
アパート経営やマンション経営を始める際は、物件を購入する必要があるため、ある程度の資金が必要です。しかし、不動産投資は、資産価値が安定している不動産への投資なので、不動産を担保に金融機関から融資を受けて投資を始めることも可能です。しかし、仮に不動産投資に必要な金額の半分を金融機関が融資してくれても、残りは自分で補う必要があるので依然ハードルが高い状況と言えます。そこで登場するのがフルローンです。フルローンとは何なのでしょうか?
この記事では、フルローンとはどのような融資の受け方なのか、オーバーローンとの違いやリスク、少ない自己資金で始める4つの方法について解説します。
目次
フルローンとは?
不動産投資を始める際には、投資用物件を購入する必要があるため、数千万円程度の資金を用意しなければなりません。購入資金の全額を用意できないケースでも、条件の良い物件であれば、その物件を担保にして金融機関から融資を受けることが可能です。自己資金が足りない時は金融機関から融資を受けることができますが、頭金としてローンの一部を自己資金で補うのが一般的です。では、その頭金すら支払えない場合には、不動産投資を諦めるしかないのでしょうか?
そこで登場するのがフルローンです。フルローンとは、ローンを契約する際に、頭金なしで投資用物件の購入に必要な資金を全額融資してくれる契約方法です。借入金100%で投資用物件を購入するため、自己資金がない人でも投資用不動産を購入できます。しかし、不動産投資に必要な費用は投資用物件の購入費だけではありません。売買契約書に貼る印紙税、建物や土地の所有権移転に掛かる登録免許税、不動産の取得で発生する不動産取得税などの費用があります。諸費用はフルローンでは補えないため、これらを補える程度の自己資金がなければ不動産投資を始めることは困難です。

オーバーローンとの違い
オーバーローンとは、投資用物件の購入費用、印紙税や登録免許税、不動産取得税といった不動産投資に必要な全ての費用を金融機関が融資してくれる契約方法です。諸費用は物件価格の5%程度掛かると言われていますが、オーバーローンはそれすらも負担せずに不動産投資を始められるというメリットがあります。
不動産投資を始める際は、通常1~2割の頭金を拠出します。例えば、4,000万円の物件を購入する際は400万~800万円の資金が必要です。フルローンでは頭金は必要ありませんが諸費用として200万円、オーバーローンでは0円で始められるという違いがあります。
通常 | フルローン | オーバーローン | |
費用の項目 | 頭金 | 諸費用 | なし |
費用の詳細 | 物件価格の1~2割 | 物件価格の5%程度 | なし |
しかし、カボチャの馬車事件以降は金融機関の融資が慎重になっています。カボチャの馬車事件とは、女性専用シェアハウス「カボチャの馬車」を提供していたスマートデイズが破綻した事件です。この事件ではスルガ銀行が不正融資を行っていたため、各金融機関が融資審査をしっかり行うようになりました。その結果、オーバーローンは以前よりも受けにくくなっているので注意が必要です。

フルローンで不動産投資を始めた事例
フルローンでの融資を受けて、不動産投資を始める事例も実際に存在します。
今回はフルローンで不動産投資を始めた、3つのケースを紹介します。
構造 | 築年数 | 物件価格 | 年収 | 金融資産 |
---|---|---|---|---|
RC造 | 30年 | 15,300万円 | 1,000万円 | 6,000万円 |
鉄骨造 | 34年 | 9,800万円 | 4,000万円 | 2,000万円 |
鉄骨造 | 28年 | 19,300万円 | 4,900万円 | 13,000万円 |
いずれの事例もフルローンで融資を受けていますが、フルローンで融資を受けられる人は高年収あるいは多くの金融資産を保有しています。
また、実際にフルローンを受けている人は「キャッシュフローが悪くても頭金を抑えて不動産投資を始めたい」という人が多いです。
フルローンで不動産投資を始められる条件
フルローンで不動産投資を始められる条件は以下のとおりです。
- 高収入または金融資産を多く持っている
- 共同担保にできる物件を持っている
- 新築物件を選ぶ
- 土地値の出る物件を購入する
- 既存の投資物件でキャッシュフローが出ている
- 提携融資を紹介できる不動産会社を選ぶ
この条件に該当しない場合、基本的にはフルローンでの不動産投資をおすすめしません。
また、実際の融資割合は金融機関の審査を経て決まるため、条件を満たす場合でも必ずフルローンで融資が受けられる訳ではないため、留意しておきましょう。
不動産投資でフルローンはおすすめできない
フルローンで不動産投資を始めれば、諸費用だけを負担するだけでいいため、手元に現金を残しながら不動産投資を始められます。そのため、自己資金を多く拠出するよりもリスクを抑えながら不動産投資できると思った方も多いと思いますが、不動産投資でフルローンはやめた方がいいと言われています。
不動産投資でフルローンをやめた方がいいと言われる理由は、借入金が多くなることで儲けが少なくなるためです。儲けが少なくなるということは、裏を返せば返済に追われることを意味します。余裕をもって不動産投資を行うには、フルローンを避けた方が良いと言えるでしょう。

借入金が多いと儲けが少なくなる
フルローンやオーバーローンのように借入金が多いと、自己資金を少なく抑えられる一方、得られる家賃収入のほとんどを返済に回さなくてはならないため、儲けが少なくなります。例えば、4000万円の投資用物件を購入する際に、返済期間20年、元利均等返済、金利2%という条件で、2000万円融資を受けた場合と4000万円融資を受けた場合を比較すると、以下のような差が生じます。
2000万円融資 | 4000万円融資 | |
返済総額 | 2428万2300円 | 4856万4671円 |
1カ月あたりの返済額 | 10万1176円 | 20万2353円 |
2000万円自己資金を拠出して2000万円の融資を受けた場合には428万2300円の利息を払うことになりますが、もしフルローンで4000万円の融資を受けた場合には倍の利息を支払うことに。借入金が多いと利息も多くなるため、儲けが少なくなる点に注意が必要です。
キャッシュフローが悪化しやすくなる
不動産投資では、物件に入居者がいる限りは、継続的に安定した家賃収入が得られます。家賃収入が手に入っても、全てをそのまま収入として受け取れるわけではありません。不動産会社に管理を任せている場合は管理委託費が掛かるほか、固定資産税や水道光熱費、マンションの場合は修繕積立金や管理費などの経費も掛かるため、それらを引いて手元に残った分が利益になります。
しかし、借入金が多いと、これらの支出に利息を上乗せした返済も加わるため、手に入った家賃収入のほとんどを返済に回すことに。そうなると、手元に資金が残りにくくなるため、キャッシュフローが悪化します。さらに、空室が生じる、地震や火災などの自然災害によって建物が消失すると、家賃収入が得られなくなります。そうなった場合でも、固定資産税の支払いや融資の返済は残るため、貯金や給与をそれらの支払いに回すことに。フルローンで不動産投資を始めた場合は、キャッシュフローが悪化して返済が滞りやすくなるので注意が必要です。
不動産を売却しにくくなる
投資用不動産は需要が限られるため、通常の不動産よりも流動性が低くなるというデメリットがあります。フルローンの物件は、さらに流動性が低くなる可能性があります。その理由は抵当権です。金融機関は、融資の返済が滞って回収不能になるリスクを少しでも抑えるために、不動産を担保に入れます。不動産を担保に入れる際は、債権があるということを示すために抵当権を設定します。抵当権が設定されている物件は、返済が滞った時に金融機関が自由に売却して融資を回収できるのが特徴です。
例えば、4,000万円の物件を金融機関から2,000万円の融資を受けて購入して、売却の際に仮に値段が下がって3,000万円になったとしても融資を一括返済できる余裕があります。しかし、フルローンであれば3,000万円で売却しても一括返済できない可能性が。融資を返済できないと抵当権を外せないため、抵当権付きのまま売却することになります。抵当権付きの物件では、抵当権が実行されると金融機関に売却されるため、買い手にとって不利であることから買い手がつきません。フルローンで不動産投資を始めたものの、急にお金が必要になって物件を売却しなければならなくなっても、売却しにくくなるのはリスクと言えるでしょう。
融資審査が厳しくなる
金融機関は誰にでも融資を行っているわけではありません。もし、融資して返済が滞った場合には、金融機関は担保に入れている不動産を売却することで資金を回収できますが、売却価格が購入時よりも下がっていれば資金を全額回収できない可能性があります。
例えば、頭金を物件価格の30%拠出して残りの70%を融資で補ったとすると、売却価格が30%下がっても金融機関は資金を回収できます。しかし、フルローンは物件価格の100%を融資で補うため、返済不能になったタイミングによっては金融機関が損をすることに。フルローンの融資は金融機関が損をするリスクが高いため、融資審査が厳しくなる、融資を受けられない可能性もあるので注意が必要です。

自己資金で不動産投資を始めるメリット
フルローンではなく、自己資金を準備しておくことに何かメリットがあるのでしょうか?自己資金を準備しておく主なメリットは以下の3つです。
・不動産を売却しやすくなる
・融資審査に通りやすくなる

2件目以降の物件も購入しやすくなる
2件目以降の物件も購入しやすくなるというメリットです。不動産投資では、事前に自己資金を準備しておくことで、キャッシュフローが良くなって手元に資金が残りやすくなります。手元に資金が残りやすくなるということは、それらを頭金にして2件目以降の物件も購入しやすくなることを意味します。複数の物件を所有すれば、空室リスクや火災・地震などの自然災害リスクを抑えられるため、より安心して不動産投資を行えるようになるでしょう。
不動産を売却しやすくなる
続いては不動産を売却しやすくなるメリットです。フルローンのリスクの1つに不動産を売却しにくいというリスクがありました。売却しにくくなる理由は、売却価格が返済残高を下回ることで抵当権を外せないことが理由でした。しかし、自己資金を準備すれば、売却価格が返済残高を下回る可能性は低くなることから、金融機関が抵当権を外してくれるようになります。抵当権を外してくれれば制限のない不動産になるため、不動産の購入希望者が現れやすくなるでしょう。

融資審査に通りやすくなる
最後は融資審査に通りやすくなるメリットです。フルローンは、返済が滞った場合における金融機関のリスクが高いため、融資審査が厳しくなる、融資を受けられない可能性があると言いました。しかし、自己資金を準備して、物件価格に占める融資の割合を下げれば、金融機関は物件を売却することで資金を回収できる可能性が上がります。資金を回収できる可能性が上がることで、金融機関のリスクが下がるため、フルローンより融資審査に通りやすくなると言えるでしょう。

自己資金がなくても不動産投資を始める方法
以前は不動産投資に対して融資を受けやすい状況でしたが、カボチャの馬車事件やスルガ銀行の不正融資を受けて、不動産投資に対する融資審査が厳しくなっています。そのため、フルローンやオーバーローンで不動産投資を始めることはほぼ不可能と言えます。しかし、自己資金を準備して、借入金の割合を低くすれば金融機関から融資を受けることは可能です。そのため、金融機関から融資を受けながら不動産投資を始めたい場合には、まず自己資金を貯めることが重要です。
では、融資審査に通るほどの自己資金を貯めることができない場合は、不動産投資を諦めるしかないのでしょうか?自己資金がなくても不動産投資を始めることは可能です。少ない自己資金で不動産投資を始める方法は以下の4つです。
・クラウドファンディング
・ソーシャルレンディング
・中古物件の運用

REIT(リート)
REIT(リート)とは、不動産投資法人に投資するという運用方法です。不動産投資法人は、運用で得られた家賃収入や売却益を分配金という形で投資家に還元します。

クラウドファンディング
クラウドファンディングとは、事業者のホームページに掲載中の物件の中から、興味のある物件を選んでプロジェクトに参加して家賃収入を得る運用方法です。自分で物件を選べることが大きな特徴です。
ソーシャルレンディング
ソーシャルレンディングとは、不動産投資を行っている事業者に投資するという運用方法です。事業者は投資家から集めた資金で不動産投資を行い、利益を投資家に還元します。
中古物件の運用
中古物件は、新築時のような利益が上乗せされておらず、築年数の経過によって資産価値が低下しているため、物件価格が安くなります。自分だけの物件を所有できるのが大きな特徴です。

まとめ
金融機関から融資を受ける場合には、物件価格の一部を自己資金で補うのが一般的ですが、一部を補えなかったとしても不動産投資を行うことができます。その理由は、フルローンとオーバーローンがあるからです。フルローンでは融資額が物件価格の100%、オーバーローンでは物件価格の100%に加えて諸費用の融資も行ってくれます。しかし、借入額が大きいと儲けが減りキャッシュフローが悪化する可能性が高くなるため、フルローンはおすすめしません。
金融機関から融資を受ける際は、物件の取得価格がいくらで、借入金額をいくらにするかをよく考えましょう。自己資金割合を高めると返済金額を抑えられますが、借入金割合を高めると手元資金を増やせるというメリットがあります。どちらを優先するか、物件購入に移る前に融資条件をハッキリさせておくことが重要です。
また、少ない自己資金で不動産投資を始める際には、資産性が高い物件かどうか、収益性の高い案件かどうか確認することをおすすめします。いくら少額と言っても、元本保証がなく元本割れのリスクを伴うため、リスク対策を徹底しながら不動産投資を始めましょう。