産業者の姿勢も変わります。個人のときは、こちらからコンタクトを取って物件情報をもらっていた業者でも、法人化したら向こうから営業にくるということがあります。不動産業者との関係も重要であることから法人化することはメリットがあるといえるでしょう。
プライベートカンパニーを設立するタイミングは二種類ある
プライベートカンパニーを設立するタイミングはいつがよいでしょうか。まず、法人税率と所得税率が逆転するタイミングで法人設立をするというのが一般的です。これを超えてしまうと個人では、税金が大幅に上がってしまうからです。しかし、サラリーマンの場合は本業の収入があるため、不動産投資を始める最初から法人化した方が得をすることがあります。「税金の優遇が受けられるタイミング」「最初からの設立」の二種類に分けて説明します。
所得が330万円を超えたとき
税金面で優遇が受けられるタイミングとはいつでしょうか。それは所得が330万円を超えたときです。
≪所得税率≫
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円超え 330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円超え 695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円超え 900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円超え 1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円超え 4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超え | 45% | 4,796,000円 |
参照:国税庁
≪法人税≫ 資本金1億円以下の法人の場合
年800万円以下の部分 | 15% |
年800万円超えの部分 | 23.20% |
参照:国税庁
所得税では、税率が上がると所得全体の税率が上がります。しかし法人税の場合は800万円以下15%、800万円超えの部分のみ23.20%になるため、さらに税金が安くなります。
では、支払う税金はどれくらい変わるのでしょうか。所得金額が①200万円②330万円③1,000万円の場合の所得税と法人税をシミュレーションしてみましょう。
≪所得税≫ 200万円×10%=20万円
≪法人税≫ 200万円×15%=30万円
所得金額200万円では、個人の方が10万円安くなります。
②所得金額330万円の場合
≪所得税≫ 330万円×20%=66万円
≪法人税≫ 330万円×15%=50万円
所得金額350万円では逆転し法人の方が16万円程安くなります。
③所得金額1,000万円の場合
≪所得税≫ 1,000万円×33%=330万円
≪法人税≫ (800万円×15%)+(200万円×23.20%)=166万円
所得金額1,000万円では、法人の方が164万円と大幅に安くなります。
所得が増えれば増えるだけ、法人化した方が支払う税金が低くなります。所得が330万円を超えたときが法人移行のタイミングだということを覚えておきましょう。
不動産投資を始めるとき
サラリーマンでは、給与所得だけで所得330万円を超えていることがあります。この場合は不動産投資を始める前からプライベートカンパニーを作っておいた方が良いでしょう。所得330万円は、年収では約700万円。給与所得が700万円を超えている、不動産所得を合わせると超えそうなときは初めから法人化しておく方が優遇を受けられるということになります。ただ、法人化してすぐに融資を受けて法人名義で物件が買えるわけではありません。法人で融資を受けるためには最低2期の黒字決算書が必要だといわれているためです。
まずは個人で投資用不動産を購入してプライベートカンパニーに物件管理を任せることで法人の収入を上げます。管理を任せることで所有者であるオーナーから会社へ管理委託費を支払いますので会社の収入が上がります。その状態で決算2期を待ち、法人名義で物件を購入するという方法が良いでしょう。個人で物件を複数持っていたとしても、会社名義で購入するためには決算書が必要です。その時になって困らないためにも、法人設立時期については戦略を踏まえ慎重に考えておきましょう。
プライベートカンパニーを作る手順
会社には株式会社、合名会社、合資会社、合同会社がありますが、ここでは株式会社を作る手順を説明します。会社設立には、登録免許税や手数料で20万~30万円の費用が必要です。以下の手順は自身で行うこともできますが、会社設立を代行してくれる司法書士事務所等もありますので検討すると良いでしょう。
会社設立の流れ
会社を設立する前に以下の3つを決めておきましょう。
・資本金の額
・役員報酬
資本金は会社設立のために株主が出資する資金です。会社の信用に関わってくるため、金額は慎重に決定しましょう。資本金は、会社設立後であれば業務に使っても構いません。例えば業務のためにパソコンを購入する、住居の一部をリフォームして事務所にするなど費用に使うこともできます。
また、登記手続きを行う際に会社の印鑑が必要ですので先に手続きをしておきましょう。社印・角印・銀行印の3種類を作ることが一般的です。
定款を作成する
定款とは、会社の基本規則を定めたもので、「会社の憲法」のようなものです。定款には、絶対的記載事項、相対的記載事項、任意的記載事項を記載します。プライベートカンパニーの場合は、株主などが限られているため、絶対的記載事項のみの記載で良いでしょう。
・商号(会社の名前)
・目的(事業内容)
・本店の所在地
・設立に際して出資される財産の価額またはその最低額
・発起人の氏名または名称及び住所
・発行可能株式総数
資本金を払い込む
資本金を振込みます。会社の通帳はまだありませんので、自分名義の口座に自分名義で振り込みます。払込証明書を作成し、通帳のコピーを添付して綴じておきましょう。資本金は会社設立後、会社の通帳に移します。
登記書類を作成する
次に登記に必要な書類を作成します。必要書類は会社の形態によってさまざまですので、自身の会社に合った書類を作成しましょう。
・発起人会議事録
・代表取締役選定書
・取締役就任承諾書
・監査役就任承諾書
・印鑑届書
会社設立の登記を申請する
書類が完成したらいよいよ登記申請です。法務局に登記申請をした日が会社の設立日になります。申請は資本金を払い込んだ日から2週間以内にしなければいけませんので覚えておきましょう。登記をするには15万円分の印紙が必要です。自身で提出する場合は、法務局で書類に不備がないか確認してもらった後に貼るようにしましょう。登記が終わると会社設立が完了します。
設立後の手続き
会社設立が完了した後でもしなければいけないことがあります。特に税務署への申告・届出は重要ですので忘れないようにしましょう。
印鑑証明書・登記簿謄本を取得する
登記が完了すると法務局で印鑑カードがもらえます。法人の印鑑証明書は、印鑑カードがないと発行されませんので大切にしまっておきましょう。法務局に何度も足を運ぶのは大変ですので、印鑑証明書と登記簿謄本を5部ほどまとめて発行しておくと便利です。
税務署等への申告・届出を行う
税務署への申告・届出を行います。
・青色申告の承認申請書
・給与支払事務所等の開設届出書
・源泉徴収の納期の特例の承認に関する申請書
これらの書式は、税務署でもらうことができますので利用しましょう。忘れがちなのは都道府県税事務所と市町村役場への届出です。税務署へ届け出たものと同じものを提出することになりますので、作成しておきましょう。
法人用銀行口座を作る
法人化すると会社と個人のお金をきちんと分けて管理しなければいけません。すぐに法人用銀行口座を作りましょう。資本金も個人口座から法人口座へ移します。このときにも、登記簿謄本が必要になりますので準備しておきましょう。
まとめ
不動産投資でプライベートカンパニーを作ることは、非常に大きいメリットがあることがわかりました。会社設立には、費用や手間がかかるデメリットもありますが、税金優遇ですぐにペイできるほどのメリットがあります。
特に、事業規模を拡大してゆくゆくは専業大家を目指す場合は一刻も早く法人化することが必要になります。個人の所有不動産が増えると、法人化したときに資産が分散して管理しにくくなることもあります。自身の不動産投資スタイルや将来を考えて、プライベートカンパニーをつくるタイミングを逃さないようにしましょう。