
不動産投資を行うと家賃収入が入ります。そこで考えなければならないのが税金のこと。特に所得に応じて納めなければならない「所得税」は心配事の一つではないでしょうか。「所得税の計算方法は?」「どのくらい支払うの?」「少しでも税金を減らすための方法は?」所得税率は一律ではなく自分自身で計算する必要があるため、疑問や不安がある人も多いでしょう。
税金については専門家である税理士に任せることもひとつの方法ですが、オーナーが税金を知らなければお金の流れをきちんと追うことができなくなってしまいます。思った以上に税金が高い…と後悔しないためにも、オーナーも税金の基礎知識を身につけておきましょう。
この記事では、「所得税の計算方法」や「実際の計算シミュレーション」「手取りを増やすための税金コントロール手法」を中心に、不動産所得にかかる税金について説明します。
目次
家賃収入には所得税がかかる
給与や家賃収入など、個人の収入には所得税がかかります。サラリーマンは、会社が計算して納めてくれるため意識することは少ないですが、家賃収入がある場合は自分で申告して支払わなければなりません。
不動産投資における所得税は、「不動産所得」に「税率」を掛けて算出されます。「不動産所得」とは家賃収入など不動産から発生する収入から必要経費を引いた額のこと。つまり、所得税は以下の式で計算できます。
所得税の税率は累進課税制度を採用しているため、収入が上がると税率も高くなります。

所得税がかかる5つの収入
家賃収入以外にも、投資用不動産を使って得る収入には所得税がかかります。礼金や更新料など、継続的に得るわけではない収入も不動産所得に分類されます。所得税を計算するには収入をきちんと把握する必要がありますので、一つずつ詳しく見ていきましょう。
家賃
賃貸住宅を入居者に貸すことで発生する賃貸料=家賃は当然収入となります。家賃収入は「発生主義」のため、未収入金であっても収入として計上する必要があります。発生主義とは、収入が確定したタイミングで金額を計上する方法。
不動産投資では、当月に翌月分の家賃を受け取ることが一般的です。その場合、受け取った当月では「前受金」として処理をして収入には計上しません。前受金は発生が確定した翌月に、再度会計処理をして収入に計上します。会計期間内の「収益と費用」を正確に対応させるために必要な方法ですので知っておくと良いでしょう。
共益費・水道費
家賃と分けて入居者から共益費を受け取っている場合はこちらも収入となります。またアパート経営者で、水道費を一律料金で受け取っている場合の水道費も家賃などと同じ収入となります。
礼金
礼金とは入居する際に大家が受け取る、返還する必要がない金銭のこと。家賃の1~2カ月で設定されることが多いです。礼金は敷金や保証金とは違い、退去時に入居者に返還する義務がないことから、受け取った時点で収入として計上します。
更新料
賃貸借契約の期間満了時に、更新する場合に入居者から支払われる一時金のこと。関東では2年ごとの更新料が一般的ですが、関西圏、特に大阪と兵庫県ではほとんどありません。地域差が大きい更新料ですが、受け取った場合は収入として処理をします。
駐車場利用料
敷地内にある駐車場を入居者や近隣住人に貸している場合の利用料も収入となります。駐車場は住宅とは違い、消費税の課税対象となりますので会計処理に注意が必要です。
その他、敷地利用によってもたらされる収入
携帯電話基地局の設置料や自動販売機設置料、電柱敷地料など、敷地利用によってもたらされる利益も収入となります。不動産売却をした際に得る売却益は「不動産所得」ではなく「譲渡所得」になり、別に計算します。

収入から差し引かれる経費
次に、収入から差し引くことができる経費を考えてみましょう。所得税は収入から経費を引いた不動産所得に税率を掛けて計算しますので、経費が多ければ税金は下がります。経費を適切に計上することで税金の額が大幅に変わりますので、しっかり把握しておきましょう。
修繕費
不動産が元々持っていた機能を回復させるための修繕費は経費として一括計上できます。例えば、空室になったあとのリフォーム費用。壁紙交換や部屋の清掃代。エアコンや給湯器などの設備の交換費なども経費となります。もちろん、ガラスが割れたときの交換費用や電球交換費なども経費ですね。
ただし、価値を高めたり耐用年数を延長するような修繕は「資本的支出」となり一括経費にすることはできません。資産価値の向上は、普通の修繕費のように消耗品ではなく長年にわたり利用し続けると考えられるため、「建物」のように減価償却で処理をします。例えば、耐震補強を施した場合は価値が上がったと考えられるため、資本的支出とみなされます。事務所だった区分所有を居住用に変更すること(用途変更)も資本的支出です。修繕費には2種類あることを知っておくことで、経費の読み違いを防ぐことができます。
管理費委託費等
不動産管理会社に支払う管理委託料も経費になります。区分所有マンションの場合は管理費・修繕積立金も経費として計上できます。
ローン金利
物件をローンで購入した場合、毎月金融機関にローン返済をします。返済額は元本と金利で構成されていますが、そのうち金利の部分のみを経費として計上できます。銀行から送られてくる内訳表に、月々の元本と金利が記載されていますので確認しておきましょう。
減価償却費
建物や資本的支出部分は、支出時に全額費用として計上するのではなく減価償却を行います。減価償却費は実際にお金の支出がないにもかかわらず、計上できる特殊な経費です。賃貸経営では、減価償却費が思った以上に多いことがありますので、計上額を確認しておきましょう。
損害保険料
火災保険や地震保険などの損害保険料も経費となります。ただし長期保険に加入した場合には、契約期間で按分して1年分ずつ経費として処理することになるため注意が必要です。例えば5年契約100万円の火災保険に加入した場合は、1年分である20万円ずつを経費として計上します。今期にどれだけ費用計上できるのかということは非常に大切ですので、きちんと知っておきましょう。
仲介手数料・広告費
入居者を決めてくれた不動産賃貸業者に支払う仲介手数料や広告料も経費となります。不動産会社との打ち合わせに持参する手土産代も経費として計上できますので、領収書は保管しておきましょう。
司法書士や税理士への報酬
不動産登記を依頼した司法書士への報酬や確定申告を依頼した税理士報酬など、士業への支払いも経費になります。
租税公課
不動産取得税や固定資産税等・都市計画税などの租税公課も経費になります。売買契約書などに貼付する印紙代も経費ですね。同じ税金であっても、住民税と所得税は租税公課に当たらないため経費にはなりません。
不動産所得にかける所得税率
収入と経費が計算できると不動産所得、いわゆる課税される所得が導き出されます。次に所得税を計算するために必要な所得税率を見てみましょう。日本では累進課税制度を採用しており、以下のように収入に応じて税率が決まります。
課税される所得 | 税率 | 控除額 |
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円超~330万円以下 | 10% | 9万7500円 |
330万円超~695万円以下 | 20% | 42万7500円 |
695万円超~900万円以下 | 23% | 63万6000円 |
900万円超~1,800万円以下 | 33% | 153万6000円 |
1,800万円超~4,000万円以下 | 40% | 279万6000円 |
4,000万円超 | 45% | 479万6000円 |
ここで一点、気を付けなければいけないことがあります。課税所得が500万円のとき、500万円×20%で100万円とそのまま計算するわけではありません。500万円のうちの195万円分は5%、195万円から330万円までは10%、330万円から500万円までは20%と、それぞれの税率を超えた分に課税されるのです。
毎回式に当てはめて計算するのは手間がかかりますよね。そこでシンプルに税額が導き出せるように「控除額」が定められています。控除額を使うと、500万円×20%-427,500円=572,500円。500万円の課税所得の場合、納める所得税は572,500円となります。
所得から控除されるもの
サラリーマンの場合、年末調整で生命保険料控除などの適用を受けるために控除証明書を提出します。所得税を計算する際には、他にも地震保険料控除や医療費控除のように課税される所得から控除できるものがありますので主なものを確認しておきましょう。
・給与所得控除(会社員のみ)
・社会保険料控除
・配偶者特別控除
・扶養控除
・青色申告控除(10万円控除と65万円控除がある)
・医療控除(10万円を超えた分)
・生命保険料控除、地震保険料控除
これらは税率を掛ける前の課税される所得から控除されます。各種、控除条件がありますので使えるものはどれか早めに確認しておきましょう。
所得税を計算してみよう
収入、経費、税額、各種控除額がわかったら所得税が計算できます。では、実際に会社員が副業で不動産投資をしている場合を想定して所得税額を計算してみましょう。
年収600万円=給与所得426万円
家賃収入等400万円、経費300万円=不動産所得100万円
控除額=120万円
基礎控除38万円、配偶者控除38万円、社会保険料控除30万円、青色申告控除10万円、生命保険控除4万円
426万円+100万円=526万円
② ここから控除できる金額を差し引きます。
526万円-120万円=406万円
③ 所得税外の表より、406万円の税率は20%、控除額が427,500円ということがわかりますのでこれを計算すると所得税額が算出されます。
406万円×20%-427,500円=384,500円 ←所得税額
※ 給与所得の計算は平成29年から令和元年度の税率を使っています。
参照:国税局
所得税を支払う時期
所得税は1月~12月までの分を、翌年2月中旬から3月中旬に確定申告をして支払います。利益があるのに確定申告をしない(所得税を納めない)場合、ペナルティが発生しますので期日までに必ず行うようにしましょう。
所得税以外にかかる税金
不動産投資で収入がある場合、所得税以外にも納めなければならない税金があります。特に規模が大きくなると納税義務が発生する「個人事業税」や「消費税」には注意が必要です。では一つずつ見ていきましょう。

住民税
住民税とは都道府県民税と市町村民税を合わせた地方税であり、所得割と均等割があります。所得割とは、所得に応じて負担が決まる税金。課税される所得に10%を掛けて計算されます。均等割りは所得に関係なく負担する税金で、地域によって違いがあります。
個人事業税
個人事業税は、特定の事業に課せられる都道府県主体の地方税です。不動産貸付業は特定事業に入っており、税率は5%で不動産所得が290万円を超えた場合に課せられます。ただ、課税される規模に関しては都道府県ごとに規定があるため、心配な場合は早めに確認しておくと良いでしょう。
参照:東京都主税局
消費税
課税所得が1,000万円を超えると課せられるのが消費税です。賃貸用物件などの居住目的であれば非課税ですが、駐車場や店舗・事務所などの場合には、借主から預かった消費税を納税する必要があります。
法人税
個人事業主ではなく法人化している場合、所得税の代わりに納めるものが法人税です。収入が高いと法人税率の方が低くなることもありますので、一定規模を超えた場合はプライベートカンパニーをつくるなどの対策を考えるとよいでしょう。
確定申告のやり方
所得税を納めるためには、税務署に確定申告書類を提出しなければいけません。確定申告と聞くと、ややこしい書類を作らなければならず面倒なものと考えてしまいますね。しかし不動産の確定申告は、日々のお金の出入りがなく経費も限定的なため、比較的簡単に作成することができます。確定申告代行を税理士などの専門家に頼む前に、一度は自分でやってみましょう。一年間の実績やお金の流れが可視化されるため、今後の経営に役立ちます。
白色申告書と青色申告書の違い
確定申告には「青色申告決算書」と「白色申告決算書」があります。また、青色申告書には10万円控除と65万円特別控除の2種類があるため、確定申告方法は厳密にいうと全部で3種類です。
一般的に、帳簿付けが簡単な白色申告は、事業を始めたばかりの方や所得が少ない場合に選択することが多いです。ただ近年は白色申告でも必要書類が増えていますので、初めから青色申告の方がおすすめです。どちらもメリット・デメリットがありますので、次で見ていきましょう。
白色申告書
白色申告は節税をするほどの所得ではなく、できるだけ簡単に帳簿付けをしたい場合におすすめです。簡易簿記はおこずかい帳のように収入と支出を記していくことで作成できますし、提出書類も少ないため、会計に詳しくなくても行うことができます。ただ青色申告にある、いくつかの特典を受けることができません。
メリット | デメリット |
事前申請の必要がない | 控除などの特典がない |
簡易簿記で良いため帳簿付けが簡単 | |
提出書類が少ない |

青色申告書
青色申告書は、節税をして手元に残すお金を少しでも増やしたい場合におすすめです。不動産投資を今後拡大するつもりであれば、初めから青色申告をしておく方がいいでしょう。青色申告では、青色申告特別控除があるため白色申告より税金を減らすことができます。また赤字を3年間繰り越すことができるため、次年度を見越した経営が可能です。ただ、確定申告の提出書類が多くなることや複式簿記による帳簿付けが必要になることもあります。青色申告をする場合は事前に「青色申告承認申請書」を税務署に提出しておく必要があるため忘れないようにしましょう。提出期限は青色申告をする前年の3月15日までです。
メリット | デメリット |
青色申告者への特典あり
・青色申告特別控除 ・赤字が3年間繰り越せる ・家族への給与を経費にできる |
事前申請が必要 |
複式簿記による帳簿付けが必要
(65万円控除の場合) |
|
提出書類が増える |
青色申告書には10万円控除と65万円控除の二種類があります。不動産投資で65万円控除を受けるためには、5棟10室以上の収益物件を所有していることが条件となります。この条件を超えると税法上「事業的規模」となり65万円特別控除が受けられます。
参照:国税庁 事業としての不動産貸付けとの区分
税金をコントロールして手取りを増やす3つの方法
所得税は、支払う税金の中でも多くを占める非常に重要なものです。少しでも節税をして手元に残るお金を増やしたいと思いますよね。次からは、税金をコントロールして手取りを増やす方法を説明します。ポイントは、確定申告に向けて早めに準備をしておくことです。
修繕は計画的に実施する
修繕は計画的に実施しましょう。修繕費を今期に入れるのか、来期に回すのかで支払う税金が大幅に変わります。例えば、黒字になりそうな場合には近々交換が必要な設備を早めに購入しておくと良いです。エアコンや給湯器などの設備交換は数十万円かかるため、その分今期の所得を減らすことができます。赤字になりそうなときには、今期予定していた修繕を来期に回すのもひとつの手法です。例えば、部屋をリフォームする場合、少し遅らせると来期に入るのなら思い切ってずらしてしまいましょう。
早めに考えておくことで、数十万円であれば所得をコントロールすることが可能です。よくあるのが、確定申告の際に「もう少し経費を使っておけば良かった」と後悔することです。早めに対策を講じるために、毎月の収支や減価償却費をきちんと把握しておきましょう。
損益通算で所得税・住民税を減らす
損益通算とは、一定期間内の利益と損失を相殺することです。これは給与所得者(サラリーマン等)が、不動産投資で赤字が出た場合に利用できます。不動産投資の赤字を給与所得から差し引くことで、個人で支払う所得税と住民税を減らすことができるのです。
例えば、給与所得が350万円、不動産所得が-50万円だった場合、課税される所得は300万円となります。これにより課税所得が減るだけでなく、税率も20%から10%になり大きな節税効果がもたらされます。上記の条件の場合、給与所得だけの所得税と損益通算をしたあとの所得税を比べると7万円もの節税になるのです!これが不動産投資は赤字でも節税になるといわれる所以です。赤字はあまり良いことではありませんが、還付申告をすることで税金の還付が受けられることを覚えておきましょう。
法人化して支払う税金を減らす
課税される所得が増えてきた場合には、法人化を考えましょう。所得税では最大45%の所得税が課せられますが、法人税の場合は最大23.20%。つまり所得が多い場合には、法人化した方が支払う税金が安くなる可能性が高いです。
法人化は手間やお金がかかると尻込みしてしまいますが、不動産収入がある限り税金はずっと続きます。適切なタイミングで法人化することで合法に税金を抑えることができるため、検討してみると良いでしょう。

まとめ
家賃収入が入ると収入が上がったと喜んでしまいますが、それにはどうしても税金がかかります。所得税を支払わなければいけないのは当然のこと。どのように処理をして、如何にして税金を減らすかを考えるのはオーナーの大切な役目です。税金は怖いと考えがちですが、税金を知り、味方につけることでお金のコントロールが可能になります。税理士から上がってきた書類どおりになんとなく納税するのではなく、自分自身が納得できる納税を目指しましょう。