【不動産があるときの遺留分侵害額請求】遺留分の評価方法や相手方と合意できないときの対処法を解説

遺留分侵害額請求

遺留分とは、遺産相続において法定相続人(兄弟姉妹以外)に最低限保障される遺産の取得分です。

被相続人の遺言や、相続人たちの遺産分割協議によって遺留分に反した相続がおこなわれた場合、遺留分侵害額請求を起こせば「本来もらえるはずだった相続分」を取り戻せます。

遺留分侵害額請求をおこなうとき、不動産の評価額は「相続が発生した時点での評価額」で計算するので注意が必要です。

また、評価基準には市場で売買するときの「実勢価格」や、固定資産税額を算出するための「固定資産税評価額」など、いくつかの指標があります。

適切に不動産を評価し、損することなく遺留分を取り戻すには、不動産問題に強い弁護士へ相談するとよいでしょう。

遺留分の額は「相続する財産総額」×「遺留分の割合」

遺留分とは、亡くなった被相続人の近しい関係にある法定相続人(兄弟姉妹以外)に最低限保障される遺産の取得分です。

子や配偶者などの近親者は、被相続人が亡くなったときに財産を相続する権利を持っています。

しかし、遺言によって愛人に財産を残された場合などでも、一定の範囲の相続人は主張すれば必ず一定の財産が取得できます。

遺留分は、遺言の内容よりも強い権利といえるのです。

そして、遺留分の額は「遺留分の対象となる財産総額」に「それぞれの遺留分権者に認められた遺留分の割合」を乗じて計算します。

遺留分の対象となる財産の範囲

遺留分の対象となる財産の額は、相続開始(被相続人死亡)のときに残された相続財産のすべてに、被相続人が生前に贈与した財産を加えた財産総額から、被相続人が抱えていた負債総額を差し引いて算出します。

遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。
2 条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定める。出典:e-Gov、民法1043条

また、下記の条件に該当する生前の贈与も、遺留分の対象として組み入れられます。

  • 相続開始前の1年間になされた贈与
  • 相続人に対する10年以内の贈与(特別受益に該当する場合)
  • 贈与の当事者双方が遺留分権を侵害することを知ってなされた贈与(期間無制限)
例えば、被相続人が50万円の現金、300万円の預貯金、200万円の借金を残して亡くなりました。

死亡する5年前に住宅購入資金の援助として100万円を長男に贈与していた場合、遺留分の基礎となる財産総額は

「50万円+300万円+100万円-200万円=250万円」となります。

なお、これまでの法律では、相続人に対する特別受益は、期間を限定せずに遺留分の基礎として加えることになっていましたが、2019年7月1日から施行された現行民法において「相続開始の10年前まで」と改められました。

 贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。
2 第九百四条の規定は、前項に規定する贈与の価額について準用する。
3 相続人に対する贈与についての第一項の規定の適用については、同項中「一年」とあるのは「十年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。出典:e-Gov、民法1044条

遺留分の割合は「法定相続分」×「1/3or1/2」

遺留分権者ごとの遺留分の割合は、それぞれの法定相続分に下記の割合を乗じたものとなります。

・直系尊属(父母・祖父母)のみが相続人となる場合:1/3
・上記以外の相続の場合:1/2
たとえば、相続人が、配偶者・長男・長女というケースの場合であれば、

配偶者の遺留分=法定相続分(1/2)×1/2=1/4
<長男・長女の遺留分=法定相続分(1/2×1/2)×1/2=1/8ずつ

になります。

兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
2 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第九百条及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。出典:e-Gov、民法1042条

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遺留分が認められない4つの場合

以下の相続人には、遺留分が認められません。

・兄弟姉妹の相続人
・相続放棄(遺留分放棄)の意思表示をした相続人
・相続欠格とされた相続人
・相続から排除されている相続人

兄弟姉妹は法定相続人ですが、遺留分は認められていないことに注意する必要があります。

次に、代襲相続が発生する場合、代襲相続人は遺留分についても相続人(子・兄弟姉妹)の地位を受け継ぐのが原則です。

したがって、子が生前に遺留分放棄の意思表示をしているときには、代襲相続人である孫の遺留分も認められません。

ただし、代襲相続人に固有の遺留分が認められるときには、被代襲人に生じた事情は関係ありません。

代襲相続が発生する場合の遺留分は複雑な事情があることも多く、判断も難しくなるので相続問題に詳しい弁護士の助言を受けておいた方がよいでしょう。

遺留分の算定において不動産の評価が重要な理由

遺産のすべてが現金・預金であれば、残された額がそのまま遺留分算定の基礎となる財産となるので、とても明確です。

また、有価証券の場合も、市場価格というわかりやすい基準があるので算定は比較的容易といえます。

しかし、遺留分に不動産が含まれる場合には、その評価額によって遺留分の額が大きく変わってしまうことから、不動産の評価をめぐって相続人の間でトラブルになることも珍しくありません。

たとえば、遺産が「現金100万円」「預貯金200万円」「自宅不動産」「相続人が子A・B2人」場合のときであれば、不動産の評価額によって、以下のように遺留分額に違いが生じます。

・自宅不動産の評価額が1400万円のときの遺留分額=1400万円×1/2☓1/2=350万円
・自宅不動産の評価額が1800万円のときの遺留分額=1800万円☓1/2☓1/2=450万円

遺言書の内容がAには400万円、Bには残額を相続させるという内容であった場合には、不動産が1400万円と評価されたケースでは遺留分侵害は発生しませんが、1800万円と評価されるのであれば50万円の遺留分侵害となります。

つまり、遺留分を請求する側の相続人にとっては、不動産評価額の高い方が有利になり、遺留分を請求される側にとっては、不動産評価額の低い方が有利になるので、不動産の評価方法・評価額をめぐってトラブルになりやすいというわけです。

相続における不動産の評価方法と注意点

遺留分の対象となる不動産の価格は、適切かつ公平な方法で評価することが重要です。

そして、遺留分の評価は以下4つの基準で決められます

  • 固定資産税評価額
  • 路線価
  • 地価公示価格・地価調査標準価格
  • 実勢価格

以下の項目から、詳しく見ていきましょう。

固定資産税評価額

固定資産税評価額は、名前のとおり、不動産の固定資産税額を算出するために用いられる不動産の評価額です。

遺留分の基礎財産のうち、建物の評価は固定資産税評価額を基準に行われるのが一般的です。

固定資産税評価額は次の方法で確認できます。

・市町村から送付される課税明細書
・固定資産税評価証明書(市町村・都税事務所で入手可能)
・市町村が備えている固定資産課税台帳

なお、固定資産税評価額は、地価のおよそ70%程度の評価額になるのが一般的といわれ、最も安価な評価額が算出されます。

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路線価

路線価は、相続税や贈与税の課税額を算出するために用いられる基準です。

そのため、相続税評価額とよばれることもあります。路線価は、ある道路から一定距離の範囲に面する土地の面積(1平方メートル)当たりの価格です。

毎年1月1日の土地の価格が夏頃に発表され、下記のウェブサイトで確認できます。なお、路線価も固定資産税評価額と同様に、時価よりも低い価格となることが一般的です。

参照:国税庁 路線価

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地価公示価格・地価調査標準価格

地価公示価格とは、国土交通省が公表している毎年1月1日時点での土地の価格のことです。

単純に地価、公示価格とよばれることもあります。地価公示価格は、2人以上の不動産鑑定士による鑑定評価の結果を国土交通省の土地鑑定委員会が審査した上で決定される価格なので、実際の取引価格にかなり近いものといえます。

地価公示価格は、下記の国土交通省ウェブサイトで調べられます。

参照:国土交通省 地価公示・都道府県地価調査

また、地価公示価格に近い価格を示す基準としては、地価調査標準価格があります。こちらは、それぞれの都道府県が毎年7月1日に調査を行ったときの土地の価格となっています。

参照:東京都財務局 地価公示価格

実勢価格

実勢価格とは、不動産の時価(実際の取引価格)のことです。

遺留分の評価をする場合には、実際に売却するわけではありません

ですので「周辺不動産の取引価格」や「固定資産税評価額」などをもとに推定したり、不動産鑑定士・不動産業者に鑑定評価してもらって調べます。

相続人同士で交渉するための一時的な評価額を調べるのであれば、ウェブなどを活用して無料査定書を取得するのも有効な方法です。

遺留分の算定として不動産評価を行うときの注意点

遺留分算定の基礎となる財産としての不動産評価は相続開始のときの価格が基準となります。

したがって、生前に贈与・特別受益があったときには、不動産価格の換算が必要です。

贈与・特別受益がなされたときに比べて対象となる土地の価格が上昇している場合には、不動産評価の換算は、贈与・特別受益のあった相続人にとって不利な結論となります。

また、路線価をベースに不動産の評価を行うときには、路線価に面積をかけた金額では適正な評価額とならない場合もあります。土地の形状などによっては、同じ面積でも価格が変動する場合もあるからです。

相続人の間で不動産評価額を定める交渉を行うときに、それぞれが基準としている価格の特徴を正しく把握しておかなければ、後になって「不公平な結果になった」と不満を感じてしまうでしょう。

不動産の評価額について合意できないときの対処方法

不動産評価額について、合意ができない場合には「遺留分侵害額請求」の意思表示を相手方におこないましょう。

遺留分侵害額請求は、裁判をしなくても相手方に請求できます。

理屈の上では相手方に口頭で伝えても問題はありませんが、後に「言った・言わない」といったトラブルにしないためにも、内容証明郵便で意思表示するべきです。

なお、遺留分侵害額請求権には、消滅時効があります。遺留分侵害額請求権の消滅時効は「相続開始・遺留分侵害を知ったときから1年」です。

また「相続開始から10年」が経過した場合には(相続開始や遺留分侵害に気づいていなくても)遺留分侵害額請求権を行使できなくなりますので注意しましょう。

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裁判所の手続きを利用する

当事者間の話し合いでは遺留分について合意が得られないというときには、裁判所の手続きを用いるのが最も典型的な対処方法といえます。

遺留分に関する裁判所の手続きは、家庭裁判所における「調停」から始まります。遺留分に関する調停は「相手方の住所地」を管轄する家庭裁判所(もしくは当事者間で合意のある家庭裁判所)に対して行う必要があります。

遺留分に関する争いには調停前置主義という仕組みが採用されるため、いきなり訴訟提起することはできないので注意しましょう。調停でも話し合いがまとまらず合意に達しない場合には、別途訴訟を提起する必要があります。

この場合には、家庭裁判所ではなく、相手方の住所地を管轄する「簡易裁判所もしくは地方裁判所」に訴状を提出します。

訴訟の場合には、最終的には裁判官が判決によって遺留分の有無、遺留分が認められるときの遺留分額について判断してもらえます。

ただし、自分の言い分を認めてもらうためには、裁判所に認めてもらえるだけの証拠を自分で揃える必要があります。

遺留分をめぐる争いでは、不動産評価以外の要素が絡んでくることも多いので、訴訟をするときには弁護士のサポートが必須といえるでしょう。

専門家に相談・査定依頼する

不動産の評価方法・評価額について当事者間で合意ができないという場合には、利害関係の対立する相手方に対する不信感が原因となっていることも多いといえます。

その場合には、不動産鑑定士・不動産業者といった中立的な専門家による鑑定を上手に利用することも有効です。

また、相手方との交渉を弁護士に任せることで、感情的な対立を上手に回避し、お互いに納得できる妥協点を見いだせる場合も少なくありません。

とくに、関係が不仲な兄弟間の遺留分争いや、愛人と被相続人の妻(夫)・子との間の遺留分争いなどでは「相手が許せない」といった感情が原因で交渉がうまく行かない場合も少なくないでしょう。

不安・疑問がある時は弁護士に相談する

相続が発生したときには、葬式・納骨といった法要や、親類などへの挨拶、遺品の整理など、相続の手続き以外にもやらなければならないことがたくさんあります。

また、身近な人がなくなったということで、まずは故人を静かに弔いたいと考える人もいるかもしれません。

しかし、相続税の申告や相続放棄の手続きのように、相続が発生した場合の手続きには、期限が定められているものも少なくありません。遺留分の評価が定まらず、相続手続きが進められなければ、相続税の負担で損をしてしまうこともあります。

弁護士などの専門家に相続の手続きを依頼すれば、面倒な手続きをすべて任せて故人の供養に専念できますし、普段の生活に負担をかけることもなくなります。

とくに、遺留分の算定が必要なケースでは、金銭的な利害対立に直結することから、当事者間の感情的な対立も起きやすいといえます。

遺留分や相続の手続きについて不安がある、疑問を感じたときには、できるだけ早いうちに弁護士に相談することをおすすめします。

まとめ

遺留分算定の基礎財産に不動産があるときには、慎重に対応する必要があります。不動産評価の結果によっては、遺留分侵害の有無についての結論がかわってしまうからです。

十分な知識がないままに不動産の評価を行えば、受遺者から価額弁償を受けられたはずなのに受けられなかった(支払わなくて良かったお金を支払ってしまった)ということにもなりかねません。

とはいえ、利害関係の対立する当事者同士の話し合いは、どうしても感情的にトラブルになりがちです。

弁護士を上手に活用すれば、不要なトラブルを回避できる可能性もかなり高くなります。

遺言で示された財産分与の内容が遺留分を侵害しているかもしれないと感じたときには、早めに弁護士などの専門家に相談してみるとよいでしょう。

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