不動産融資の引き締めとは?今後の展望と融資を受けやすくする条件を紹介

不動産融資 引き締め

2017年頃から、金融機関の融資体制は変化しています。「不動産融資の引き締め」と呼ばれるもので、不動産投資などで融資を受けたい人にとっては非常に気がかりな点となっていることでしょう。

この記事では、不動産融資の引き締めとその背景、今後不動産融資を受けるためのポイントなどについて解説しています。

不動産融資引き締めと、その背景とは

日銀
不動産融資の引き締めとは、融資に先立つ審査の厳重化や融資の制限強化のことを指す言葉です。では不動産融資の引き締めは、なぜ起こったのでしょうか。簡単に経緯を解説します。

投資人気などによる不動産価格の上昇

2016年以前までは「不動産バブル」とも称されるほど、不動産価格が右肩上がりを続けていました。そのため金融機関も、不動産融資に積極的な姿勢を見せていたのです。東京都を中心とした首都圏については、2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催による需要増に伴う地価上昇も見られていました。2013年頃からは、株価上昇による不動産市場の回復も見られ、空前の不動産投資ブームによってサラリーマン投資家が急増しました。依然として年金の受給見込みが不透明であることから、老後資金として不動産を持っておこうと考える人が多くなったことも、投資ブームに拍車をかけたことでしょう。当時は不動産投資が幾分か過熱気味であったことで、不動産投資経験の全くない人にも積極的に融資が実行されていました。「お金を貯めるだけでは増えません。投資することでお金に働いてもらいましょう!」という熱心な勧めが、メディアだけでなく金融機関からも差し伸べられていたのです。

さらに2015年の税制改正では、相続税の基礎控除額が大きく引き下げられました。従前の税制では4%程度と言われていた相続税納税の対象者は、税制改正によって10%程度にまで増えると見込まれています。結果、相続税対策としてアパートやマンションを建設する人が増えたことも、不動産市場を活気づかせた一因です。金融機関同士の融資競争も背景にあります。現場の職員には重い融資ノルマが課せられ、何とかこなすことでいっぱいです。他金融機関との差別化を図るために融資の基準を下げて顧客を集め、適正な審査を行わずに易々と融資を実行していた実態も指摘されています。このような背景によって、不動産価格および不動産融資額は2016年頃まで上昇を続けており、不動産融資を受けることはそれほど難しくはありませんでした。

過熱する不動産融資に金融庁と日銀が「待った」をかける

2016年に行われた不動産融資の残高はついに21兆円に達し、過去最高額となりました。これはバブル期をもしのぐ融資残高です。しかし、金融庁と日銀はこれに危機感を示しました。適正な審査に基づかない安易な融資や、金融機関による強引な融資、不動産業者や借入希望者による融資額の水増しなどの悪質な行為の横行を懸念したものと思われます。

実際、一部の金融機関では、相続税対策の相談に訪れる高齢者に対し、「オーバーローンを組んで賃貸住宅を建設すれば初期費用をかけずに不動産オーナーになれる」「土地の評価額も下がって相続税対策にもなる、ローンは家賃収入で簡単に返済していけるから大丈夫」などと甘い誘いを持ちかけることで、融資ノルマをクリアしていた様子も見られます。オーバーローンとは、不動産の価値よりも高い金額で融資を受けること、もしくは返済残高が不動産の現在価値を上回っている状態のことを言います。借りすぎによる返済の焦げ付きや申告額水増しによる違法性が指摘されている方法ではありますが、不動産業者や金融機関から提案されることで合法的な手段と勘違いする個人もおり、注意喚起がなされていました。

また、全国的に見て人口や世帯数が減少傾向にあるにもかかわらず、不動産が増え続けたことで全国的に空き室率が上昇しており、不動産が供給過剰状態になっていることも融資引き締めの一因でしょう。過熱した不動産投資は最悪の場合、ローン利用者の債務整理や自己破産にもつながります。金融機関にとっても、債権が回収できない融資案件が増加することは大きな痛手になるでしょう。不動産投資家の多くは、貯蓄ができるとか、現在の収入にプラスαできると思って不動産投資を始めるかもしれません。しかし近年の不動産飽和によって空き室が増えたり、家賃の値下げを余儀なくされたりして、ローン返済のために本業の給与などから支払いをしている投資家もいます。

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不動産融資引き締めによる影響と、今後の展望とは

金融庁
不動産投資の引き締め対策として金融庁と日銀が行っていることには、金融機関への融資リスク管理指導や、金融機関への調査などがあります。それによって2018年現在、不動産融資の現場は落ち着きを取り戻し、かつてよりも冷静かつ慎重に融資を行うようになったことは事実です。一部では「もう不動産融資は受けられないのか」という心配の声も上がっているようですが、不動産融資が受けられなくなったというわけではないようです。

簡単に言えば、客観的に見て無謀と思われる不動産融資は通らなくなったということです。具体例を挙げると、不動産投資を初めて行うのに自己資金を一切用意せずフルローンを組もうとする場合や、家賃収入に占める返済額の割合が高すぎるため少々の家賃変動によってローン返済が影響されそうな場合は、融資否決となる可能性が高くなります。融資についての細則は金融機関が独自に定めるものですが、ある金融機関では「家賃収入の7割ほどで月ごとの返済額をまかなえること」を条件としています。従来よりも堅実な事業計画が要求されていることが分かります。

引き締め後も、しっかりとした計画と根拠に基づく不動産融資であれば問題なく通ることでしょう。引き締めを理由にして、何かと貸し渋るようになったわけではありません。金融機関の融資否決事案は、金融庁の調査で確認されます。もし融資すべき対象に対して融資を渋ったとなれば、金融機関としてもまずいことになるのです。

少し見方を変えてみると、引き締めのもとにありながら融資の通る不動産があるなら、それは金融機関が融資額相応の資産価値と将来性を認めた物件、とも言うことができます。受け止め方次第で、不動産融資の引き締めは不動産投資成功の可能性を上げるためのサポート制度である、とも考えることができるでしょう。ところで、不動産融資の引き締めが今後、元のように緩む可能性は非常に低いと考えられています。かつての過剰な融資による弊害は各方面で明らかになっており、金融庁や日銀の判断次第では今後ますます厳しく制限されることが考えられます。

不動産投資における2019年問題とは

不動産投資に携わる者の間で今話題になっているのが「2019年問題」です。2019年問題とは、2019年になると不動産価格が値下がりする可能性を示唆しているのですが、ではなぜそのような予想がされているのでしょうか。東京オリンピック開催が決まった2013年9月以降、東京都心部を中心に不動産価格が徐々に値上がりしました。主な理由は、オリンピック特需を狙った海外投資家による買いが増えたことによります。特に中国人、台湾人投資家が日本の不動産を高値で購入したため、それに引き上げられる形で市場相場も値上がりしていきました。

ところが、不動産価格は2018年現在において海外投資家からすると思ったほど大きく価格が伸びていない状況です。それでも海外投資家が日本の不動産に見切りをつけて売りに出ないのかというと、これには税金が関係しています。不動産を売却して譲渡所得が発生した場合は、譲渡所得税が課税されます。譲渡所得税の税率は、所有期間に応じて短期譲渡所得と長期譲渡所得の2種類があり、税率が2倍も違います

税額=課税長期譲渡所得金額×15%(住民税5%)
税額=課税短期譲渡所得金額×30%(住民税9%)

このように、短期間で不動産を売却して利益を出すと、税金が非常に割高になる仕組みなのです。そして、税率が低い長期譲渡所得扱いになるのが「譲渡した年の1月1日現在で5年を超えているかどうか」で判断されます。東京オリンピック開催が決定した2013年以降に不動産を購入したとすると、2019年以降から徐々に長期譲渡所得扱いになるということなのです。つまり、今も売りたくてうずうずしている海外投資家が売らないのは、長期譲渡所得扱いになる2019年を静かに待っているからなのです。

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引き締めのもとでも不動産融資を受けるには?

不動産融資
では今後、どうしたら不動産融資を受けることができるのでしょうか。融資の確率を上げるために最低限考慮したい条件を2つご紹介します。

収益性の高い事業計画を立てる

不動産投資の引き締めで指摘された点のひとつには、収益性を度外視した融資が行われているというものがありました。今後の不動産融資においては、不動産としての収益性も大きなポイントになってくることが予想されます。いわゆる「収益担保」という考え方によるもので、その不動産がどれほどの収益を上げられるのかを客観的に割り出した上で、融資可能な金額を計算するというものです。融資を引き出すためには、現実的かつ十分な収益性が見込める事業計画を立て、これなら融資しても大丈夫だろうというお墨付きをもらうことが大切です。融資に通りやすい事業計画を作るためには、次の3つの点をよく熟慮しつつ計画する必要があるでしょう。

1.不動産の立地・環境・資産性

不動産の立地や周辺環境、建物の質などの資産性は、今後20年30年と収益を上げ続けることができるかどうかに大きく関係します。まず、立地です。不動産の所在地は、今後人口が増え利便性が増すことが予想される地域でしょうか。それとも過疎化や人気の低迷が進んでいて、地価が下がりそうでしょうか。事業用地として企業買収されるなどの話が出てはいないでしょうか。

不動産周辺の環境も大切です。企業や路線などの誘致によって今度人気が高まりそうな環境でしょうか。洪水や台風、地震などの災害時に大きく被害を受けそうな地域ではないでしょうか。入居者の退去の原因になるような、悪臭や騒音を放つ施設が近隣にないでしょうか。

融資を受けようと思っている不動産が、どれほど長く収益を上げられそうかという要素も重要です。例えば木造と鉄筋コンクリート造では、耐用年数が大きく違います。経年劣化で生じる不具合の程度も違いますし、遮音性や気密性などの住み心地も鉄骨や鉄筋造の方が上です。住み心地が良いということは入居者が退去しにくく、家賃収入が安定することにもつながります。その分取得費用は高額になりますが、予算と相談しつつ質の高い建物を選ぶようにしましょう。

不動産融資の引き締め後は、収益を生む可能性が高い不動産でなければ融資を受けることができません。融資を受けようとする不動産はよく吟味し、厳選しなければなりません。

2.借入希望金額と返済額を試算する

不動産の購入費用としていくら必要なのかということと、そのうちどれくらいを自己資金でまかなえるかを考えてみましょう。続く部分でも触れますが引き締め後は、かつてのように自己資金0でフルローンを組むという計画では融資否決になりやすくなっています。希望金額通りに融資を受けられたと仮定して、毎月いくら返済することになるかも試算します。金利を考慮することも忘れないようにしましょう。先ほどご紹介したように、家賃収入の7割程度で返済金額をまかなえるのが理想です。もし家賃収入の9割程度を返済に充てなければならない結果となるなら、空き室や突発的な修繕によって簡単に収支がマイナスになってしまうため、非常に危険です。価格の低い不動産を探しなおすか、もう少し自己資金を貯めてから計画し直した方が良いでしょう。

3.空き室率や維持費用を予想し、試算する

2017年に首都圏にある木造および軽量鉄骨アパートを対象にした調査では、空き室率は神奈川県で約36%、東京都で34%となっています。上記の数値は調査開始以来の最高水準となっており、やはり不動産融資の過熱や相続税対策の建設ラッシュによる供給過剰が背景にあると考えられます。新築物件でも、常に満室にすることはできません。必ず入退去は発生しますし、いずれ全国的な空き室増加の影響を受ける可能性も否定できません。もしも、自分の所有する物件の3割近くが空き室になってしまったらどのくらいのマイナスになるだろうか、どのくらいの期間マイナスに耐えられるだろうか、と考えてみることができます。考えられる最悪の事態を想定して対処法を考えておくことは、どんな投資においても大切です。

新築物件でもそうですが、不動産が中古であれば空き室以外にも維持費用のことを慎重に考える必要がありますどんな不動産でも経年劣化は起こりますから、定期的なメンテナンスをしなければなりません。その費用は、基本的に物件オーナーの負担です。共用部分の定期清掃費用や、屋根や外壁の清掃や塗装費用、ライフライン設備の点検や修繕費用、万が一家賃滞納や事故物件となり得る事態が発生した場合の費用など、予想される維持管理費用は多岐にわたります。火災保険や地震保険など、想定される災害のために保険料も負担しなくてはならないでしょう。不動産管理会社と契約する場合は、毎月一定の手数料を支払うことで一定の範囲までは維持管理を肩代わりしてくれるかもしれません。管理会社を入れない場合は、家賃収入の中から一定額を積み立てておき、必要に応じて引き出せるように備えておくことが重要です。

上記の3点を正直に自己分析し、これならいけそうだと感じる計画ができたなら、融資申し込みの際の事業計画書として提出することができるでしょう。もし融資否決であれば、いったん立ち止まって事業計画全体を見直し、何か無理のある点はなかったかを考えてみましょう。ある意味で、無理のある融資を受けずに済み、計画を練り直す機会が与えられたので助かったのかも、と考えることができるかもしれません。

できる限り自己資金を用意する

融資の可能性を高めるには、自己資金比率を高めることが何よりの近道です。どんなに少なくとも購入金額の1割、可能であれば3割程度は自己資金で用意したいところです。もちろん自己資金比率が、高ければ高いほど、融資も通りやすくなるでしょう。自己資金については、ある程度自己資金があれば借入金額が小さくなるので融資を受けやすい、というだけではありません。自己資金を用意できるなら、その人がこれまできちんと働いてきたということだけでなく、自己管理して貯蓄する能力がある人物なのだということが金融機関の担当者に伝わります。融資においては、担当者の心証も重要です。もし、自己資金はないが計画は完璧なので融資してほしいと言う人がいたとしたら、どんなに素晴らしい事業計画であったとしてもそれは「机上の空論」とみなされてしまい、融資を受けることは難しくなるでしょう。

まとめ

以上、不動産融資の引き締めとその背景、今後不動産融資を受けるためのポイントなどについて解説してきました。

無謀な不動産融資は出来なくなりましたが、収益性の高い事業計画を立てたり、できる限り自己資金を用意すれば、まだまだ不動産投資のチャンスはあります。諦めずに、地道に投資のチャンスを見つけていきましょう。

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