海外不動産を使った節税対策は規制される?節税のカラクリと今後の展望を予想

海外不動産

平成28年の会計検査院による検査報告の中で「海外不動産を購入し、大きく減価償却をとり税金をおさえる手法が横行しているが、この制度を見直すべきではないか」という主旨の指摘がありました。

この記事では、現在富裕層が多く利用している「海外不動産を利用した節税法」とはどのようなものなのか、今後節税法が規制される可能性はあるのかを詳しく解説していきます。

海外不動産は「寿命」が長い

海外不動産
日本の場合、住宅用建物の減価償却耐用年数は、木造であれば22年、鉄筋コンクリート造りであれば47年と定められています。しかし、海外の建物には築年数が100年を超えるようなものも珍しくなく、価格も下がりにくいのが現実です。会計検査院もその点について、次のような主旨の報告を上げています。「日本の建物は、建築してから減失するまで平均32年であるのに対し、アメリカは約66年、イギリスは80年となっていて、日本よりも長期間使用されている状況だ。そして日本の戸建て住宅は、建築後20年までで価値が大きく低下すると言われている一方で、アメリカやイギリスの戸建て住宅は、新築と中古住宅の価格差が少ない」。この「海外の建物の耐用年数の長さ」と日本の税制にズレがあることが、この問題の最大の論点となっているのです。

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海外の物件であっても、日本の税制が適用される

海外の建物の耐用年数が日本に比べて非常に長期間なのに、税制上は短い耐用年数を想定した日本の制度を利用するので計算に大きなズレが生じます。この部分を、会計検査院は問題視しているのです。会計検査院の報告では、次のような指摘がなされていました。「耐用年数が4年となっている者の割合が国外に所在する中古建物全体の約半数を占めていた」、「減価償却費を賃料収入と比較すると、国内に所在する中古建物のうちの90.1%が、賃貸料収入の半分以下となっていた。一方、国外に所在する中古建物については、83.2%が賃貸料収入を上回る状況となっている 」。

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なぜ耐用年数が4年になるのか

先ほどの会計検査院の報告で出てきた「耐用年数4年」という数値の出処が、今回の問題点を知る上でとても重要です。先程も申し上げたとおり、日本の不動産の法定耐用年数は、次のように定められています。

・鉄筋コンクリート造(RC)・・・47年
・鉄骨造・・・34年
・木造・・・22年

ただし、これらの耐用年数はあくまで「新築」で物件を購入した場合の法定耐用年数です。そのため、中古物件に投資をした場合については、今後の使用可能期間について、不動産鑑定士などの専門家の意見を聞いて算出し、その期間を法定耐用年数として減価償却をします。ただ、現実的には非常に手間のかかる作業であり、場合によっては税務署から耐用年数の妥当性や合理性について指摘を受けるリスクも抱える事になるため、ほとんどのケースで「簡便法」という計算方法によって、机上で計算をして耐用年数を決めているのです。

簡便法による計算方法について

中古の不動産については、簡便法によって法定耐用年数を計算します。

・法定耐用年数を経過した物件・・・法定耐用年数×20%
・法定耐用年数の一部を経過した物件・・・法定耐用年数-経過年数+(経過年数×20%)
法定耐用年数22年で10年を経過している中古物件の場合
法定耐用年数22年-経過年数10年+(経過年数10年×20%)=14年
よって、残りの法定耐用年数は14年となります。
木造の法定耐用年数である22年をすでに経過している、築30年の物件の場合
22年×20%=4.4年 1年未満の端数については切り捨てとなるため、4年となります。

このように、木造の法定耐用年数である22年を経過している不動産については、すべて4年の法定耐用年数になるのです。これが、会計検査院が指摘した耐用年数4年の仕組みなのです。

法定耐用年数が短いとどうなる?

法定耐用年数はイコール減価償却期間です。つまり、法定耐用年数が短いということは、それだけ短期間で多くの減価償却費という経費を計上できるということになります。

例えば、1億円の木造建物を新築で購入した場合、22年で減価償却するため、1年で計上できる減価償却費は1億円×0.046=460万円だけです。それが、築30年の中古物件であればたった4年ですべて経費化できるため、1億円×0.25=2,500万円と、同じ金額の物件を購入した場合でも、中古物件のほうがかなりの経費を計上できることになります。

海外の不動産に投資している人の多くは、国内の富裕層で多額の給与所得がある人です。不動産所得で多額の減価償却費を計上できれば、帳簿上の不動産所得で赤字を作ることができますその赤字を多額の給与所得にぶつけて損益通算することで、所得を大幅におさえることができ、個人所得税が節税できるという仕組みです。

減価償却費がなくなったらどうする?

中古物件であれば、短期間で減価償却して節税できることはお分かりいただけたかと思います。ただ、短期間で減価償却できるということは、減価償却が終わる5年目以降には減価償却費がなくなってしまうため、所得が一気に増えて税金が高くなってしまいます。つまり、先に大きく経費を計上しても、それは税金の支払いを先送りしているだけに過ぎないのです。国内不動産の場合、減価償却終了後の税負担を回避するためには、タイミングを見計らって売却するくらいしか回避策がありません。ただ、国内不動産の場合、築年数が古い木造物件については買い手がつきにくく、また価格についても大幅に落ち込むため、売却による利益はほとんど期待できないのです。一方で、国外不動産の場合は、日本に比べて中古物件の市場価格が高いため、木造で22年を経過している建物でも、場合によっては新築と同等程度の価格で売れることも少なくありません。また、売却によって譲渡所得が発生したとしても、売却した年の1月1日時点において所有期間が5年を超えていれば「長期譲渡」扱いとなり、短期譲渡の半分の20%(所得税15%、住民税5%)におさえることが可能です。

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国外脱出という裏技も

国外脱出
海外不動産を使って節税するメリットは、減価償却や中古物件の相場価格だけではありません。そもそも日本の税金は、国籍に関係なく、「日本に居住している人」に課税されます。課税対象となる所得については、日本国内の所得(不動産投資による収入など)だけではなく、国外で得た所得についても対象です。ですから、日本にいながらアメリカやヨーロッパなど全世界どの国の不動産に投資をしていても、その所得については日本の所得税が課税されます。ところが、日本に居住していない人(非居住者)については、「日本国内で生じた所得」に対してだけ課税されるのです。

よって、課税関係については以下のようになります。

・日本に住んでいる投資家が、日本の不動産に投資をした・・・課税対象
・日本に住んでいる投資家が、海外の不動産に投資をした・・・課税対象
・海外に住んでいる投資家が、日本の不動産に投資をした・・・課税対象
・海外に住んでいる投資家が、海外の不動産に投資をした・・・非課税

このように、所得税については国籍ではなく、納税者の居住地と物件の所在地をベースに課税非課税が決まるため、海外不動産に投資をしている場合、減価償却が終了するタイミングで国外に脱出すれば、非居住者扱いとなり税金を回避することができるのです。

課税を免れる非居住者とは?

所得税の課税を免れる非居住者とは、原則として日本国内に住所がない人で、引き続き1年以上日本国内に居所がない人のことをいいます。よって、たまたま海外旅行をしただけでは非居住者にはなりませんが、海外に1年以上長期出張している人や、1年以上海外で生活をしている人は、非居住者として扱われ、日本国内で生じた所得についてのみ、所得税が課税されることになるのです。この仕組みを利用して、海外不動産から生じる所得に対する所得税の課税から逃れることができるため、会計検査院から指摘を受けています。

なぜ海外不動産の中古は高いのか?

海外中古住宅
アメリカの不動産は、日本の不動産に比べ中古価格が高水準であると言われています。理由については諸説ありますが、そもそも日本人とアメリカ人で住宅に対する考え方に差があることが1つの要因と言われているのです。

日本は一生に一度の買い物、アメリカは?

日本人は住宅の購入について、「一生に一度の大きな買い物」という表現を使うことがあります。日本人にとって家を持つということは、一人前になった象徴でもあり、家に腰を据えて生活することを考えます。そのため、一度マイホームを購入すると住み替えるケースは非常に少ないため、そもそも中古住宅市場に多くの物件が流入してこないのです。また、近年でこそ長期優良住宅という言葉が出てきましたが、昔のマイホームは建てた本人が死ぬまで住めれば十分という考えのもと設計していた部分もあり、もっても30年程度くらいの感覚の木造住宅が多かったのも事実でしょう。

一方で、アメリカについてはマイホームの購入が一大イベントであることは変わりありませんが、日本と違って国土が広いということもあり、ライフスタイルにあわせて州間でも引越しする人が多く、同じ場所にずっととどまらないというケースが多いようです。例えば、子供が生まれたら有名な学校がある地域に引越したり、就職したら再度引越したりといった感じです。そのような風潮から、そもそも中古物件が市場に出回ることが多く、また、アメリカは売却するときのことも考えて100年以上耐えられるような頑丈な造りの家を建てるため、中古物件でもメンテナンスさえしっかりしていれば、それなりの価格で売却できます

日本人は築100年と聞くと、「古すぎて、土地値以上の価値がない物件」という考え方をしますが、アメリカ人の場合は「100年も耐えられた信頼できる造りの物件」という考え方をするようです。中古住宅市場が安定していると、新築を建てる時も将来高く売れることが予想できるため、ある程度お金をかけてしっかりとした造りのものを建てやすくなります。反対に、今の日本のように、買った瞬間に値段が下がるような状況では、そもそも売却して住み替えようとすら考えないでしょう。このような違いから、日本の中古物件はアメリカに比べて高く売れないのです。

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ホームインスペクションに対する考え方

今後人口が減少していく日本において、できるだけ中古物件の流通を活性化させようと、2018年4月から不動産業者によるホームインスペクションの告知が義務化されました。日本人が中古物件を懸念する1つの要因は、信頼性の担保がないことです。「古い=危ない」という意識が強いため、本当に大丈夫な物件なのか担保となる情報がないと、中古物件の購入に踏み切れないのです。そこで政府は中古物件の仲介にあたり、ホームインスペクションの斡旋について告知することとしました。実施自体は義務化されていませんが、今後、ホームインスペクションが普及すれば、中古物件の流通が促進され、市場価格についても従来の低い水準から見直される可能性が考えられるでしょう。

一方でアメリカについては、すでにホームインスペクションの実施がスタンダードとなっており、中古物件購入の際には不動産仲介業者(エージェント)に加えて、ホームインスペクターやアプレイザーなどの専門家が住宅を検査し評価するため、購入する側は古い物件でも安心して購入することができるのです。今後、日本の中古物件市場に変化が出てこれば、海外不動産を使った極端な節税対策については、ある程度解消される可能性も考えられるでしょう。

海外不動産を使った節税は規制されるのか

海外不動産を使った節税について会計検査院の指摘があった以上、今後何かしらの見直しが行われることが予想されます。考えられる改正案としては以下の通りです。

・海外不動産の減価償却については、国内とは違う独自の基準を設定する
・節税目的で非居住者となった場合の取り扱いを変更する

もともと中古住宅の法定耐用年数の計算方法である簡便法については、かなり昔に定められ、主に国内住宅を想定したものであったため、以前から「現状にそぐわない」という指摘もありました。

まとめ

以上、海外不動産を利用した節税法とはどのようなものなのか、今後その節税法が規制される可能性はあるのかを解説してきました。いずれにしても、海外不動産の購入を検討している方は、ここで挙げたような税制改正の可能性やそれに伴う従来の節税メリットの消失を視野に入れた上で決断を下すべきでしょう。

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