「フルローン」を利用する前に!メリットとデメリット、正しい使い方を解説

フルローン メリット デメリット

不動産投資を始める際に、自己資金が充分にない方が選ぶ方法の一つに「フルローン」があります。これは、その名の通り「物件の購入資金をすべてローンで賄う」ことを指します。しかしこの方法は、正しく使わなければ大きな失敗を招きかねないものなので、正しい知識を踏まえた上で利用しなければなりません。

この記事では、フルローンに関するメリットやデメリット、発生するリスク、利用する際の注意点などについて紹介していきます。

フルローンは「資産価値の高い物件」が前提

資産価値の高い物件
通常不動産を購入する場合は、初めにまとまった頭金を業者に支払いますが、フルローンの場合は、それも支払わず、かかる費用はすべてローンで賄います。しかしこれは全ての不動産物件に適用されるわけではありません。ローンを組む際の査定対象となるのは、「不動産経営による収益がどれほど見込まれるか」という要素ですが、その根拠である物件の資産価値や家賃の利回りの高さです。これらが業者側に認められないと、ローンを組むことは非常に困難になります。

メリット:資金がなくても投資ができる、チャンスが増える

フルローンの最大のメリットは「資金がなくても不動産を購入できる」点にあります。すべてをローンで賄うため、資金力に乏しい投資家であっても物件を購入することができるため、自身の資金のみで投資を始めるよりも速いスピードで資産を作ることができるのです。現に、若手投資家の中にも「投資を始めたばかりの時は資金力がなかったが、フルローンを利用することで不動産を購入でき、その結果大成功をおさめた」という方も珍しくありません。それだけではなく、フルローンに諸経費も含めた「オーバーローン」を活用し、物件を次から次へと手に入れることによって、投資のスケールを拡大するケースも多々あります。

もう一つメリットがあります。それは「自分の資金では手の届かないような物件を購入するチャンスが得られる」点です。購入費用をローンに頼るため、資金は自分の能力で用意できる以上の金額を得ることができます。その結果、自らの資金力ではとても手の届かなかった高級住宅地の不動産を手に入れることも可能になるのです。かつて金融機関は、不動産投資をする方に向けフルローンでの融資を盛んに行って来ました。しかし、サブプライムローン問題などのあおりを受けたため、この方法での融資は減少傾向にあります。ただ一部には今でもフルローン融資を行う金融機関もあるので、興味があれば探してみるのも一つの手です。

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ワンポイントアドバイス:オーバーローンとは?

オーバーローンとは、フルローンにプラスして諸費用なども含めた総額でローンを組む手法です。つまり、オーバーローンを使えば、全くの貯金ゼロでも、理論上は不動産投資を始めることができます。ただ、オーバーローンについては、金融機関が非常に嫌がるため、基本的には物件価格の1~2割程度の頭金を準備することがベストです。そもそも、オーバーローンで不動産投資を始めるケースというのは、不動産会社の営業マンに営業されて、根負けして購入するケースが多いため、金融機関としても強く警戒するのです。

実際、リーマンショック前までは、オーバーローンであってもどんどん金融機関が融資をしていましたが、リーマンショック後はその勢いも衰え、無茶な貸し出しはしなくなりつつあります。また、不動産会社の営業を受けるときに注意しなければならないのが、オーバーローンのさらに上をいく、スーパーオーバーローンの存在です。スーパーオーバーローンとは、オーバーローンに加えてさらにプラスした金額のローンを組むことです。そもそも、なぜそんな必要があるのでしょうか。悪徳な不動産会社の中には「不動産投資をすれば、今の借金を返済できます」となんとも無茶な営業をしているケースがあります。

例えば、大手企業勤務や公務員など、属性は良いものの、カードローンや消費者金融にローンを抱えていて困っているような人たちをターゲットにして、スーパーオーバーローンを組ませて、余った金額を既存のローン返済に充当させていたのです。スーパーオーバーローンをひく場合は、不動産売買契約書の売買価格を改ざんする必要があるため、当然のことながら違法行為となります。ただ、何も知らないユーザーとしては、「借金が返せてしかも不動産投資ができるなら」と安易に考えてしまい、そのままスーパーオーバーローンで購入してしまうのです。万が一、このような営業を不動産会社から受けたとしても、絶対に相手にしないよう気をつけましょう。

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デメリット:思っていた価格で売れなかった、借り手がつかず部屋が空いた

フルローンは、前項でもご説明したとおり「自己資金ではとても購入できないような高価な物件を手に入れることができる方法」です。もしこの投資が成功すれば、乏しい資金力で多くの財産を作り上げることができるのですが、それがうまくいかなければ融資分を返済することすら困難になってしまうのです。フルローンで高価な物件を購入しても、売却の際に高価すぎて買い手がつかなければ相場よりも相当に低い額で売却しなければなりません。そうなれば、利益が出なくなるどころかマイナスになる可能性も出てきます。さらに、融資分の返済すらできない状態に陥れば、銀行の抵当権を外すことができないので売却自体が困難になり、身動きが取れなくなるような事態を招くこともあります。

また、「空き部屋」ができることもフルローンのリスクを増加させる要因となります。不動産業者が提示する、物件の「実質利回り」とは、満室の状態を想定して算出したものなので、空室が出ると利回りも下がってしまいます。もちろんこの場合家賃収入はゼロのままですが、それでも管理費や修繕費は毎月発生するので、そうなると自己資金から返済分のお金を持ち出さなければならなくなります。このような本末転倒な事態は絶対に避けたいものです。

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ワンポイントアドバイス:オーバーローンで買うと逃げ場がなくなる恐れあり

通常、不動産投資でローンを組んで物件を購入した場合、数年経過して思ったほど利益がでなければ、一旦売却して利益を確定して次の投資に移ることができます。この際、物件の売買代金で残ったローン残債を返済するわけですが、オーバーローンを組んでいるとここでそのツケが回ってきます。

オーバーローンは本体価格以上のローンを組んでいるため、万が一途中で投資をやめたくなって売却を検討したとしても、売買代金がローン残債に至らず、売るに売れないという状況になってしまうのです。どうしても売る場合は、不足分について自分で現金で準備しなければなりません。まさに、オーバーローンのツケが回ってくるのです。そのため、オーバーローンで投資を始める場合は、何度もシミュレーションを重ねるなど、慎重に判断することが求められるでしょう。

売却できても利益がなくなる場合もある

建物劣化
リスクは「売れない」「借り手がつかない」ことだけではありません。建物の劣化もリスクを生むファクターとなります。建物は減価償却により、月日が経つごとに価値が下がっていきます。そのため、フルローンで購入した物件は月々入る収益で資産価値の減少を補てんする必要があります。

例えば、「8,000万円で購入し、年間200万円の家賃収入があるマンション」があったとします。減価償却の期間は仮に50年だとしましょう。このような物件を10年保有した場合、そこで得られる家賃収入の合計額は「200万円×10年=2,000万円」となります。そのうちローンが30万円だったとすると、10年分の300万円を2,000万円から引けば、実質的な利益である「1,700万円」という金額が算出できます。この時点で売却を考える場合、購入から10年経過した分目減りした資産価値を算出する必要があります。8,000万円が50年で減価償却できるのですから、1年間で減る資産価値は「8,000万円÷50年=160万円」となります。それが10年なので、資産の価値減少分は合計1,600万円という事になります。10年間の利益が1700万円であるのに対し、資産価値減少分が1,600万円であるため、10年間の純粋な利益は「1,700万円-1,600万円=100万円」となります。

10年間で得た家賃収入が実質100万円では、とても「利益」とは呼べません。フルローンは、ローンの返済額の高さと、資産の価値減少が相まって、実質的な家賃収入の利益が生まれなくなるというリスクも、しっかり認識しておいてください。

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家賃保証とセットになっている場合の注意点

家賃保証
フルローンを使う場合に、本人が躊躇していると不動産会社から提案されやすいのが「家賃保証」です。フルローンを組む際に、最も懸念されることが、先ほども少し触れた「空室」です。空室になればその間は家賃収入が全く入ってこないため、予定していた返済ができなくなってしまうことを懸念しますよね。特に、フルローンを組む人の場合は、不動産投資ようの貯金もほとんどないため、ローン返済の原資が家賃収入に大きく依存します。

そんな時に不動産会社から提案されるのが「家賃保証」です。家賃保証とは、購入後の物件の家賃について、空室か満室にかかわらず、不動産会社が保証してくれるという、なんとも都合の良いシステムで、投資物件を販売する1つの手法としてよく用いられています。確かに、家賃保証を利用すれば、空室リスクに悩まされることなく、長期的安定的に家賃収入が入ってくるため、安心してフルローンを組めると思うかもしれません。ところが、それが非常に危険なのです。

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家賃保証の3つのリスク

1.保証家賃は相場よりも安い

家賃保証をする不動産会社は、その物件を一括ですべての部屋を借り上げて、それを他人に又貸しすることで、又貸しした際の家賃と保証家賃の差額が利益になります。そのため、保証家賃については当然のことながら、相場家賃より低くなり、目安としては、8~9割くらい安くなるのです。それでも不動産投資のキャッシュフローが黒字になるのであればよいのですが、保証家賃だけではキャッシュフローが赤字になってしまうことの方が多いようです。家賃保証を利用する場合は、保証家賃でも安定して利益を出せるのかどうかを慎重に見極めましょう

2.不動産会社の業績に左右される

家賃保証を利用する場合は、その不動産会社の業績にも注意が必要です。家賃を保証するのはまさにその会社であるため、会社の業績が良いうちは大丈夫ですが、悪化してくると保証家賃を値下げするよう迫ってくる可能性があります。そもそも、保証家賃については保証期間中常に同じ金額というわけではなく、2~5年ごとに見直しとしているケースがほとんどです。購入時はあまり細かく説明してくれませんが、保証家賃については変動するものであり、そのほとんどが「値下がり」することになります。たとえ、物件の相場家賃が下がっていなかったとしても、その会社の業績が悪化していると、そのしわ寄せが保証家賃にきてしまい、不当な値下げ交渉を受ける可能性もあるのです。特に、不動産売買をしている会社が家賃保証をしている場合、売買で得た利益で相場よりも高い金額の保証家賃で回しているケースがあるため、売買が不調に陥ると保証家賃も値下がりする恐れがあります。

3.家賃保証は解約できない場合がある

これは多くの方が驚かれる部分なのですが、実際、家賃保証契約は不動産会社が解約に応じてくれなければ、解約することはできません。自分の所有権があるのになぜ?と多くの方が疑問に思うことでしょう。その答えは、家賃保証の法的な仕組みにあります。家賃保証とはあくまで商品名であり、法律的には「転貸を許可した賃貸借契約」なのです。つまり、家賃保証をしている不動産会社は、いわば物件の「入居者」と同じ立ち位置になり、家賃保証契約を解約するということは、すなわち入居者である不動産会社を追い出すという意味合いになるのです。実際に住んでいるのは、不動産会社が転貸した転借人ですが、所有者と契約しているのはあくまで不動産会社のため、家賃保証契約を解除するには、不動産会社の同意が必要になります。

家賃保証契約書に「違約金」を支払えば解除できると記載されているケースもありますが、だからと言って必ずしも解除できるとは限りません賃貸借契約の場合、貸主側から解除できるのは、あくまで「正当事由」がある場合に限ると、借地借家法で規定されているのです。正当事由とは、「収支が悪いから」「自分で使いたいから」「管理会社を変更したいから」などといった理由だけでは、ほとんどのケースで認められていません。例えば、その物件以外に所有者が住む場所がない、というような特別な事情がなければ、認められにくいのです。

借地借家法は借りている人を保護するための法律でもあるため、貸している方から解除をするためには、借主である不動産会社の同意が必要なのです。家賃保証契約が解除できないと、売却する際に売れにくくなる可能性もあるため、非常にネックとなります。家賃保証契約を利用する場合は、事前に解約する場合の手順を確認した上で、それを書面化して残しておくことをおすすめします。

まとめ

確かにフルローンには魅力があります。自分の力だけでは買えそうにない高価な物件を購入できるこの方法を使えば、莫大な資産を形成することも夢ではないからです。しかし、空室や利回り、買い手の不在、物件の劣化などにまつわる数多くのリスクがあることも事実です。

そのリスクの犠牲にならないためにも、専門家などに相談して綿密な計画を立てたり、空室がある程度の期間続いても持ちこたえられる資金をあらかじめ用意するなど、入念な準備が必要だということを心に留めておいてください。

最終更新日:
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