生産緑地の相続税の納税猶予特例をわかりやすく解説!適用条件や注意点なども詳しく説明

納税猶予

生産緑地は相続税評価額を算出するときの基準が宅地評価に近く面積が広大なため、そのまま課税されると納税額が高額になってしまうこともあります。

生産緑地を相続したときには、一定の要件を満たすことで納税を先延ばしにできる「相続税の納税猶予」という制度を利用するとよいでしょう。

しかし、相続税の納税猶予は適用・継続の条件が厳しく、適用を打ち切られてしまうこともあります。

そうなれば、相続発生時点より高額の税金を納めなければならなくなるので、あらかじめ制度の概要と必要な手続きを正しく理解することが大切です。

この記事では、生産緑地における相続税の納税猶予制度の概要と、利用する際の注意点・対策などを詳しく解説します。

生産緑地に適用される相続税の納税猶予とは

納税猶予とは
生産緑地を相続によって取得したとき、一定の要件を満たせば、農業投資価格による価額を超える部分に対応する相続税の納税が猶予される制度です。

農業投資価格・・・恒久的に農業に使用される土地が取引されるとした場合に通常成立すると認められる価格として、国税庁が決定した価格のことです。

その価格は都道府県ごとに定められており、10アール(1,000平方メートル)当たりの単価で表されます。農業投資価格は、国税庁ホームページの路線価図・評価倍率表のページで確認できます。

たとえば、東京都における農業投資価格は下表のとおりです。

 
都道府県 採草放牧地
東京都 90万円 84万円 51万円

一方で、東京都の宅地の1平方メートルあたりの平均は約116万円です。10アールとなれば、約1億1,600万円になります。

したがって、相続税の納税猶予の特例を受けることで、本来納めなければならなかった税額を100分の1近くまで抑えることが可能というわけです。

相続税の納税猶予制度を利用することで、相続時点での納税額を減らせることが大きなメリットです。

参照:国税庁「路線価図・評価倍率表 農業投資価格の金額表」

相続税の納税猶予制度が生まれた背景

生産緑地に対して相続税の納税を猶予する制度が生まれた背景には、高額な相続税があります。生産緑地の相続税評価額は、下式によって算出されます。

相続税評価額 = 生産緑地以外の土地を評価した価額 × (1 – 控除割合)

ここで、「生産緑地以外の土地を評価した価額」とは「市街地農地の評価」です。

市街地農地の評価・・・その農地が宅地であるとした場合の価額から宅地造成費を除いた金額に地積を掛けたものです。

宅地造成費は、農地を宅地にするためにかかる費用を指します。そして、相続税評価額の算出においては、実際の費用ではなく都道府県ごとに定められた宅地造成費を使用します。

たとえば、東京都では平坦地の宅地造成費を次のように定めています。

 
工事費目 造成区分 金額
整地費 整地を必要とする面積1平方メートルあたり 700円
伐採・抜根費 伐採・抜根を必要とする面積1平方メートルあたり 1,000円
地盤改良費 地盤改良を必要とする面積1平方メートルあたり 1,800円
土盛費 他から土砂を搬入して土盛りを必要とする場合の土盛り体積1立方メートルあたり 6,500円
土止費 土止めを必要とする場合の擁壁の面積1平方メートルあたり 68,600円

東京都の宅地の1平方メートルあたりの価格は平均で116万円を超えているので、宅地造成費を除いても、ほとんど変わりません。また、控除割合は下表のとおりです。

課税時期から買取の申出ができるようになる日までの期間 割合
5年以下のもの 10%
5年を超え10年以下のもの 15%
10年を超え15年以下のもの 20%
15年を超え20年以下のもの 25%
20年を超え25年以下のもの 30%
25年を超え30年以下のもの 35%

買取の申出ができる日が近くなるほど控除割合は小さく設定されています。生産緑地の多くは1992年に指定されたものです。

したがって、2020年現在であれば1992年に指定を受けた生産緑地は、買取の申出ができるようになるまで5年以下に該当し、相続発生時の控除割合は10%です。

その結果、農地なのに宅地とほとんど変わらない評価額となり、高額な納税義務が適用されます。

しかし、それでは農業を継続したいのに、相続税の納税のため「農地を運営できない」「農地を売却しなければならない」などの問題に発展してしまうでしょう。

そこで、相続で取得したあとも引き続き農業を続けたい人が安心して続けられるように相続税の納税猶予制度が設立されました。

相続税の納税猶予が適用される条件

生産緑地であれば、必ず納税猶予の特例が適用されるわけではありません。被相続人と相続人が以下のいずれかの要件を満たしていること条件です。

【被相続人の要件】
・亡くなる日まで農業を営んでいた
・農地を生前一括贈与し、受贈者が贈与税の納税猶予または納期限の延長特例の適用を受けていた
・障害や疾病などの理由で自分で農業ができなくなったため、生産緑地に賃借権を設定して貸付け、そのことについて税務署長に届出していた
・亡くなる日まで農業経営基盤強化促進法または都市農地の賃借の円滑化に関する法律の規定による特定貸付けをしていた
【相続人の要件】
・相続税の申告期限までに農業経営を開始し、その後も引き続き農業経営をおこなうと認められる人
・農地等の生前一括贈与の特例の適用を受けた受贈者で、特例付加年金または経営移譲年金の支給を受けるために推定相続人の1人に、使用貸借権を設定して農地経営を移譲し、税務署長に届け出た人
・農地等の生前一括贈与の特例の適用を受けた受贈者で、障害や疾病などにより自分で農業をできなくなったために、賃借権を設定して貸付け、税務署長に届け出た人
・相続税の申告期限までに特定貸付けなどをおこなった人

要件の一部をわかりやすくまとめると、
・被相続人は亡くなる日まで生産緑地で農業していた
・相続人は相続後も引き続き農業をおこなう予定である
・当事者が農業を営むことが難しい状況の場合には他者に貸付け、税務署長に届出している

ことが条件だといえます。

そのため、生産緑地で農業を続ける限り、相続税の納税猶予の特例が適用される可能性が高いといえるでしょう。

参照:国税庁「No.4147 農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例 2 特例を受けるための要件」

相続税の納税猶予を受ける手続きと免除される条件

手続き
相続税の納税猶予は、要件を満たしているだけで自動的に適用されるわけではありません。最初に適用を受けるための「申告手続き」と「3年ごとの継続手続き」が必要です。

相続税の納税猶予の申告手続き

相続税の納税猶予の特例の適用を申告するとき、農地等納税猶予税額と利子税の額に見合う担保を提供する必要があります。

この担保について、納税猶予を受けた生産緑地の全てを提供する「全部担保」であれば、相続税の額に相当する担保の提供があったと扱われます。

一方で、この方法以外での担保提供となると「一部担保」となり、相続税と利子税の合計に見合う額を担保として提供しなければなりません。

また、相続税の納税猶予の手続きをおこなう場合、農業委員会の発行する「相続税に納税猶予に関する適格者証明書」を添付する必要があります。

この書類は、発行までに日数がかかる場合があるので、相続税の納税猶予を受けることを決めた早い段階で申請しましょう。

納税猶予の手続きで添付が必要な書類については、税務署で問い合わせて確認するとよいです。

参照:国税庁「No.4147 農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例 3 特例を受けるための手続等」

相続税の納税猶予の適用の継続手続き

生産緑地に対して適用される納税猶予は、引き続き特例の適用を受けるために3年ごとに届出することが定められています。

このときに提出する書類は「引き続き農業経営をおこなっている旨の証明書」です。農業委員会が現地調査をすることで発行されます。

継続の届出をしなければ、納税猶予を打ち切られることになるので必ず提出しましょう。

参照:国税庁「[手続名]贈与税又は相続税の納税猶予の継続届出手続」

納税猶予額が免除される条件

「納税猶予」はあくまで納税の先送りです。相続が発生した時点で支払う必要がないだけで、納税義務は残っています。

しかし、下記のいずれかの場合であれば納税猶予額は免除されることになっているので、猶予されていた納税額はそのまま納める必要はありません。

  • 特例の適用を受けていた相続人が亡くなった場合
  • 特例の適用を受けていた相続人が、生産緑地の全部を生前一括贈与した場合

したがって、生産緑地を相続したあとも自分が亡くなるまで農地経営し続けるのであれば、納税猶予額は納めないで済むというわけです。

相続税の納税猶予を受けたときの注意点

注意点
相続税の納税猶予は、適用を打ち切られる場合があるので注意してください。特例が適用されなくなると、納税猶予額だけでなく利子税も加算されます。

次の項目から「納税猶予が打ち切られる場合」や「納税猶予税に対する利子税」「生産緑地の貸付け特例」についてわかりやすく解説します。

納税猶予が打ち切られる場合

下記のような場合に当てはまると、納税猶予を打ち切られる可能性があります。

・生産緑地を贈与・譲渡した
・生産緑地を転用した
・障害や疾病などがないのに生産緑地に対して使用貸借権や賃借権を設定して貸し付けた
・生産緑地での農業をやめた
・3年毎に必要な継続届出書の提出をしなかった
・生産緑地の買取りの申出をした
・生産緑地の指定の解除があった

生産緑地は指定を受けた年から30年経過した段階で、買取の申出が可能となります。しかし、買取の申出をすると、猶予されていた相続税を納めなければならないので注意が必要です。

また、指定から30年経って特定生産緑地に指定されない場合、農地経営を続けたとしても相続における納税猶予の適用はありません。

ただし、その時点で納税猶予を受けていれば、現世代に限り次の相続まで猶予が継続される激変緩和措置があるので安心してください。

納税猶予税額には納税時に利子税がかかる

納税猶予が打ち切られると猶予納税額だけでなく、その税額に対して一定の利子税がかかります。

利子税は原則、相続税の申告期限の翌日から納税猶予が打ち切られるまでの日数に応じて年3.6%の割合です。

たとえば、猶予納税額が1億円、猶予期間が10年間だとすると利子税は約3,600万円です。そのため、約1億3,600万円を納税しなければいけません。

このように課せられる利子税を加味すれば、特例の適用を受けないほうが良かった可能性もあります。

もし近々相続が発生しそうで納税猶予の特例を受けようか迷っているのであれば、自分の経済状況を考慮しながら慎重に判断することが大切です。

生産緑地の貸付け特例

前の項目でも説明したように、生産緑地を他者に貸付けた時点で納税猶予が打ち切られてしまいます。

しかし、平成30年度の税制改正により一定の要件を満たすのであれば、生産緑地の貸付けをおこなっても納税猶予が継続されることになりました。

その要件というのは、
「認定都市農地貸付け」
「農園用地貸付け」

をおこなった場合です。

認定都市農地貸付け・・・都市農地の賃借の円滑化に関する法律に規定する認定事業計画に基づき、都市農業者へ貸し付けることです。

農園用貸付け・・・地方公共団体や農業協同組合、農地を所有していないNPO・企業などがおこなう特定農地貸付けに使うための貸付けまたは、農業委員会の承認のもと行われる特定農地貸付けのことです。

この特例の適用を受けることで高額な猶予納税額の納税を避けられます。

ただし、適用を受けるには、要件を満たす貸付けをおこなってから2カ月以内に手続きが必要なので忘れないようにしましょう。

まとめ

相続税の納税猶予は、生産緑地として相続し相続人が農業を続けている間は原則適用されます。

そして、生産緑地の相続税評価額は非常に高額となるため、納税猶予の特例を受けるメリットは大きいです。

しかし、特例の適用が打ち切られたとき、猶予納税額だけでなく利子税も納めなければならないので納税額が増額されてしまいます。

そのため、もし相続した生産緑地での農業を続けられなくなったのであれば、貸し付けても納税猶予が継続される貸付け特例を利用するとよいでしょう。

適用を受けるにはいくつかの条件があるので、疑問や不安があれば税務署や税理士などの専門家に相談することが大切です。

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