
最近では、会社勤めなどの本業を持ちながら副業で賃貸経営を始める「サラリーマン大家さん」も増えています。
賃貸経営による家賃収入は一般的な給与所得と違い、確定申告で自ら申告することになるので、最初のうちは戸惑うこともあるでしょう。
この記事では、大家さんとして確定申告をするための準備と「白色申告」「青色申告」の違いについて解説します。
目次
家賃収入の確定申告に必要な準備
賃貸経営をスタートしてから初めての確定申告を迎えるまでには、必要な準備があります。まずは、基本として押さえておきたい4つの点を見てみましょう。

1.開業届の提出
確定申告の準備は、賃貸経営をスタートする時から始まります。まずは税務署で「個人事業の開廃業等届出書」いわゆる開業届を提出します。
開業届は、事業を開始してから1カ月以内に提出することが望ましいとされていますが、義務化されていないことなので提出しなくても罰則はありません。
しかし、スムーズな確定申告をするためには期限内に提出しておいた方が良いでしょう。
2.青色申告承認申請書の提出
開業届の提出と同時に「青色申告承認申請書」も提出しておきましょう。将来、青色申告で確定申告をするために必要な書類です。
青色申告承認申請書は、事業を開始してから2カ月以内、もしくは事業を開始した年の3月15日までに提出することになっています。
後の方で詳しく解説しますが、青色申告には何かとメリットが多いため、現時点では申告のことまで考えていないとしても青色申告承認申請書は提出しておいた方が有利です。
3.減価償却資産の償却方法の届出書の提出
初回の確定申告書の提出期限に間に合うように「減価償却資産の償却方法の届出書」も提出しましょう。これは減価償却資産について、定額法と定率法のどちらで償却するのかを申告するものです。
青色申告を希望する場合には提出しておくべき書類です。定額法と定率法、どちらの計算方法が有利なのかは事業形態などの諸条件によって異なります。
4.給与支払事業所等の開設届出書の提出
賃貸経営に伴って従業員を雇用するなら「給与支払事業所等の開設届出書」の提出が必要です。なお、従業員が10人以下の場合は「源泉所得税の納期の特例の承認申請書」を同時に提出するのがお勧めです。
これにより、源泉所得税の納期が翌月の10日ではなく、年2回の納期に変更されるので、資金繰りにいくらかゆとりが生まれるでしょう。
確定申告は、毎年2月中旬から3月中旬頃にかけて行われます。ギリギリになって慌てないよう、早めに準備をしておきましょう。

確定申告で申告する「所得」の計算方法
確定申告とは、自分の所得を申告することで、納めるべき税額を明らかにするための手続きです。
賃貸経営をしている大家さんの場合は、確定申告によって所得税や住民税(規模によっては事業税も課税される)の税額が決まることになります。
申告した所得が実際のものより多ければ余分な税金がかかることになり、逆に少なく申告してしまえばペナルティが課せられることもあります。
正しい税額を計算するためには、正しい所得金額を申告することが基本となるのです。
ところで「収入」と「所得」という言葉はどちらも似通った意味に感じますが、実際は別の意味の言葉です。
収入とは、賃貸経営に際して手元に入ってくるお金すべてを表しています。一方で、所得は収入から経費を差し引いて最終的に残ったお金、いわば純利益のことです。
給与所得のある人であれば、総支給額が収入で手取り額が所得とイメージすると理解しやすいでしょう。賃貸経営で得た家賃収入は税務上「不動産所得」と呼ばれます。
不動産所得を割り出すには、次の式を用います。

総収入とは?
賃貸経営で総収入に含めることができるのは、次のようなお金です。
・共益費収入
・礼金
・保証金
・更新料
不動産所得における収入の計上基準は「権利確定主義」です。つまり、そのお金を得る権利が確定した年に収入があった、とみなして計上する必要があります。
賃貸経営における確定申告で度々疑問視される点の中には「12月中に支払われた翌年1月分の家賃や共益費は今年後の収入か、翌年度の収入か?」という点があります。
権利確定主義で考えると、これは今年度の収入となります。「翌月分の家賃は前月の末日までに支払う」などの定めになっているのなら、翌年1月分の家賃についての権利は今年度中に確定していることになるので、当年度分の収入として計上するというわけです。
保証金の扱いは、物件や大家さんごとに違う場合があります。預り金として受け取る場合もあれば、返還しないお金として受け取る場合もあるでしょう。
預り金として受け取った場合は収入に計上する必要はありませんが、返還しない前提で受け取った場合はその受け取り日の収入となります。
礼金は、賃貸物件を引き渡した日の収入として計上します。敷金については、原則として返還されるべきお金なので、収入にはならないと考えて良いでしょう。
更新料は、更新手続きを行った日の収入となります。

必要経費とは?
賃貸経営において必要経費に含めることができるのは、次のようなお金です。
・管理費
・各種保険料
・修繕費
・税理士費用
・固定資産税、事業税、消費税など
必要経費として認められるのは、所得を得るために支出したお金です。賃貸経営の場合は、家賃収入を得るために直接的に必要となったお金と言えるでしょう。
例えば、入居者を募集するために不動産会社などに支払った広告掲載料や仲介手数料があるなら、必要経費になります。管理会社や管理人を雇う場合の管理費、火災保険料や損害保険料の負担分も、必要経費です。
修繕費については、通常の使用のための維持管理や、原状回復に必要な修繕費が必要経費となります。
耐震補強工事やリフォーム・リノベーション工事など、物件の価値を高める目的で行われる工事の費用は「資本的支出」とみなされるため、かかった費用は減価償却対象の費用とされます。
なお、資本的支出でも20万円未満の費用で行われたものや3年以内に周期的に行われるもので総額60万円未満の費用のものであれば、修繕費として必要経費にすることが可能です。
必要経費には、減価償却費も含まれます。取得価額が10万円未満のもの、または使用可能期間が1年未満の資産については、事業に使用し始めた年度に全額を必要経費として計上できます。
また、取得価額10万円以上20万円未満の資産については、取得価額の1/3を3年にわたり分散して必要経費とします。必要経費として計上できるのは、当年度中に経費や債務が確定していたものだけです。

確定申告の種類~単純明快な「白色申告」~
大家さんが行う確定申告は、大きく分けると2種類に分類されます。白色申告と青色申告です。かつて、申告用紙の色が白や青に分かれていたことから呼び名が付いたようですが、現在は申告用紙の色分けはされていません。
まずは、白色申告についてご紹介しましょう。白色申告とは、青色申告ではない確定申告のことで、何と言っても帳簿付けの手軽さが特徴です。
単式簿記での非常に単純明快な記録を付けていればよいため、簿記の知識が乏しくても簡単に帳簿作成ができます。単式簿記とは、1つの収支について1つの記録を残す簿記のことです。
例えば、修繕費として5万円支出した場合は「修繕費5万円」とだけ記録します。
収入から支出を差し引けば、手元にいくら残ったのかが分かるというシンプルな仕組みで、家計簿などもこの単式簿記で出来ています。
単式簿記の逆は複式簿記で、これは1つの収支について複数の視点から記録を残す必要があります。先ほどの「修繕費5万円」であれば、帳簿の左側に「修繕費5万円」、帳簿の右側には「現金5万円」などと記録します
。修繕費の5万円は現金5万円を支出して支払ったという、より詳細な記録が可能になるのですが、その分経理関係の作業が煩雑になる点がネックです。
白色申告での確定申告は、単式簿記で記録した帳簿を参照しつつ、昨年中の収入から必要経費を差し引いたものを所得として申告します。
所得計算のプロセスが簡単で、日々の経理作業や確定申告時の手続きがシンプルなのが最大のメリットです。
一方で、白色申告にはデメリットもあります。青色申告にあるような特別控除や、赤字の繰越しなどが認められていないことです。よって、青色申告よりも税額が大きくなることがあります。
賃貸経営を始めたばかりで家賃収入がそれほど多くないうちは白色申告でも良いかもしれませんが、規模を大きくする予定があるなら早めに青色申告に切り替えた方が節税になるでしょう。
確定申告の種類~様々な特典がある「青色申告」~
青色申告では、複式簿記での詳細な帳簿付けが求められています。
別の言い方をすれば、一定水準を満たす正しい帳簿付けを実施している人に対して、より有利な税額計算を行えるよう配慮されている制度とも言えます。
冒頭で述べたように、青色申告による確定申告をするためには、事前に提出しておくべき書類がいくつかあります。
それに加えて、複式簿記によって日々の取引記録を付け、確定申告時には損益計算書と貸借対照表を作成して提出しなければなりません。
青色申告のために記録した帳簿類は、原則として7年間保管する義務があります。また、青色申告は帳簿付けが複雑である分、様々な特典が用意されています。
家賃収入のある人は是非「青色申告」を!青色申告のメリットとは
賃貸経営が軌道に乗ると、所得額は大きくなっていくでしょう。手元に残るお金を少しでも増やすためには、正しく節税することが必要です。
青色申告は白色申告に比べて、節税のための特典が多数用意されています。会計や経理に苦手意識があるとしても、努力して複式簿記を付けるだけのメリットがあるのです。
では、代表的な4つのメリットをご紹介しましょう。
1.青色事業専従者給与
青色申告をする人の配偶者や親族などが従業員となる場合、その人に支払った給与を経費として差し引くことができます。条件は次の通りです。
・年齢が15歳以上であること
・1年のうち6カ月を超える期間にわたり、もっぱら事業に従事していること
・労務の対価として適正な金額の給与であること
特典を利用するためには、賃貸経営が「事業的規模」になっている必要があります。事業的規模とは、社会通念に照らして考えた際に、事業と呼べる規模のことです。
賃貸経営の場合は「5棟10室」が基準となります。つまり、戸建ての建物であれば5棟以上、アパートやマンションであれば10部屋以上を貸し出せる、または貸している状態であれば、原則として事業的規模扱いになるのです。
事業的規模に満たない場合は「業務」扱いになり、所得から差し引ける経費が大幅に制限されます。賃貸経営をどこまで大きくしようか迷っている場合は、5棟10室を意識してみると良いでしょう。
2.青色申告特別控除
不動産所得または事業所得のある青色申告者には、65万円の特別控除が適用されることも魅力のひとつです。次の条件を満たす必要があります。
・確定申告の期限内に、損益計算書および貸借対照表を確定申告書に添付して提出していること
どれかひとつでも条件を満たしていないと、控除額は10万円に引き下げられてしまいます。
3.純損失の3年間繰越し
個人である青色申告者には、純損失を3年間繰り越すことが認められています。これにより、所得が多くなった年でも所得を抑え、税額を抑えることができます。
4.少額減価償却資産の特例
取得価額が30万円未満の減価償却資産について、取得して事業に使用し始めた年度の必要経費としてその全額を計上できるという特例です。
ただし、各年度分において少額減価償却資産の取得価額の合計が300万円以下であることが条件になっています。

まとめ
この記事では、大家さんが確定申告をするための方法「白色申告」「青色申告」の違いについて解説してきました。
申告忘れがないように、前々から準備し、申告期限内に確実に確定申告をするようにしましょう。