
「築50年の家を相続したけれど使わない。売却したいけれど、そもそも売れるのだろうか。」
そんな心配をしていませんか。
築50年を超える家は、どのような構造であっても原則「建物の価値なし」とみなされます。
そのため、土地として売却することが一般的です。
しかし「家」として機能していれば、中古住宅として売却できる場合もあるので、売り方は家の状況を踏まえて決めることをおすすめします。
この記事では、築50年超の家を売却する方法と売却時のポイントについて説明します。
どのような売却方法があるのか把握する参考にしてください。
目次
築50年超の家は原則「建物の価値なし」
建物には「法定耐用年数」という国が定めた「建物が利用に耐える年数」があります。
耐用年数は建物の構造により、下表のように異なります。
構造 | 耐用年数 |
木造 | 22年 |
軽量鉄骨プレハブ像(骨格材肉厚3mm以下) | 19年 |
軽量鉄骨プレハブ像(骨格材肉厚3mm超4mm以下) | 27年 |
重量鉄骨造(骨格材肉厚4mm超) | 34年 |
鉄筋コンクリート造 | 47年 |
したがって「築50年超の家」は原則、どのような構造であっても耐用年数を過ぎているため、売却する際には「建物の価値なし」とみなされます。
しかし、状況によっては法定耐用年数を過ぎていても建物の価値が認められるケースがあります。
そのため、築50年を超える家の売却では「建物の価値が認められるかどうか」で売却方法が異なります。
それでは、どのような場合に建物の価値が認められるのでしょうか。
法定耐用年数を過ぎていても家として機能している場合はある
法定耐用年数はあくまで「減価償却」という会計処理のために定められた年数です。
法定耐用年数を過ぎていたとしても「家」として機能している場合はあります。
その理由は、法定耐用年数が定められた当時よりも家の性能は上がっており、定期的に適切なメンテナンスを実施することで、家の寿命は延ばせるからです。
また、必要に応じてリフォームしていれば、単に「住める」だけでなく「快適に住める」家もあるでしょう。
このように「家」として機能していれば、建物にも価値をつけて売却できる可能性があります。
伝統的な古民家は歴史・文化の観点から価値が認められるケースもある
「茅葺屋根(かやぶきやね)」「草葺屋根(くさぶきやね)」「梁(はり)」「石場建て工法」は日本の伝統的な古民家の特徴です。
このような古民家は、歴史・文化の観点から価値を認められるケースがあり、買主には一般的な新築や中古住宅ではなく「古民家がほしい」という人がいます。
そのような人がいるので、伝統的な古民家であれば建物にも値段が付けられます。
ただし、古民家の売買は不動産取引のなかでも稀な取引です。
一般的な不動産会であれば仲介を断られるケースもありますので、相談する際には古民家売買に特化した不動産会社をおすすめします。
参照:「古民家」の定義について(一般社団法人 全国古民家再生協会)
築50年超で「家」として機能している場合の売却方法
耐用年数が過ぎていても「家」として問題なければ「中古住宅」としての売却が可能です。
その場合、売却方法は「仲介」または「買取」の2通りです。
以下で詳しく説明します。
「中古住宅」として仲介で売却する
まずは「仲介」での売却です。
この場合、一般的な「中古住宅」と同じです。
不動産会社と媒介契約を交わし、売却活動を進めてもらいます。
築50年の家であっても、リフォームや外壁塗装、水回り設備の修繕・交換など適切にメンテナンスしていれば、家として十分な機能を備えていることも多いです。
また「古民家に住みたい」「古民家をリフォーム・リノベーションして理想の住まいにしたい」と考える人もいます。
そのような人にとって適切に維持管理されている築50年の家は「お金を出す価値がある家」です。
「築50年を超えていたら売れるわけがない」と諦める必要はありません。
「中古住宅」として買取で売却する
「仲介で売り出してみたけれど、なかなか買主が現れない」「できるだけ早く売却して現金化したい」などの場合には「買取」という売却方法があります。
「買取」では不動産会社が買主です。
仲介のように買主を探す必要がないので、買取価格・条件に納得できればすぐに売却が成立します。
不動産買取では原則、現金取引ですので、入金も早いです。
最短2日で現金化できるケースもあり、すぐに家を現金化したい場合に有効な売却方法です。
ただし、買取価格は仲介による売却価格の7割程度にまで下がることが一般的です。
現金化が早い代わりに、仲介よりも手元に残る現金が少なくなるので、どちらの売却方法を選ぶかは慎重に判断しましょう。
また、築50年の家は「古民家」に該当するケースが多いので、相談する不動産会社は「古民家の取扱い実績がある会社」を選ぶことをおすすめします。
築50年超で「家」として機能していない場合の売却方法
続いて、築50年超で「家」として機能していない場合の売却方法です。
その場合は以下3つの方法による売却を考えます。
- 「古家付き土地」として売却する
- 「古家付き土地 更地渡し可」として売却する
- 「更地」として売却する
このうち「更地」として売却する場合には、家の敷地が「再建築不可でないか」確認しておきましょう。
「古家付き土地」として売却する
1つ目は「古家付き土地」として売却する方法です。
中古住宅の売却と同じように感じますが、この売却方法でのメインは「土地」です。
「家」として機能していない建物が土地のうえにあり、取り壊しを前提とする土地であることを意味します。
不動産広告では「土地(古家あり)」「土地(※現況古家あり)」のように表記されます。
「古家付き土地」として売却するメリットは
- 解体費用がかからない
- 固定資産税を抑えたまま売却できる
です。
取り壊しを前提として売り出しますが、最終的に古家を取り壊すかどうかは買主次第です。
そのため、解体費用を売主が負担する必要がありません。
また、土地に建物が建っているので「住宅用地の特例」が適用されて、固定資産税が約6分の1に抑えられます。
「古家付き土地 更地渡し可」として売却する
2つ目は「古家付き土地 更地渡し可」という売却方法です。
これは「売却手続きは建物(古家)がある状態で進めて、売買契約を交わしたあと更地にして引き渡す」取引です。
「更地渡し 可」とするメリットは「古家付き土地」として売却するよりも買主が見つかりやすくなります。
引き渡し時点では「更地」になっているので、買主がすぐに家やアパートを建てるなど自由に利用できます。
また、解体費用は売主負担ではありますが、買主が決まったあとで支払うので「更地にして売れなかったらどうしよう」という不安がありません。
さらに解体費用は売却のための必要経費として、売却代金から差し引けます。
「課税譲渡所得額」が小さくなるので、そこにかけられる譲渡所得税も抑えられます。
「更地」として売却する
3つ目の方法が「更地」として売却する方法です。
売却活動を始めるときには建物を取り壊し、更地の状態にします。
更地にするメリットは、買主が土地全体の形や大きさを把握しやすく、すぐに着工できることから「古家付き」よりも早く売却が成立しやすいことです。
更地になっていれば、地中埋設物の確認や土壌調査・地盤調査などを速やかにおこなえます。
ただし、更地にしたとしてもすぐに売却できるとは限りません。
更地になると住宅用地の特例が受けられなくなり、固定資産税が3倍近く上がります。
売れない期間が長くなれば、それだけ固定資産税の負担が大きくなる点がデメリットです。
また、買主が見つかるかわからない状態で解体費用の支払いが発生するので、資金の余裕も必要です。
更地にする前に「再建築不可」の土地でないか要確認
更地にする前には必ず「再建築不可」の土地でないことを確認しましょう。
「再建築不可」とは、現状で建っている家を取り壊すと新しく家を建てられない土地のことです。
そして、再建築不可となるのは「接道義務」を満たしていないことが主な原因です。
接道義務とは原則「幅員4m以上の建築基準法上の道路に、敷地が2m以上接していること」です。
接道義務が定められたのは1950年ですので、築50年を超える家が建てられたときには接道義務がなかった可能性があります。
接道義務を満たしていなかったとしても、建物が建っている状態であれば、一定範囲内のリフォームは認められています。
しかし、一度更地にしてしまうと、敷地に新しく建物を建てられません。
更地にしたあとで「再建築不可」とわかると、土地の活用が大きく制限されるので、建物の取り壊しは慎重におこないましょう。
接道義務を満たしているか判断に迷う場合は、不動産会社へ相談することをおすすめします。
築50年超の家を売却する際のポイント
築50年超の家を売却する際には、以下のポイントを押さえておくと適正価格でスムーズに売却できます。
- 売却査定は複数業者に依頼する
- 自分でも売却相場を調べる
- 契約不適合責任を問われないように家の不具合を正確に伝える
- 依頼する不動産会社は古い家の売却実績があるところを選ぶ
それぞれ説明します。
売却査定は複数業者に依頼する
査定結果は不動産会社によって異なります。
1社のみに査定を依頼すると、その結果が妥当なのか判断が難しいです。
相場よりも大きく高ければ売却しにくく、反対に低ければ、本来得られたはずの売却代金を損してしまいます。
信頼できる不動産会社か判断する際にも比較は必要です。
そのため、売却査定は必ず複数業者へ依頼しましょう。
不動産一括査定サービスを利用すれば、物件の情報を入力するだけで、複数業者へ査定依頼できます。
不動産会社を探す時間や手間をかけられない場合におすすめの方法です。
自分でも売却相場を調べる
スムーズに売却を成立させるには、売却相場を知っておくことが大切です。
不動産会社から出される査定価格が、自分の調べた売却相場とかけ離れていないか比べられます。
もしも、かけ離れていた場合には「なぜその査定結果なのか」を確認し、納得できるだけの根拠があるかを確認します。
あらかじめ自分で売却相場を調べておくことで、不動産会社からの情報だけにとらわれず、適切な売出価格を設定できます。
また、売却相場を知っていれば、購入希望者から値下げ交渉があった際にも対応しやすいです。
例えば、売却相場よりも大きく下回る価格を希望された場合、他の購入希望者が見つかる可能性が高いと判断できて「交渉に応じない」と決められます。
契約不適合責任を問われないように家の不具合を正確に伝える
築50年超の家を「中古住宅」として売却する場合には、家の不具合を正確に伝える必要があります。
「築50年の家だから雨漏りや水漏れがして当たり前だろう」と思われるかもしれません。
しかし、契約時に買主へそのことを説明しなければ「契約不適合責任」として補修や代金減額を求められます。
なお、古家付き土地として売却する場合は、建物を取り壊す前提とした売却ですので「建物の契約不適合責任は免責」とするケースがほとんどです。
依頼する不動産会社は古い家の売却実績があるところを選ぶ
不動産会社によって売却活動の得意不得意があります。
また、古家の売買は通常の不動産売買に比べて特殊です。
慣れていない不動産会社へ売却活動を依頼すると、想定外のトラブルを引き起こす恐れがあります。
トラブルを避け、スムーズに取引を進めるため、媒介契約は古い家の売却実績がある不動産会社と交わすことをおすすめします。
築50年超の家を売却する際の注意点
次に、築50年超の家を売却する際の注意点について説明します。
主な注意点は次のとおりです。
・仲介による売却では成約まで1年以上かかるケースも多い
・取り壊す前に「再建築不可」の土地ではないか確認する
・リフォーム・リノベーションしても費用を回収できない恐れがある
安易な取り壊しやリフォーム・リノベーションは売却を難しくする原因になり得るので、慎重な判断が必要です。
仲介による売却では成約まで1年以上かかるケースも多い
通常の不動産売却であれば、3ヶ月~6ヶ月程度で成約します。
しかし、築50年超の家は需要が少なく、成約まで1年以上かかるケースも多いです。
売却活動している間は固定資産税や光熱費、定期的な清掃などの維持管理費がかかります。
そのため、資金と売却スケジュールは余裕を持って計画してください。
なかなか成約できないときには「古家付き土地」「古家付き土地 更地渡し可」のように、他の売却方法も検討しましょう。
取り壊す前に「再建築不可」の土地ではないか確認する
建物を取り壊して売却しようと考えている場合、土地が「再建築不可」ではないか確認しましょう。
築年数が古い家は、売却時の法令に照らすと「建築不可」の土地に建っている可能性があります。
建築後に定められた規制なので、いまの建物を取り壊す必要はありませんが、取り壊すと新しい建物を建てられません。
建物を建てられなければ、土地の活用方法は制限されるため、価値が下がり、購入希望者も見つけにくくなります。
再建築不可の土地でいまある建物を取り壊すことは、売却成立を難しくする大きな要因なので注意してください。
リフォーム・リノベーションしても費用を回収できない恐れがある
「築年数が古いのでリフォーム・リノベーションして、きれいな状態にすれば高く売れるのではないか。」
そのように考えるかもしれません。
しかし、リフォーム・リノベーションしても、その費用分を売却価格に上乗せできるとは限りません。
500万円かけても、売却価格を50万円しか上げられなければ、450万円の持ち出しです。
また、古家を購入したい人は「自分好みにリフォーム・リノベーションしたい」と考える傾向が強いです。
売主目線でリフォーム・リノベーションしてしまうと、そのような購入層を逃すことになります。
そのため、リフォーム・リノベーションする際には、担当者と相談しながら慎重に判断してください。
築50年超の家を相続して売却した場合は税の優遇措置がある
2023年12月31日までの間に築50年超の家を相続して売却した場合は「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」という税の優遇措置を受けられる可能性があります。
特例の適用を受けられれば、譲渡所得の金額から最高3,000万円まで控除でき、譲渡所得税の負担を軽減できる制度です。
適用対象となる具体的な「家」と「売却」の条件を以下で説明します。
参照:No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例(国税庁)
適用対象となる家の条件
適用対象となる家は、相続開始時点で被相続人が住んでおり、以下3つの要件をすべて満たす必要があります。
- 1981年5月31日以前に建築されたこと
- 区分所有建物登記がされている建物でないこと
- 相続開始直前に、被相続人以外の居住者がいなかったこと
「区分所有建物登記」とは、大まかにいえば「マンション・アパートでないこと」と考えて差し支えありません。
また、被相続人が老人ホームに入所していて、相続開始直前には住んでいなかった場合でも、一定の要件を満たすことで、税の優遇措置を受けられる可能性があります。
適用対象となる売却条件
税の優遇措置を受けるには売却にも条件が定められています。
その主な条件は以下のとおりです。
- 相続が発生したときから売却するまでの間に事業用・貸付用・居住用として利用していないこと
- 引き渡し時には一定の耐震基準を満たしていること
- 相続開始日から3年を経過する日が属する年の12月31日までに売却すること
- 売却価格が1億円以下であること
- 親子や夫婦など特別な関係がある人への売却ではないこと
特例の適用を受けるには、必要なすべての要件を満たし、多くの提出書類を準備する必要があります。
そのため、ここでは「優遇措置がある」という認識にとどめ、「自分が売却するケースでは適用されるか」「どうすれば適用を受けられるか」などの詳細は所轄の税務署や専門家の税理士へ相談してください。
まとめ
築50年超の家を売却する際には、基本的に「建物の価値はゼロ」と考えてください。
一方で、家として十分な機能を果たしていたり、古民家として歴史的・文化的価値が認められていれば、家にも価格は付きます。
個々の状況によりますので「中古住宅」として売り出すか「土地のみ(古家付き)」として売り出すかは、不動産会社に相談しながら決めるとよいでしょう。
また、相続で築50年超の家を取得して売却する場合には、税の優遇措置を受けられる可能性があります。
税負担を大きく軽減できるので、適用条件をしっかりと確認しておくことをおすすめします。